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何度でも帰りたくなる本 #推薦図書

何度でも帰りたくなる本。
早く家に帰って読みたくなる本、という意味ではなく。

1冊の本がつくりだす世界のもとへ帰りたくなる瞬間、
その瞬間を生み出す源となってくれる本のことである。

「帰りたくなる」とは、
‟面白かったから、また戻って読み返してみよう”
とは少し違う感情だ。

決して何もかも上手くいってない訳じゃないのに、やるせなかったり。
毎日不自由なく生きているのに、どこか違和感を感じたり。
とっても上手くいってるはずなのに、何故か不安になったり。

そんな時私は、本が創り出してくれた世界へ帰省する。

面白さを求めている訳でも、
知識を求めている訳でも、
答を求めている訳でもなしに、
ただその奇妙に懐かしさを覚える世界に腰掛けたくなる。

そこでは
新しいことを発見出来たり、出来なかったり。
自分の人生を振り返ったり振り返らなかったり。
良い意味で本に対して「期待」しない空間に身を置くことに底知れぬ安心感を覚える。

今じゃ世の中には
生きる上で必要な事柄を知っておけ、だとか
成功するにはこうしろ、だとか
あらゆる知識本で溢れかえっている。

実際、現実ではお金やら地位やら法律やらが複雑に絡んでくる世界をしっかり歩んでいかなければならないので
そういった本は本当に大切だ。
知恵を貸してくれる筆者に感謝だ。

でも、私が本を推薦するならば
現実(=人生)のためになる本ではなく
自分にとってためになる本を勧めたいなと、思う。
「こうなりたいから」と先へ先へと進ませ、期待を高める本ではなく
「こうであるんだ」といつでも素な心で帰ってこられる居場所のある本。

良い意味で、「期待」をさせない本。

私にとっての帰りたくなる本を推薦することによって、
誰かの帰りたくなる本のことを知れたらと思う。

#推薦図書

サン・テグジュペリ 『星の王子さま』
”人生、うまくいってる!”と感じた時に読む本。
成功に、勝敗に、自分のことにしか目が向いていなくて、
根本的なやさしさを失っていないか。
自分自身を客観視するために。
  
個人的には、光文社からでている
「ちいさな王子」の翻訳がお勧め。

 
②トーマス・マン 『トニオ・クレーゲル』
自分が見えなくなった時に読む本。
白と黒、あっちとこっち、正と悪。
あれ、何が正解だったんだっけ、
私ってどんな基準を持ってる人間なんだっけ。
明確な境界線を引くことが、必ずしも美しいことではないということ。

③吉本ばなな 『キッチン』
”私は1人でも生きていけるくらい、強い!”と思った時に読む本。
自分の中の1番脆い部分を共有することが、
自分にとっても誰かにとっても救いになる時がある。
こちらも②と同様、世の中のキマリゴトに沿って生きることが
常に正しいわけではないと気付かせてくれる。

④小澤征良 『しずかの朝』
やるせなさに圧倒されそうになった時に読む本。 
他人と自分を無意識に比べてしまったり、
自分の運を呪ったり
自分の性格にうんざりしたり。
日々の少しずつのやるせなさは、
日々を少しずつ丁寧に生きていくことで様変わりしてゆく。
①とはまたひとあじ違う、なんともない日常の美しさ。

⑤恩田陸 『ライオンハート』
大切なはずの人を愛することが困難になった時に読む本。
純真に、切なく、時には悲しみを予見しながらでも
人を愛そうとする意思。
誰かを愛そうとする努力がもたらす力を、信じてみたくなる。
切なくてあたたかいファンタジー

歴史の勉強にもなるし、挿入されている絵画と物語との繋がりや
数々の年代を行き交う伏線など、ストーリー展開が複雑ながらも
とても素晴らしい一冊。

上に挙げた5冊は、
新しい本の新しい世界へ踏み入れる高揚感(私にとっては)も
現実の世界を生き抜くための明確な指南もない。

だけど、期待することも身構えることもない。
素っ裸の心で表紙を開き、
ページをめくるごとに心地良い安堵と奇妙な懐かしさに包まれる。
いつでも、どんな時にも、満足しながら読み続けることが出来る本こそが、私にとっての
#推薦図書



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