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読書記録「チボー家の人々 灰色のノート」ロジェ・マルタン・デュ・ガール著

山内義雄訳
白水uブックス
1984

ノーベル文学賞も受賞しているロジェ・マルタン・デュ・ガールの長編小説。
白水uブックスで全13巻。

作品について。
1920年に着手、エピローグが1939年。
1914年、第一次世界大戦勃発と同時に、マルタン・デュ・ガールは動員され、自動車輸送班に編入。戦争終結とともに除隊となり、4年におよぶ戦場での生活が終わったのちに着想を得たのが本作、チボー家の人々。
この小説は当初は戦争をそれほど大きな要素として含む予定ではなかったという。第二次世界大戦という新たな危機を目の前にした時期に書き進められたこと、それがどう影響したのか。
自分も時代の波に晒されるような気持ちで読み進めてみたい。

物語はカトリックであるチボー家とプロテスタントであるフォンタナン家を中心に進む。
灰色のノートの舞台設定は1904年。チボー家の息子、ジャックとフォンタナン家の息子、ダニエルの家出騒動が描かれる。
この家出自体は、思春期特有の、大人になる過程の感情の揺れのようなものだと思う。
代議士である父のもと厳格なカトリック教徒として教育されたジャックが、母の愛情に包まれ自由な環境にいるようにみえるダニエルに惹かれたのは当然だったといえる。そして繊細さと無謀さ、そしてなんらかの才能を感じさせるジャックに惹かれるダニエルの気持ちも分かる気がする。
ダニエルのマルセイユでの出来事は放蕩な父の影を感じる。この、ジャックとの間に分かり合えない溝を生んだ出来事は、この先のダニエルにどんな影響を及ぼすだろうか。

唐突で、一体どういうことなんだろうと気になったエピソードが2つ。それがどちらも巻末の店村新次の解説で取り上げられていて驚いた。

ひとつはアントワーヌも助からないとしたジェンニーがグレゴリー牧師の手で奇跡的に回復するシーン。突然の神の力で病気が治癒したエピソードに驚いた。
作者はここで神の恩寵を説いているのではなく、人間の精神と肉体の関係について語っているという指摘に納得。
グレゴリー牧師は”クリスティアン・サイエンティスト・ソサエティ”(Christian Scientist)という1879年アメリカで生まれたキリスト教の一派。聖書の教えと信仰の力で病気を治すところに特徴を持つ一派なのだという。
秘密を打ち明けられた重圧からジェンニーは病気となり、暗く空気の悪い部屋で悪くなるばかりだったのを、母の祈りとグレゴリー牧師の窓を開けるという行為が変えたのだ。

もうひとつはマルセイユで2人が馬車の事故現場を目撃するシーン。ダニエルに死体安置所にいったことがあるか尋ねるジャック。その話に関心を示さないダニエル。唐突な動物の死の場面。
ジャックが未だ14歳ながらも死というものが頭を離れずにいることが分かる印象的なシーンでもあった。

次巻は自由を求めて家出したジャックが入れられることとなった少年園編。アントワーヌが本格的に登場するはずなので楽しみ。

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