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苗場の雨は冷たい風とともに

夏山で冷たい風が不意に頬を通り抜けたら、雨の気配。都会の生活では必要のない知恵だが、知っていると少し誇らしい気持ちになる。この類の学びはデジタル技術がどれだけ進歩しても実際に経験しないと身につくものではないだろう。わたしたちはそんな経験を1年分まとめて拾い集めるために苗場に集う。FUJI ROCK FESTIVAL。

いっそ音楽なんてどうでもいいのだ。誰が出演しようがどうでもいい。「FUJI ROCK FESTIVAL」を経験するために、苗場へ向かう。FESTIVALとはいっても楽しいばかりの祝祭ではない。むしろ、辛いことのほうが多いかもしれない。山の天気は変わりやすく、当然のように大雨が降る。もちろん虫だっているさ。テントに泊まるのか、民宿に泊まるのか、それとも苗場プリンスに泊まるのかによって不便の度合いは多少異なるものの、入場ゲートをくぐって苗場の森に足を踏み入れれば、皆平等。雨が降れば、もう降るにまかせる他ない。だからこそ、そこには連帯感も生まれる。いろいろなバックグラウンドの人々が不便さを分かち合い、そこに流れる音楽の振動を共有する。金曜日には他人だった隣のテントのおじさんも月曜の朝にはもう他人とは思えない。「昨日の雨すごかったですね」なんていう会話も街に戻れば、ていのよい雑談の話題だが苗場ではリアルな感情の共有になる。

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わたしたちは1年分の好奇心や開放感や博愛や自由を共有するために苗場を目指す。それはもう巡礼でさえあるのだ。コロナウィルスの影響で延期された幻のフジロック20。延期のやるせなささえも、来年の苗場では特有の連帯感を強めるスパイスになるだろう。あの灼熱やあの大雨を分かちあったわたしたちなら、きっと大丈夫だ。

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