未経験なのに10万円超えのギターを購入するまでの３週間①～たまたまギター演奏を聴く～

その日は夜から予定があった。雲一つない快晴で快適な日。

早く外に出たくてしょうがなかった。
予定の10時間前に家を出て、向かう電車に乗り、
予定地周辺を散歩することにした。

ぶらぶら歩いていると、にぎやかな場所があった。
そこは市民祭りの会場で、屋台が並んでいた。
美味しそうな焼きそば、たこ焼き、ビールを横目に歩いていると

「ギターコンサート無料で入れま～す！」
という声が聞こえてきた。

無料なら、、と
中高生の合唱コンクールでも使用される
座席数が1,000席ほどのコンサートホールに入る。

私は真ん中より少し後ろの列に座った。

幕が開くと、
指揮者が立ってこちらを向いており

その後ろに40名ほどが
ウクレレサイズからジャンボサイズのギターを手に構えて
座っていた。
これはクラシックギターのコンサートだったのだ。

初めの挨拶が終わり
「では、一曲目をお聞きください」と演奏が始まる。
一曲目は、ピアノでしか聴いたことはないが、誰もが聴いたことのある名曲だった。
クラシックギターバージョンは、ピアノよりもさらに優しい響きとなって耳に届く。音色がとても心地よい。

ミニギターの、高く聴こえの良いメロディーと
ジャンボサイズのギターが生み出す低く支えとなる音。

混ざり合って深みが出る、鰹と昆布の混合だしのよう。

頭を空っぽにし、音に身を委ねていたら
気づけば指揮者が両手を上に、拳をぎゅっと握っていた。
素晴らしかった。

以降の曲は市民祭りの一環ということもあり、
童謡やアニメ主題歌など、子供に馴染みのある曲が多かった。

「森のくまさん」が始まった。
リラックスして、懐かしいなぁとか思いながら聴けると思っていた。

演奏が始まると、赤い衣装を着た三つ編みの大人が出てきた。
そう。
演奏に合わせて演劇が始まったのだ。
ギター演奏とともに、お嬢さんが歌い、クマも出てきた。
演奏が少し緊迫感のあるモノに変わったところで

お嬢さんがクマを追い払う方法を考える。

「あ！大きな音でびっくりさせればいいんだわ！
ギターがいっぱいあるし、大きな声を出してくれそうな人もいっぱいいる！手伝ってくれるかな～？？」
観ていたこどもたち「は～い！！！」
と大きな声で返事をした。

お嬢さんの「せ～の！」の合図で
ギターと子供が一斉に大きな音を出すと、クマが逃げていく。

ギターの伴奏が明るくなり、
徐々に童謡通りの演奏に戻り、歌とともに１番で終わる。

子供が楽しめるように、
ギターを音楽という知識や技術を問うものではなく
根幹の「音」として扱う。
内心スタンディングオベーションものだった。

続いては「はたらくくるま」という曲。
歌詞に業務用車両がたくさん出てくる歌である。

いざ始まると、慌ただしかった。
なぜなら歌詞に出てくる車の型紙を持ち、
その作業服の衣装を身にまとった大人が、ステージ上をダッシュで横切っていくからだ。
しかも役者2人で12台分。
10秒ほどで横切り、もう一人が出ている間の10秒ほどで着替え、また出てくるのだ。

慌ただしかった。

けれど

それを見ていたら、なぜだか涙が溢れてきた。

子供の笑顔のために必死になる大人。最高すぎじゃん。
かっこよすぎるでしょ。

その後いくつか演奏演劇があり、終演した。

最後のアナウンスで、内容は少し変更するが
1時間30分後にもう一公演あるとのこと。

もちろん行くことにした。
次は最前列の一番右側に着席。
ステージに対して少し斜めの席で、全体がよく見えた。

特に指揮者が目に入るようになった。

体を揺らし、時に大きく、時に小さく、腕全体で表現している。
ウクレレからジャンボギターの個性を充分に発揮させるため

君は今！ここは我慢して～！と

楽器ごとに視線を送り、手で煽ったり、抑えたり、
楽器と譜面を熟知しているからこそできる指揮。

そんな人物になりたいと思った。
起業家やビジネスマンではなく、
指揮者に、心のロールモデルが見つかるかもしれないと思った。

加えて、気持ちはギターへの憧れでも高まっていた。

演奏者の方々の、
こいつがあれば俺は/私はどこででも大丈夫と言えるような。
そんな楽しさや自信を感じた。
グランドピアノと違い、持ち運べるからこその良さ。
木の箱と弦というありのままの構造。
等身大の音を出す楽器。

公演後、近くの楽器屋さんをマップアプリで調べ行くことにした。

次回へ続く。