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20001031 科学技術界の先祖返り

 トランジスタが発明$${^{*1}}$$される前は電気信号の増幅には真空管$${^{*2}}$$が使われていた。ショックレーらのトランジスタの発明に伴い、真空管はどんどんトランジスタ$${^{*3}}$$に入れ替わっていった。

 真空管$${^{*4}}$$は真空または気体中の電子放電現象を利用した電子素子である。電子を放出する機構と放電によって発生する電流を制御する機構とで構成される。真空にしたガラスの中にこれらの機構を閉じこめなければならないので、真空管を小さくする$${^{*5}}$$のはなかなか大変であった。またフィラメントを熱することによって電子を放出していたので真空管をどんどん小さくすると、フィラメントの熱がこもってしまい真空管の機能が著しく低下してしまう。

 真空管の代わりに発明されたトランジスタは固体電子素子なので電子を真空中に放出する機構を持つ必要がなくなった。従ってフィラメントがない。真空やフィラメントが必要ないので発明当初からトランジスタは真空管よりもかなり小さくなっていった$${^{*6}}$$。原理的に熱や真空の制限がないので製造技術さえあれば極限まで小さくすることが出来る。
 トランジスタはシリコンやゲルマニウムなどの様に混入している不純物成分のほんのちょっとした違いで電気的特性の大きく異なる固体で構成されているので、シリコンやゲルマニウムの板に部分的に種類の違う不純物を入れてやればトランジスタを作ることができる。これをプレーナ技術$${^{*7}}$$という。この技術と板の上でそれぞれのトランジスタを電気的に分離する技術及び結線する技術とが融合してIC集積回路が出来るようになり、更にフォトリソグラフィ技術$${^{*8}}$$と微細エッチング技術との発達によってLSI大規模集積回路へと発展していった。

 このLSI製造技術の発達で超微細構造を大量に同時に作ることができるようになった。これを利用して小さなモーター$${^{*9}}$$や歯車$${^{*10}}$$を作る試みが為された。そして、この技術で小さな真空管を作る$${^{*11}}$$試みもなされた。

 真空管の大きさや信頼性の低さがトランジスタの発明のきっかけとなったのであるが、そのトランジスタの製造技術を利用して真空管$${^{*12}}$$を作る。科学技術界の先祖返りである。

*1 20001001 トランジスタ
*2 真空管
*3 Transistor radio mini-history
*4 初歩のラジオ実験室ホームページ 真空管について
*5 古典真空管グラフ 一般MT管 #1
*6 Transistor.jpg
*7 東京応化工業・採用のご案内・LSIのできるまで
*8 ようこそ、ここは半導体のページです パターン形成
*9 henning8.gif
*10 henning1.gif
*11 MOSトランジスタ構造の高安定・定電流型真空マイクロ素子の開発に成功
*12 TOSHIBA REVIEW (fc01z3_j.htm '97.6.10)

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