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読書記録「チボー家の人々 1914年夏 I」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著
山内義雄訳
白水uブックス
1984
全4巻のうちの一巻目。
ローザンヌからジュネーブに移ったジャック。
様々な国からローザンヌに集まった仲間たち。彼らの政治論争が多め。
ジャックはその中に身を置き、仲間を尊敬しているものの彼らとは距離を置いた視点でものをみている。
ブルジョワに生まれ育ち、その価値を完全否定しないジャックの態度は仲間にとって時に腹立たしい。
仲間のひとりのミトエルクが言う。
「われわれ革命家?だって、きみはいつだって革命家ではなかったじゃないか!」
「ディレッタント、なあ同志、これがきみの正体なんだ!」
そんな彼らに届いたサラエヴォ事件の一報。
考え方は違っても戦争は避けなければならないという点では一致するジャックとミトエルク。
それに対するメネストレルの態度がなんだか不気味だ。戦争をやめさせることが大事でないと心では思いながら、そのことを仲間の前では口にしない。
メネストレル、ミトエルク、ジャックの考え方の違いがこの先どうなってゆくのか。
情勢を探るためにパリに向かうジャック。そこでアントワーヌと再会する。
家を豪奢にリフォームし、良い服を着て仕事に邁進しているアントワーヌの姿にジャックは我慢がならない。
アントワーヌとジャックの間の論争。ミトエルクの意見に賛同できないと思っていながらも、目の前に迫る危機など全く感じている様子のないアントワーヌを前にすると彼と同じような主張を展開してしまうのが面白い。
フランスが戦争なんて起こすはずがなく、平和の上に成りたつ自分の生活がこれからも続くというアントワーヌの考えの人もかなり当時多かったのだろうなと思う。
フランスは平和主義の国だと信じ、またその中で医者としての使命を全うしようというアントワーヌにはジャックの考えが理解できない。
革命を起こしたところで人間の本質的な要素に変わりはないというアントワーヌの発言はジャックの核心に触れる。
きたるべき人々への信頼、それはまさに革命にとっての存在理由をなすものであり、あらゆる革命的情熱の真の飛躍板をなすところのものだったが、ジャックは不幸にして、それときたまちらりと感じるか、ほんのつかのま、周囲の気配に押されて感じるというにすぎなかった。
「だが、人間人間たることは、いつになっても変わらないぜ。
…いつになっても強者と弱者がいるだろう…つまり、おなじものにはなり得ないんだ。
強者は、われわれのそれとちがった法則、別な制度のうえにその権力を築くにちがいない…そして、新しい強者の階級、新しい搾取者の型ができあがる…これが法則だ…ところで、そうなるまでというもの、われわれの文明の中でも捨てがたいもの、それはいったいどうなるね?」
フォンタナン氏が自殺を図ったことにより思わぬ再会を果たすジェンニーとジャック。
ジャックが突然失踪したことで苦しみ、彼を憎んでいたジェンニー。相変わらず似たところのある2人はこの先どうなるのか。
そしてダニエルとの再会。
そこにあったのは少年の頃の思い、でももうそこには戻れない切なさ。
彼にはいま、ジャックが、ふたりを釈然とさせてくれるようなすなおな説明、それをぜったいあたえてくえないらしいことがわかってきた。いまは知ることをあきらめなければならなかった。同時に、ふたりの友情、いままで自分の誇りとしていたたったひとつの友情も、あきらめなければならないのだ。ダニエルには、はっきりこのことが直感された。そして、胸迫るといった気持ちだった。しかもこの晩、彼には、ほかにも悲しいことがあるというのに…
アントワーヌとアンヌとの模様が詳しく描かれるとは、ちょっと意外だった。
家出騒動のときのラシェルといい、ジャックの大事な時にはアントワーヌは誰かと恋愛状態にあるような…
これまでの感想
【チボー家の人々 灰色のノート】
【チボー家の人々 少年園】
【チボー家の人々 美しい季節】
【チボー家の人々 診察】
【チボー家の人々 ラ・ソレリーナ】
【チボー家の人々 父の死】
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