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60歳からの古本屋開業 第5章 第1回 Apple書房 最高経営企画会議(2)

登場人物
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ


コンテンツ蔵出し作業。

 幸いなことに、私たちは長年にわたり編集、ライター業に携わってきた。
 その間、長いの、短いの、ちゃんとしたのからあまり人に見せたくないものまで数多くの文章、コンテンツを作り続けてきた。
 その一方で、仕事ではなかなか書くことのできない趣味的な文章も、自分の楽しみとしてブログなどに書いてきた。
 私の場合、編集プロダクションに勤めていた関係で「仕事を得るために、自分で本の企画を出す」という業務があり、企画が通れば自分で書く、つまり企画も出して著者にもなる、といったパターンもあった。
 それが幸い(というか不幸なことに)絶版になると、その文章の権利が一冊丸ごと自分の手元に残ることになる。
 ちなみに、この絶版というのは、出版社がその本を製造中止扱いにし、書店に出さないというもの。出版社はその時点で本の権利を放棄する。
 絶版になってしまう理由は大きく2つある。
 一つは(出版社にとっての)本の寿命が終わった、というもの。
 つまり、売れないのに在庫を抱え続けるのは経費がかかるし、いっそ終わり(絶版)にしましょうよ、というケース。
 こうなると、新しくその本が欲しいという注文がお客さん(≒書店さん)などから来ても「絶版」ということで対応できなくなる。
 もう一つは、最近特に目立ってきたが、出版社そのものが倒産してしまうというケース。在庫はあるかもしれないが、会社がないから注文には応えられないという悲しい状況である。
 いずれにせよ、絶版になった本の権利は、著作権者、つまり原稿を書いた人にすべてが戻ることになる。
 そんな書籍、文章の素材が手元にある。
 これをApple書房のコンテンツとして流してしまおうというのだ。
 さっそく記憶を頼りに、過去に書いた書籍などをカウンターのすみでメモに書き出してみる。

「オトナの手品」 絶版
「ヤメル講座」 倒産
「なぜ未亡人は美しく見えるのか」 絶版
「色彩の教科書」 倒産

 過去に作った本たちが頭に浮かんだ。
 並べてみると懐かしいけど、絶版になったことを思うと悲しいリストでもある。
 もちろん編集や執筆した本は他にもあるのだが、まだ販売中の本や、うっかり電子書籍契約を結んでしまった本もある。
 この電子書籍というものはけっこうクセ者で、ただのデータだから倉庫代もかからず、絶版の必要もない。
 たとえ書籍が売れなくても、出版社がなくならない限り半永久的に自動更新された権利が出版社と著者それぞれに存在することになる。
「自分の本が電子書籍に! なんて新しっぽくて、かっこいいのだ!」
などと浮かれて契約してしまったが、そこには気づかなかった。
 それにしても、たった数冊なのに、我ながらジャンルが支離滅裂。
 まるで私の人生みたいではないか。
 しかし、こんな凸凹のラインナップの中にも自分なりの系列というものがあって、
「とにかく売れそうな本、書籍化してくれそうな企画」
を目指した結果生まれた本と、
「ずっと自分が研究し続けて、企画を出したら書籍化された」
という本に分けられる。
 前者がマジック本や「ヤメル」本。
 後者は「色彩」についての本ということになる。

本になってなくてもよい。

 あったなー、こんな本。
 思わず回顧シーンに入りそうだったが、赤羽氏との会議は続く。
「個人的に書いていたコラムなんかもありますよ、えーとね」
 メモ帳にこれも書き出してみる。

「変な人列伝」(私が出会った世の中の「変な人」の記録)
「60歳の作り方」(60歳とはどんな人間でなければならないのか、なんて凄い話ではなく、60歳という年齢を始めて迎えて感じる世の中の事柄など)
 
「とりあえず、すぐに出せるのはこの2本ですかね。それにこの前、飲んだ時にちらっと言った『今夜も茶色飯』。写真は百枚以上あるんじゃないかな。みーんな茶色です(笑)」
「ああ、いいですね。どんどん行きましょう」
「あとネットのコンテンツ用に作った、これもあります」

「Yes.No心理テスト」(10の設問にYes.Noでこたえて判明する〇〇度チェック!)

「これなんかは、50本くらいあるんじゃないかな」
「おお! いいですねー、行きましょう、行きましょう!」

 赤羽氏は、私がメモにこうしたコンテンツを忘れないように書き込み「ほら!」と見せるたびに大喜びで、ちょっと手をたたいたりしてウケてくれるもんだから、こちらもうれしくなって「ほら、ほら」なんて見せながら書き出していく。
 後で大変になるのも自分だけど、これは自分たちのサイトのため。
 すごく読みたい本が山積みされていくような幸せな宿題の山である。

(つづく)


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