話が通じたよろこび
こういうご時世ですから、ちょっと思い出したんですけど、ウイルスって、英語ではvirus、カタカナで発音を表せば、ヴァイレスでしょうか。
初めて海外に行って風邪気味になった時のこと。ステイ先の人から「ヴァイタミン、ヴァイタミン」と言われて、一瞬わからなかった。
だいたい学生時代に英語を勉強すると、ビデオとかビクトリーとか、vがbになっていて、こうしたカタカナや和製英語との発音のずれに気づく。私は間を置いて、
ああ、ビタミン(vitamin)ね!
とさとったのでした。
ある時は日本で、外国人から声をかけられて「たっぷろこっーとぅからきました」と言われました。どこ? と一瞬思ったわけですが、1秒ほどのラグで、
ああ、タプローコート(Taplow Court、イングランドにある地名)ね!
こうした、外国人と簡単な話でも通じた時の喜びは、忘れられません。
それで、お題の #推薦図書 ですが、劇作家・平田オリザさんの『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書)に、この喜びについて書いてくれていました。
私はコミュニケーションの難しさと楽しさは、存外、そんなところにあると思っている。存外、その程度だと思っている。本書では、この「その程度のこと」を、長々と書き連ねていきたいと思っている。(「まえがき」より)
ロングセラーで有名ですが、読み直したい一冊。もう一節引用してみました。
……「伝える技術」をどれだけ教え込もうとしたところで、「伝えたい」という気持ちが子どもの側にないのなら、その技術は定着していかない。では、その「伝えたい」という気持ちはどこから来るのだろう。私は、それは、「伝わらない」という経験からしか来ないのではないかと思う。
いまの子どもたちには、この「伝わらない」という経験が、決定的に不足しているのだ。……この問題意識を前提とせずに、しゃかりきになって「表現だ!」「コミュニケーションだ!」と叫んだところで意味はない。(前掲書)
私がnoteをやり始めたのも、こういう経験からかもしれない。■
写真は「ジーニアス英和辞典」