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Amazon, Google, Facebookは分割されるべきなのか?

2020年の米国大統領選挙に民主党から立候補を表明しているElizabeth Warren上院議員の提案が議論を呼んでいる。

ブログポストとして上げられたこの提案では、Amazon、Google、Facebookのように力を持ちすぎてしまったにも関わらず現行の独禁法では手をつけることが出来ていないテック企業3社の分割を可能にする新たな法律を提案している。

さて今回の提案、2020年の大統領選挙に向けて盛んに議論がされることになると思われるが、ちょっとここでコトの本質を考えてみたい。

Amazon、Google、Facebookはイノベーションを阻害しているのか?

Warren上院議員が指摘しているのは、彼らが現在の強い立場を利用して競争を排除するようなことをしているために、イノベーションが阻害されているという点だ。

例えばAmazonの場合、Amazon Marketplaceに出品している中小のベンダーの商品がよく売れるとわかると、Amazonは自社ブランドで模倣品を作ってそれが優先的に売れるような操作をしたりする。

Googleの場合、レストランのサーチ結果の上位にGoogle自身による評価を表示し、Yelpなど競合のランクを下げていたというような行為だ。

彼らの買収行為も問題にしている。AmazonによるWhole Foods・Zapposの買収、GoogleによるDoubleClick・Waze・Nestの買収、FacebookによるWhatsApp・Instagramの買収が例として挙げられている。

こうした買収により市場での健全な競争が阻害され、彼らがその強い立場に胡坐をかくようになり、だからFacebookなどはロシアから選挙を乗っ取られるような行為をされても、個人のプライバシーを侵害するようなことをしても平気なのだ、という主張だ。

もう一点は彼らがその強い立場を利用してスタートアップが競争できない環境を作ってしまっているせいでVCがアーリーステージのスタートアップへの投資を控えるようになってしまい、実際に投資が減ってきているという指摘。

だがこれらの指摘は本当に本質を捉えているのだろうか?

まずはこの3社を擁護する立場から考えてみる。

いち消費者として、Amazon、Google、Facebookには大変お世話になっている。Amazonのおかげて買い物はとても便利になったし、Googleのおかげて世の中の情報へのアクセスは一気に高まったし、Facebookのおかげでアメリカにいても日本の家族や友人の近況が手に取るようにわかる。

彼らが今日のポジションを築いたのは間違いなくテクノロジーでイノベーションを起こしたからであり、消費者に支持されるプロダクト・サービスを作り上げ、そして継続的に改良を続けてきた努力の結晶である。それ自体は批判されるべきことではなく、むしろ奨励すべきことだ。インターネット後の産業においてアメリカが世界のリーダーとして君臨することができている最大の功労者が彼らであり、これを否定するのはむしろ近代のアメリカの経済発展そのものを否定することにもなる。

彼らが独占企業だという点にも議論の余地はある。AmazonはEコマースでは50%のシェアを持っているかもしれないが、小売り全体ではまだ5%程度。しかもAmazonの現在の利益の源泉は小売り部門ではなく、ウェブサービスの方だ。

Googleは検索では独占的な立場にあるかもしれないが、利益の源泉となっているネット広告ビジネスに関してはFacebook、Amazonが追い上げてきており、独占と言えるものではないだろう。

その昔MicrosoftがWindowsにおいて独禁法で提訴されたことがあったが、当時Windowsのマーケットシェアは90%を超えており、こうした独占状態とは程遠いと言っていい。

アーリーステージのVC投資が減ってきているという指摘に至っては、これはもう的外れと言ってもいい。これはこの3社が競争を阻害しているからではなく、むしろAmazon(やGoogle)が提供するウェブサービスのおかげでスタートアップの開業コストが圧倒的に安くなり、昔は必要とされていたシード投資による設備投資コストがほぼなくなったことが理由だろう。これによってより多くのスタートアップが出てくる一方で、投資家側は初期投資をしなくてもある程度の見極めができるようになり、よりトラクションのある強いスタートアップにまとまったお金を入れる傾向が強まってきているだけである。

買収行為に関しては確かにFacebookはSNSの世界で力を持ち過ぎているかもしれないが、AmazonやGoogleの買収に関しては競争を阻害するような行為であるとは思えない。例えばAmazonとWhole Foodsはまったく競合ではなかった。

では何か問題なのか?

ここで一つ指摘すべきは、最近は巨大テック企業4社を合わせてGAFAと呼ばれるその一角であるAppleが標的になっていないことである。

これはおそらくAppleのビジネスがiPhone以外では脅威ではなく、iPhoneそのものも市場シェアではAndroidよりも下であり独占的ではないことというのもあるのかもしれないが、おそらく一番の理由は特に最近Facebookが批判されているプライバシーの議論においてAppleは消費者を保護しているという点で優等生とみなされているからなのではないか。

アメリカにおけるここ数年のFacebookへの風当たりの強さはおそらく日本のみなさんが感じている以上で、CEOのMark Zuckerbergだけでなく、ちょっと前までは女性幹部として優等生的な扱いをされていたSheryl Sandbergまでも今やかなりの悪者扱いだ。

Amazonに関しては最近のホットな話題は第2本社のロケーション探しにおいて候補地の自治体から巨額の税制上のインセンティブを得ようとしている話や、利益を上げているにもかかわらず連邦税を全く納めておらず、むしろ還付金をもらっていたことがやり玉に挙がっていたりしたのである。

そう、何が言いたいのかというと、このコトの本質は大衆に嫌われている会社をいじめる提案をすることで、選挙に向けて大衆を味方につけたかっただけ、ということなのではないか。

個人的にElizabeth Warrenは嫌いではないし、彼女の提案がまったくおかしいというわけではないのだが、このタイミングと、あまりにも表層的な提案を見るとあまりにも政治的な匂いがしてしまって腹落ちがしないのだ。

Facebookのプライバシーに関するスタンスは当然改められるべきだし、利益を出している会社は税金を払うべきというのにも賛成はするが、イノベーションの本質が問われるような問題に政治的な都合で介入するのはちょっといただけない。ここは本質的な議論が健全にされることを望みたい。

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