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「もののけ姫」を語りたい・その1 : アシタカについて

一番好きな映画は?
と聞かれたら、
「もののけ姫」
と答えるようにしている。

マイナーな映画を答えるより、一周回って感がかっこいいんじゃないか。
という邪な気持ちもあるが、実際好きだ、「もののけ姫」。

でも、よくよく考えると、何が好きなのか、言葉にできない。

それを、言葉にしてみるシリーズ。まとまりがなかったら、すみません。
不定期更新。

目的:「なぜ自分が『もののけ姫』が好きなのかを言語化する」

ルール:「裏設定では〜」という語りは、あまりしない。
(調べたりはするけど)
あくまで映画で読み取れる範囲内で、語ってみる。

今日の議題は、「アシタカ」について

ジブリ屈指のいい男、アシタカ

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本名「アシタカヒコ」。
蝦夷(エミシ)の末裔。次期族長のはずだったが、タタリ神の呪いを受け、村を追放されることに。

熱い男である。
実はこのアシタカ、意外と「成長をしない」キャラクターなのでは。
映画の始まりから終わりまで、アシタカは一貫している。成熟している、とも言い換えられる。
彼の行動原理は、「命を大切にする」こと。
ただし、「不殺の誓い」などではない。
結構、躊躇なく殺す。バンバン殺す。
殺しつつ、思い悩む。「争いのない道はないのか!」
悩んではいるが ー 。迷ってはいない。
悩むが、迷わない。
これが、アシタカの変わったところであり、この雰囲気こそ、タタラ場の女衆から、「いい男じゃなーい」と囃される所以ではなかろうか。

ちなみに・・・。
タタラ場の女衆が製鉄をするところを、アシタカが見学にくるシーン。
今まで頓着していなかったのに、急にはだけた胸元や生足を恥ずかしがる女衆。エロい。こういうディテールが、宮崎駿の変態性である。

「押し通る!」

アシタカの名台詞
「押し通る!」

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会話も対話も交渉も、重要だと考えている。

だが、時間は限られているし(という舞台装置もこの物語の肝だが)、延々と話している暇はない。
というか、アシタカは、話をすることは好むが、あまり自説を曲げる気はないようである。なんなら、説得する気も、実はそんなにない。

アシタカは、何か正解を求めている・答えを教えてほしいというよりも、「一緒に悩んでほしい」と思っているのではないだろうか。

旅の中でアシタカが出会う人々・神々は、悩まない者ばかりだ。

ジコ坊、エボシ、サン、乙事主、モロ。
彼らは、迷ってはいるかもしれないが、悩んではいない。
それが、アシタカとの大きな違いである。
アシタカは、彼らから持論を聞かされるたびに、「それじゃ駄目なんじゃないだろうか」とのたまう。

一歩間違えれば、「こいつ何でも反対してるだけなんじゃね?」
霜降り明星・粗品でいうところの名ツッコミ「野党!」である。

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がしかし。
アシタカが野党と違う点は、対案を出すとかそういうレベルではなくて、
「納得いかないな。俺、勝手にやるわ」という精神である。

つまり、「押し通る!」
一度は使ってみたいよね。

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「邪魔するなとは言ったものの、あいつも自分の仕事を全うしてるだけだよね。悪いことしたな・・・」という後悔は、アシタカには無さそうだ。


