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映画評「アド・アストラ」

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「アド・アストラ」、2019年、123分

※偏愛、と言っていいほど気に入ったので、とりとめなく書きます。ネタバレ注意。

特に前半の1時間、基本的には全編に渡って、私が個人的に感激しながら観ることができたのは、ジェームズ・グレイ監督の前作である、「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」を鑑賞済みだったことに因るところが、大きい。

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「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」、2016年、140分

アマゾン奥地に眠るという伝説の古代都市を探し続けた探検家パーシー・フォーセットの人生を描くアドベンチャー(Yahoo!映画内作品ページ「解説」より)

てことにはなってるんですけど、相当曲者な映画でして。

「ロスト・シティ」「Z」「失われた」「黄金都市」ですよ。

私は、「ハムナプトラ」✖︎「トゥーム・レイダー」✖︎実話ベース みたいな、スペクタルアドベンチャーを期待していたんですけど、全っ然そんなことありませんで、詩的というか文学的というかテレンス・マリック的というか、冒険譚ではなく、大変に地味な作品だったのでした。
冒険 = 活劇ではない、冒険家の物語というか。
極論、別に冒険家の話である必要もなくて、故郷から遠く離れて、訳わかんない土地に来てようやく、傍にある大切なものに気付く話というか。

「ロスト・シティZ」自体は、気に入った作品ということでもなかったのですが、妙に心に引っかかり続ける映画だった。

「ロスト・シティZ」は、ブラッド・ピットの製作会社「PLAN  B」の製作でして、本作「アド・アストラ」も、「PLAN  B」製作、同じ座組みとなっています。
つまり、「アド・アストラ」は、「ロスト・シティZ」の製作陣が贈る〜作品なわけです。

この、心の準備が、「アド・アストラ」鑑賞にあたって、功を奏しました。

ブラッド・ピット主演で贈る衝撃のスペース・アクション超大作
宇宙に消えた父の<謎>を解かなければ、人類は滅びる——

「アド・アストラ」公式HPより

これも、「ということになってる」ってだけだろ?と、身構えられたわけです。

予告編映えする、冒頭の成層圏まで突き出した宇宙アンテナからの落下シーンとか、序盤の月面での探査車チェイスとか、アクションシーンが一応用意はされているんですけど、カタルシスは排除した演出になっている。

「ゼロ・グラビティ」や「アルマゲドン」のように、はしゃいだ感じが全くない。

主人公(ブラッド・ピット)はひたすら物悲しく独白を繰り返し、取り憑かれたように地球→月→火星→海王星付近へと、移動をする。

なんでしょうね。

主人公は、怖じることのない宇宙軍少佐という肩書で、能力にも申し分のない。そして任務を与えられ、ときに積極的に事態を解決しながら前進していくのですが、まるで爽快感がないのです。
積極的消極姿勢というのか・・・。

でも、私は、前述のように、ほぼ全編にわたって、心を揺さぶられていました。

それは、「ロスト・シティZ」と、同じことを宇宙という舞台でやっていたからです。ここまで、「(宇宙という)舞台を借りてるだけ」な構成も珍しい。

「未知の世界を開拓するとき、人間は」

下手すればただの二番煎じなのですが、素晴らしい映像表現と劇伴により、飽きは感じさせない。

そうしているうちに、これはただの考えすぎなはずですが、
「ロスト・シティZ」の主人公と、「アド・アストラ」の主人公。
もしかして、手塚治虫の「火の鳥」のように、同じ輪廻にいる魂なのではないか。

そう解釈してしまい、地味(といっても、製作予算9000万ドル!)で、なんなら眠たくなるような展開が多いのに、見入ってしまいました。

「地獄の黙示録」「2001年宇宙の旅」に連なる作品として解釈したり、
下敷きになっている「闇の奥」と比較したり、
「オデュッセイア」の現代版として考察したり、
そういう難しいこともできるようなのですが、それは私の能力を超えてしまっているので、無視。

これから何百年経って、技術がめちゃくちゃ進歩して、宇宙に進出しても、人間ってのは、未知なものに出会ったら、自分の矮小さを自覚し、恥入り、ときに狂ったりしながら、神に祈るのかもしれん。

その雰囲気が好き過ぎたので、細かいことはもうよくわからん。

「ロスト・シティZ」とセットで、たまに見返しながら、愛し続けていきたい映画だなと思っております。

「おすすめの映画ある?」
「アド・アストラかなー。あ、万人受けはしないと思うし、多分つまんないって言うと思うんだけど、俺は好きなんだよなー」

と、自分がドヤってる姿が目に浮かぶ。


追伸

予告編は、作品そのものとは、全く別の方向に期待させる作りになっているので、鑑賞前は見ないほうが良い。
観賞後に見ると、広報部の苦悩を感じるようで、面白い。


参考


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