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日記

不思議な街まで行ってきた。

小鳥が家を売っていたり、
真っ白な店構えでお醤油を売っていたり、
駅前の商店街からして、ちょっとだけ位相がお伽話側にズレたような街だった。

虹を買いに行く。

この駅までやってきた理由もお伽話じみていたから、店番の小鳥と目が合っても不気味には感じず、むしろ、そうこなくっちゃとワクワクした気持ちが膨らんだ。
手元の地図を見る。
すぐそこの角を曲がればお目当ての店があるらしい。
どんなお店だろう。さっきの醤油屋と同じ様な真っ白な店に、虹がかかっているのかしら。

果たして、予想は裏切られた。
そこは、お店というよりは、昭和レトロな日本家屋で、サザエさんの家をリアルにしたようでもあった。
中は全く見えないが、看板は出ていたので、ここで間違いはないようだった。

アポなしで友達の家に来てしまったような気持ちで、店の引き戸に手をかける。
中は見えないけど、人の気配、あたたかさが外まで伝わってきた。
ガラリとあける。

ーーごめんください。
--いらっしゃいませ。

店内は、外観から想像していた通りの木造家屋の中にケーキ屋が瞬間移動してきたような不思議な作りだった。

三和土はあるのだが、その三和土を上がってすぐの場所に、年季の入ったショーケースが鎮座していた。
ショーケースの奥には台所があるらしい。キッチンではなく、台所。
何人かテキパキと働いている人が見えた。
三和土、ショーケース、台所がお店の右半分とすると、左半分は広いイートインスペースになっているようだった。

おそるおそる三和土を上がる。
思ったよりも高いその一段を上がると、ショーケースの中が見えた。見えた途端、その中身に目を奪われる。

ケースに内接された蛍光灯が、色鮮やかなケーキを意味ありげに照らしていた。

虹色のケーキだった。

本当に売っていたなんて、夢みたい。
まさしく、空にかかる七色の虹を、そっくりそのまま切り取ってきたようなケーキだった。
どんな味がするんだろう。
食べたら願いが叶いそうだな。

ーーどちらになさいますか?

と、ショーケースの向こうから声をかけられて我に返る。
え、どちらになさいますって、どういうこと?
そう思いながらケースを見直すと、虹色のケーキ以外にもいくつかのケーキが並んでいたのだった。

薔薇の花が添えられたお姫様みたいなもものや、味の想像ができない不思議な色のものまであったが、
やはり、ショーケースの中央で燦然と輝いている虹色の物体に目がいってしまう。

ーーあの、この虹色のやつを。
ーーかしこまりました。

注文をしてやっと一息つく。包んでもらっている間に店内を見回す。
イートインスペースは満席に近かったが、騒々しすぎることもなく、それぞれがケーキを楽しんでいるようだった。
ここで虹を食べるのは、どんな気分だろう。
お伽話の主人公にでもなれそうだ。

ーーありがとうございました・・・。

また、お伽の国が混じったような商店街を抜け、駅まで戻る。
戻る時は、心なしか足早になった。
なんとなく、夢から醒めてしまいそうな気がしたのだ。

電車に乗ったところで、少し、現実感が戻ってきた。この電車は、自分の街と繋がっている。
現実世界と繋がっているのだ。

虹のかけらが入った箱はしかし、消えずにちゃんと手中にあった。
ずっしりと、食べ応えのありそうな重みが返ってくる。

どんなお願い事をしながら食べようかな。
そう考えながら、自分の街まで帰っていった。

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