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60歳からの古本屋開業 第4章 ロードマップ(1)人を呼びこむのだ

登場人物
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ


飲む前に、打ち合わせ!

 激安物件内見の翌週末、赤羽あかば氏と待ち合わせたのは大きめのターミナル駅。まずは飲みの誘惑を振り切り(終わったあとに飲むけど)、駅ビルにある喫茶店に入る。
 古本を売るための書庫探し!ということで、いきなり2万円物件探しから始めてしまったが、実際に古本屋をやっていくことを考えた場合、やらなくてはいけないこと、決めなければいけないことは、ほかにも山ほどある。
(実際はじめたら、もっとたくさんあるだろうけど)たとえばこんなこと。

(Webサイトの構築) 
・Webでの古本屋開業。
・サイトの構成は?

(実店舗の準備)
・書庫の開設 電気は? ガスは? 水道は? 書棚は?  どこに? いくらで? 
・本の分類は? 何かのジャンルに特化するのか? 

(本の収集・仕入れ)
・通常の古書店と同じ仕入れ方法?
・直接購入? 対価は? 見つける方法は?
・査定なんかできないけど、どうする?
・サイト、snsで募集?
・集める本のジャンルは?
・本の運送方法は?

(本の販売)
・販売、清算方法  
・入金先口座開設 名義は? そもそも、どんな会社組織でやる?
・発送方法(書籍小包確認)
・発送作業の方法
・問い合わせをどう受ける? 誰が答える?

 たぶんプロの目から見たら、こんなのはほんの序の口。まだまだ考えなくてはならないことがいっぱいあると思うのだが、今、思いつくだけの項目をざっくり挙げてみた。
 私としては、3軒の不動産見学の余熱もあり、「まずは書庫!」という思いから、
「あの※※駅の風呂なし物件見せてもいらいましょうか。それとも別に銭湯なし地域の風呂なし物件、線路際の騒音物件ということでさらに不動産屋に相談してみますか?」
と、部屋探しの今後の基本方針から、段取り確認を始めようとした。
 すると赤羽氏、元出版社勤務の知的な目をキラリと輝かせ、
「思うんですが、いきなり書庫を借りるより、まず沢山の人に見てもらえるサイトを作りませんか。もちろん本を売るサイトですが。本以外に見てもらえそうなコンテンツをできる限り用意して」
 そう語り出した赤羽氏の考えは、なかなか的を射たものだった。

まず、サイトから始めてみましょう

 たとえ本を書庫にそろえたとしても、アマゾンの中古書籍販売にエントリーするのがせいぜい。
 つまりお客さんからすれば、アマゾンの商品ページに「在庫の少ないネット古書店がひとつ増えただけ」ということにしかならない。それでは、あまりにもつまらない。
 どうせやるなら、古本屋の店舗のように、直接自分たちのところ(サイト)にお客さんが来て、本を買っていってもらえるような形にしていきたい。
 ならばまず、人が来るサイトを作ることが先決。
 なるほど。
「しかし、本が手元になくて、本を売るのはどうします?」
「うちからアマゾンなどにリンクを貼って、他の古本を販売している人から買ってもらえばいいんじゃないかな。それでわずかなりとも収入になるし。いや、当初は収入のことは考えなくていい。自分で売らなければならない理由はないでしょう。うちのサイトならではの、本に関する色々なコンテンツがあって、そこからあちこちの書店に行ってもらう。本との出会いの場を提供するんです。まずはこれ。で、人がたくさん来てくれるようになったら、実際に本を保管する書庫を開設し、販売する本の中に、徐々に自分たちが売りたい本を増やしていくという方法です」
「なるほど、言われてみれば、人に来てもらえることが先決ですよね」
「そうそう。だから面白いコンテンツをたくさん載せて、まずは人集め。本を紹介する部分も、単に書籍リストを数多く載せるだけではなくて、なにか工夫がほしいですよね」
「あ、なるほどね。そのことで私も考えてたんですが、例えば『自転車に乗りたくなるこの三冊』なんてコラムを載せて、その先でアマゾンなどにリンクを貼る。将来本が揃ったところで、自分たちでこの三冊をそろえてセットで売る、なんてどうですか」
「ああ、いいですね、それ。とにかくやってみましょう。やってみないとわからないし」
「週にこんなのを2、3ジャンルあげていけば、溜まっていくと結構面白いかも。できたらサイトを見に来た人にも、自分の考えたのはこの三冊、なんて挙げてもらえると良いですねー」
「あ、それは楽しそう。自分だったら自転車に乗りたくなるのはこの3冊だ! とか」
「おお、読みたい、買いたい、いいです! いいです! 僕ららしい!」
「それとね、昨日テレビで面白い本屋の話を観たんですよ。これサイトで使えるなと」
と、赤羽氏は、こんな話も紹介してくれた。
 その番組では、とてもユニークな本屋を紹介していた。自分のやっている本屋の書棚の一角(例えば1mくらいの幅)を人に貸し、そこで好きな本を売ってもらうという仕組み。
 ミステリーが大好きな人は、自分が売りたいと思っている大好きな本を仕入れて販売する。仕入れは書店を通せばできるし、書店には書棚の貸し賃が入る。
 もちろん出版社は誰が売ろうと本が売れれば利益になる。当然書棚を借りて売った本人にも売り上げから利益が入る。
 限られた書棚の中でこだわりのある書籍が常に供給される。
 勝手に新刊が送られてきて、売れずに返本するといった作業を繰り返すといった、書店にとっては、そのひどくくたびれる作業からも解放されるし、なにより個性的な書店として来店するお客さんが増え、店が再生することも可能かもしれない。
 これは良い! 素晴らしい企画だ。そういえば秋葉原でもこんなスタイルの物販が行われていたのを見たことがある。お店の中で40㎝四方の透明ボックスをスペース貸しし、そこを借りた人が好きなものを販売する(なかには見せびらかすだけの人もいて、これも可)。代金は代わりに店が受け取っておく、というシステムだ。
 これをサイトの中で行おうというわけだ。人が見に来てくれるサイトさえ構築できれば十分可能なはずだ。
 販売する冊数ごとにコースを作り、月に幾許いくばくかの料金でスペースを貸す。小さな古本屋を自分も開きたい!という人の支援にもなる。
 うんうん、行ける! 行ける!

(つづく)


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