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読書記録「チボー家の人々 美しい季節」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳
白水uブックス
1984

美しい季節編はIとIIの2冊。
少年園編から5年が経過。
アントワーヌとジャックの2人暮らしは続き、この期間、ジャックがエコールノルマルへの試験のため勉学に励んでいたことがわかる。

写真はメゾン・ラフィット(Maisons-Laffitte)。パリから18kmのところにある。
チボー家とフォンタナン家が別荘を持ち、夏の休暇を過ごす場所。

ジャックとジェンニー、アントワーヌとラシェルの恋愛模様をメインに話は進んでゆく。

エコールノルマルに合格したものの、ジャックはどこか満たされない。自分が嫌悪している体制に、自分の合否を判断されてしまったこと彼にとってはたまらなく思える。
内面において似ているジャックとジェンニー。ダニエルの生活が堕落しているという点で意見が一致する。
2人の恋愛は精神的なものに重きが置かれている。ジェンニーの心の中では自分の気持ちを認めたくない気持ちと好きという気持ちが葛藤している。母への打ち明け話でもそれがうかがえる。

一方のアントワーヌとラシェルの恋愛はもっとスムーズで、一見大人に見える。
オペラ座の衣装係でユダヤ人の父と、精神病院に入った母を持つ彼女。
その自由奔放な振る舞いは、ブルジョワ家庭に育ったアントワーヌが一瞬侮蔑してしまうくらいのもの。物語が進むにつれて徐々に明らかになりラシェルの過去はかなり衝撃的なものだ。
後半、ラシェルが繰り返す言葉。結局、ラシェルとアントワーヌとは違う道を歩むことになるのだと予感させる、印象的な一言。

「わたしなんてあなたが好きなんだろう」

本編で何よりも印象的なのは、ジェロームとイルシュという2人の男性。
ジェロームは自分の弱さを見せるタイプである一方、イルシュは強さを見せつけるタイプ。そんな2人だが、別れた後でも女性を惹きつけてやまない魅力を持っているという点では共通する。

ジェロームはノエミが危篤で途方にくれていると夫人に泣きつく。結局夫人ははるばるブリュッセルまで会いに行き、金の工面もしてしまう。
それが解決した後はメゾンラフィットに当たり前のように落ち着く。そして、手紙をもらったままほったらかしていたリネットに会いにゆき、金を継続的に渡すことを約束する。(この時、スカートのホックに手を回すことも忘れない)。自分は思っているより良い人間だと自分に言い聞かせながら。

イルシュは怒らせたら何をしでかすか分からない、かなり危ない人物。
彼のラシェルへの影響力は凄まじいものがある。
戻ってこいとラシェルに一言言ってよこすだけで良いのだ。イルシュのたった一言で、アフリカへでもどこへでも行ってしまう。

ラシェルとの経験は今後のアントワーヌの人生に、良い意味での影響を与えることになるのではないだろうか。

これまでの感想
チボー家の人々 灰色のノート
チボー家の人々 少年園

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