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20000803 巧克力

 先日の話題$${^{*1}}$$で「巧克力」はサプライズの音訳ではないかと書いたら、ある読者の方から、それは「チョコレート」という意味ではないかと指摘された。「巧克力$${^{*2}}$$」はチョコレートの音訳で、読み方は「チャオクーリー」らしい。見当違いなことを書いていた。

 中国では基本的に外来語を意訳$${^{*3}}$$しているらしいが、最近は音訳$${^{*4}}$$がかなり増えてきているらしい。中国語において音訳をする場合、この音にはこの漢字という目安があるのだろうか。漢字は表意文字なので、純粋に音だけを使ってある言葉を表していても、漢字自体の意味が目に飛び込んで来てしまう。すんなりと意味が頭に入ってこないような気がする。もしかしたら中国語を使う人は、中国語にない漢字の配列であると思った瞬間に外国語の固有名詞の音訳としてその漢字が表音文字に見えてくるかもしれない。

 文字の歴史からすれば、まず表意文字が発明され文化の発達により語彙が増加すれば、単語と文字の一対一対応は書き言葉自体がどんどん煩雑になってしまうので表音文字が必然的に発生してきたのであろう。ギリシャ文字やローマ字$${^{*5}}$$も起源は表意文字のエジプト文字である。ただし朝鮮語で用いられる表音文字のハングルは自然発生的に出来たのではなく、その起源も漢字ではない$${^{*6}}$$ようである。

 日本語はもともと中国語の文字の漢字でそれを表記する方法を採用した。漢字で日本語を書くということは、中国語からみれば文章の殆どが外来語で構成されているようなものである。万葉仮名$${^{*7}}$$では漢字の意味がちらついて不便だったのかも知れない。万葉仮名が基となって表音文字である平仮名や片仮名が生まれた。

 中国語では日本語のような表音文字が発明されなかったのは何故だろう。中国語は様々な言葉を表すのに音をそのまま文字で表すという方法を採らず、既存の文字の組み合わせで新しい文字を作りだし、新しい言葉に対応していくという方法が採られた。シュメール人の楔形文字やエジプト文字でも組み合わせで新しい言葉の意味を表すという方法が採られたが、この方法は漢字ほど発達しなかった。漢字においてはこの方法が高度に発達したので表、音文字の出る幕がなくなってしまったのかも知れない。文字はそれが発明された言語で当然ながら柔軟に対応できる筈だが、外来の文化に対しては必ずしも迅速な対応は難しい。既存の表意文字ではもともとその言語にない概念を表すことは「表意」である以上出来ない。新しい概念や言葉があるのにそれを表す文字が出来上がるまで暫く時間がかかっていては不便で仕方がない。

 こうして考えると表音文字は外来文化の作用によって出来てきたような気がしてきた。確かにローマ字にしても平仮名にしても起源の文字の発祥地とは違う場所で発明されている。もしかしたら中国語で表音専用文字が出来なかったのは中華思想$${^{*8}}$$も関係しているのかも知れない。

*1 20000801 キンダーサプライズ
*2 「漢語」とは何?
*3 Mainichi INTERACTIVE コンピューティング
*4 20000327 音訳
*5 20000522 母音
*6 訓民正音 日本語訳
*7 万葉-平仮名相互変換用辞書『ますらを』『たをやめ』
*8 劣等感の生み出した誇大妄想~「中華思想」の真相

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