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僕とタバコ

喫煙者にいいイメージがないのは、元来その通りである。
タバコなんてそこまで美味しくないし、美味しいもの食べた方がそりゃあ美味しい。あの煙の臭いは今でも慣れないし、風向きが悪いと目に入ってくる。さらに健康にはよくない。親が吸っていたが、吸い終わってから帰ってくるときの臭いが好きではなかった。
だから自分は吸わないだろう。心の中ではそう思っていた。

僕がタバコに出会ったきっかけは、友人に禁煙するから残りのタバコあげるよ、と言われたことがきっかけだ。半分押し付けなのだが。友人に吸い方を教えてもらい、そのまま家でも吸った。

MEVIUSのオプションパープル8mm。
親のタバコはあれだけ臭いので、えげつない味がすると思っていた。
ただ吸ってみれば、ベリーの味がして、案外美味しいな、と思った。落ち着くし、お酒の飲めない僕には嬉しかった。逃げ道が見つかった、と。
その時はそれだけで満足だった。
その後、親の吸っていたマルボロメンソールをしばらくふかして、気づいたらタバコからは離れていた。


タバコから離れている間に、人生丸々動くような出会いがあった。大好きだった。その子はタバコは好きじゃない、と言っていたのでやめて正解だと思った。

だが、別れはやってくる。人生そんなもんだ。
君のいない世界なんて、全てめちゃくちゃになればいいんだ。
そう思って、酒を浴びるように飲もうとした。だが、酒雑魚の僕は一口で飲む手が止まってしまった。むしゃくしゃした。
そして、近くのコンビニに走り、番号もわからないままレジを覗き、マルボロメンソールを買った。肺に入れ出したのも、そこからだったかな。


泣きながら吸った、マルボロメンソールは、とても苦かった。


こんなに苦いものだっけ、と、苦しくなった。

そこからタバコをやめられなくなった。

君の嫌いだったタバコの煙をふかしながら、君の好きだった三日月を見る。


僕はまだ、君に囚われている。


心も痛めつけて、体も痛めつけている、そんな道具。
早くやめてしまいたい、なんて思っている。

今日も肌寒くなった秋の夜風に吹かれて、手巻きの茶色いタバコを吸う。
君が僕の日常に残した痕跡を、空に飛ばしてしまうように、煙を吹く。

そして僕はこう言うんだ。


出会ってくれてありがとう。幸せになってね。



タバコだけが唯一の反抗。それ以外に嫌いなものなんてなかったはずだから。


そして僕は、灰皿にタバコを押し付ける。
一つの時間が終わる。一つの恋も終わる。


さよなら。元気でね。


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