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鰻・蒲焼の長命術

うだるような暑さが続く夏。
精をつける食べ物は数多あれども、「夏といえば鰻である」というようなことをよく耳にする。
スーパーに行けば、「土用の丑の日だから」と矢鱈と売り出されていたりする。

今日の本題は、蒲焼の長命術。
子母澤 寛が著書「味覚極楽」の中で同名の節を設けており、竹越三叉 (歴史学者 竹越 與三郎) 氏の話を紹介している。
中身はラフにいえば「お土産でもらった鰻の蒲焼を工夫して美味しく食べるにはどうすればよいか?」という内容である。
鰻の蒲焼は焼き立てが美味しいのであって、目の前で焼き上がりを見守り、出来上がったものをその場でいただくのがまさに美味の最高潮、というところだが、普段口にするのは大抵焼き上がりから数時間も経ったものを再加熱なりなんなりしたものだったりする。
氏の言うには
・土鍋にいい酒を入れ、強い火の上にかけ、箸でどんどんかきまわす。
・熱くなるのに従って、アルコール分がたってくるのでマッチでさっと火をつける。
・マッチの火が出なくなるまでこの繰り返しを行う。
・温まった酒の中に、蒲焼を入れて約1分。
・ひき上げたらたれをかけていただく。
というのが本題の長命術。

近くのスーパーで土用の丑による安売りをしていたこともあって、手に入れた鰻でやってみると確かに柔らかく、美味しくできる。
(もしかしたら安いもののほうが差が顕著に感じられるかもしれない)
さすがに、マッチでどうのこうのというのは手間なので、「要はアルコール分を飛ばし切ればよいのでしょう」と、思い煮切ってしまったがそれでもおそらくいいだろう。

鰻の旬のハナシ
鰻をどうやれば美味くいただけるかという話は、上述の通りだがそもそもの鰻が美味しいのは何時なのよという話をしておこう。
土用の丑の日は、
 ・夏、まだ鰻に脂が乗っておらず、天然物は旬でないこと
 ・暑さで人の食欲が落ちる
ことから、江戸時代までは夏場の鰻の売上げが落ちていた中で、鰻屋から相談を受けた平賀源内が、「本日、土用の丑の日」と書いて張り紙をしたところ大繁盛したことにルーツがあるとされる。
天然物は旬ではないのだ。
実際、天然鰻は、5月頃から獲れ始めて、冬眠に入る12月には漁が終了するため、旬は秋から冬にかけての時期。水温が下がり始める10月頃からは冬眠に備えて栄養を蓄えるので脂が乗ることから、川や湖で数年かけて成長し、産卵のために川を下り出す「下りうなぎ」が美味とされている。
「だから鰻は夏に食べちゃダメだ。土用の丑の日に載せられちゃあダメだ。」
と思っていた。
しかし、養殖はちょっと事情が違うようで、水温が10℃以下になると餌を食べなくなり、8℃以下では冬眠するという鰻の性質を知って養殖することから、現在のハウス養殖では、冬季に採捕したシラスウナギを25℃以上の水温で飼育し、成長の早いものでは約半年後の「土用の丑」には出荷できるようにしているらしく、この時期に合わせて餌の量などを調整しているので、夏が旬であるとも言えるようだ。
そう思うと、「土用の丑の日は、養殖鰻をいただく日」として理にかなっているわけである。


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