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20090707 ラーメンを食べるときの作法

白虹飯店$${^{*1}}$$は夜遅くまでやっていた。友人と麻雀などをやって帰ってくると家の近くの飯屋でやっているのはここぐらいだった。この店は夫婦が営んでいる。主人はかなりやせ細っていた。店に入ると、大抵、誰もおらず客は自分一人なので、主人がやせ細っているのは栄養失調のためだと勝手に考えていた。この入りでは、いつ店が潰れてもおかしくはないと思っていたが、なかなか潰れなかった。固定客がいるのだろう。レバニラ炒めが物凄く美味いので、もしかしたら他の料理も絶品だったのかも知れない。自分には金がなかったので、レバニラ炒め以上の定食は殆ど食べられなかった。だから判らない。

 ある日ラーメンを頼んだ。ここのラーメンは大したことはない。私にとって麺が軟らか過ぎる。ただし、汁と叉焼は美味い。叉焼は美味いが、小さい。直径4cm厚さ3mm程度のものが三、四枚入っているだけだった。叉焼は麺を食べてから最後に食べるのが作法である。美味いからと言って先に食べるのは子供のやることだ。麺と合わせて食べるなど以ての外。汁を良く染み込ませてから最後に食べる。汁をしみ込ませて食べる流儀は伊丹十三監督作品「たんぽぽ$${^{*2}}$$」でも語られている。

 作法に従って麺をすすっていると、汁の中から死んだゴキブリが出てきた。小型のゴキブリである。チャバネゴキブリ$${^{*3}}$$だった。何故か驚きはしなかった。結構、冷静に「まいったなぁ」と思っただけだった。直ぐに店主に文句を言おうと思ったが、まだ叉焼が残っている。怒るのはこれを食べてからだ、と思いゴキブリが汁に入った状態で叉焼を箸で掴み、口に運んで味わった。食べ終わった後、おもむろに丼を差し出し「あのう、これ、ゴキブリが・・・」と言うと、主人は血相を変えて「済みません。すぐ作り直します」と言いながらゴキブリが入った丼を下げてしまった。

 叉焼を食べておいたのは、正しかったと思いながら、また叉焼が食べられるなと期待しながら作り直しのラーメンを待った。二杯目のラーメンが出てきた。同じ作法で叉焼を汁の中に沈め、麺を先にすする。何度かすすっているとまたもやゴキブリが出てきた。こんな漫画の世界でしか起こらないようなことが現実でも起こり得るのかと思った。

 ゴキブリが二度も出てきては、流石に喰う気が失せてしまった。後で食べるつもりの叉焼も残して、何も言わずに勘定を払って店を出た。

 暫くその店に行かなかったが、ニラレバ炒めの味が忘れられないため、また行き出した。しかしラーメンを注文することはなくなった。

*1 20090706 日暈
*2 タンポポ - goo 映画
*3 チャバネゴキブリ (社)農林水産技術情報協会

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