これぞアシタカ節

わかりやすくアシタカ節が爆発しているのが、「黙れ小僧!」のくだり。

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少し長いが、引用。

アシタカ「モロ、森と人とが争わずに済む道は無いのか?本当にもう止められないのか?」
モロ「人間どもが集まっている。きゃつらの火がじきにここに届くだろう。」
アシタカ「サンをどうする気だ?あの子も道連れにするつもりか?」
モロ「いかにも人間らしい手前勝手な考えだな。サンは我が一族の娘だ。森と生き、森が死ぬ時は共に滅びる。」
アシタカ「あの子を解き放て!あの子は人間だぞ!」
モロ「黙れ小僧!お前にあの娘の不幸が癒せるのか?森を侵した人間が、我が牙を逃れるために投げてよこした赤子がサンだ!人間にもなれず、山犬にもなりきれぬ、哀れで醜い、かわいい我が娘だ!お前にサンを救えるか!?」
アシタカ「分からぬ…。だが共に生きることはできる!」
モロ「フハハハ!どうやって生きるのだ?サンと共に人間と戦うと言うのか?」
アシタカ「違う!それでは憎しみを増やすだけだ!」
モロ「小僧、もうお前にできる事は何もない。お前はじきに痣に食い殺される身だ。夜明けと共にここを立ち去れ。」

いいシーンだ・・・。
決定的に動き出した時局。止められない流れが動き出している。
明日には、どうなるにせよ、破局が待っている。
その前夜、それでも何とかして止めたいという思いが発露している、名シーン。

が、しかし。

「もののけ姫」を何回も見たり、シナリオを読んだりしながら、気付いたのだが・・・。

このやり取り、おかしくね!?
てか、会話になってなくね!?

モロの発言

「人間どもが集まっている。きゃつらの火がじきにここに届くだろう。」
「いかにも人間らしい手前勝手な考えだな。サンは我が一族の娘だ。森と生き、森が死ぬ時は共に滅びる。」
「黙れ小僧!お前にあの娘の不幸が癒せるのか?森を侵した人間が、我が牙を逃れるために投げてよこした赤子がサンだ!人間にもなれず、山犬にもなりきれぬ、哀れで醜い、かわいい我が娘だ!お前にサンを救えるか!?」
「フハハハ!どうやって生きるのだ?サンと共に人間と戦うと言うのか?」
「小僧、もうお前にできる事は何もない。お前はじきに痣に食い殺される身だ。夜明けと共にここを立ち去れ。」

アシタカの発言

「モロ、森と人とが争わずに済む道は無いのか?本当にもう止められないのか?」
「サンをどうする気だ?あの子も道連れにするつもりか?」
「あの子を解き放て!あの子は人間だぞ!」
「分からぬ…。だが共に生きることはできる!」
「違う!それでは憎しみを増やすだけだ!」

要は、
モロ:サンの話をしている。娘を助けたいと思っている。
アシタカ:森と人の話をしている

このギャップ。齟齬。

モロが、決定的な終局を迎えるだろう、明日の戦いのその前夜、アシタカに娘を託そうとしているのに、
アシタカは、そのかなーり手前、森と人の話をしている。

論点が違う。

アシタカ節の最たるものは、この会話の中でもここ

モロ「お前にサンを救えるか!?」
アシタカ「分からぬ…。だが共に生きることはできる!」

「分からぬ」だって!分からないんかい!

ひどくない?散々喧嘩しかけておいて、「分からぬ」って、ひどくないか!?

例えるなら、このシーンって、
モロ:娘を嫁にやろうとしている。娘には幸せになってほしい
アシタカ:家族の幸せなんか小さいものじゃなくて、地球全体の幸せを考えている。
みたいなもんで、論点が全然違うんですなぁ。

モロ:お前に娘が幸せにできるのか?
アシタカ:分からぬ!だが、ともに生きることはできる。

こんなやつに、娘は嫁にやれん。
口ごたえするから、「こいつ、なかなか見どころのある人間かも。娘のこと、幸せにできる?」って聞いたのに、
「分からぬ!」だもん。

アシタカ、頭でっかち。
「救えるように頑張ってみます!」とか言っておけば、また違った展開があったり、少なくともサンだけは確実に助けられるのに・・・。全く融通がきかない。

そりゃ、モロも高笑いするしかないのである。


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いったんまとめ

「悩んでるけど、迷ってはない」
「融通がきかない」
「押し通る」
これが、アシタカのたまらない魅力になっているのでないだろうか。
変なやつだ、アシタカ。

目的:「なぜ自分が『もののけ姫』が好きなのかを言語化する」
に向けて、今度は別軸で掘り下げていきたい。

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