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散文 2

私は爬虫類が苦手だ。
厳密に言うと、苦手というほどの知識すら持ち合わせてはいないのだが。
やはりそこは苦手なのだ。

幼い頃は、まあ好きではないものの、公園などでカエルなんかを見つけると友人たちと追いかけ回したりして楽しんではいたのだが、ある時期から、そう、あれは確か私が20代に差し掛かった頃あたりから、全く駄目になってしまった。

とある夜。
バイトだか飲みに行ったんだか定かではないが、とにかく雨あがりの帰り道。
家の近くの裏路地、とはいえ車がすれ違えるくらいの道幅はあるのだが、そのど真ん中にとても大きなカエルが鎮座していた。
遠くから見ていて道の真ん中になんか物体が
あるなー、と嫌な予感はしていたのだが、案の定、それは大きくて薄黒いカエルだった。

うわぁ…と思いながらも、迂回できるルートもないので仕方なく通り過ぎようと歩を進めてゆくのだが、少しずつ近づいて、だんだんとその姿が鮮明になってくると、金縛りにでもあったかの如く、足がピクリとも動かなくなった。

わかってはいる。
そう、ただ横を通り過ぎれば良いのだ。
なんてことはないじゃないか。
道幅はそれなりにあるし、カエルの方も全く動く気配はない。襲われるわけでもなければ、取って食われる心配もない。そう、わかってはいるのだ。

しかし、どうやっても足が動く気配すらない。
そう、怖いのだ。
恐怖心が勝り、様々なパターンの最悪が脳裏を駆け巡り、脂汗すら出てくる始末である。
これは参ったぞ…と。

かれこれ10分くらい経っただろうか、私とカエルの無言のせめぎ合いが続き、いい加減堪らなくなった私は意を決する。
"行くしかない…向こうも動く気配すらないし、よくよく考えれば何をされることもないだろう…行けるぞ、俺!よし…今だ…!"

ゴクリ…
生唾を飲み込む音が体を駆け抜ける。
根が生えたのかと思うくらい重い足を力一杯引き抜こうとしたその瞬間、まさかの同じタイミングでカエルがのそのそと動き出す。
ビクッ!
雷に打たれたかのような衝撃が走り、動かそうとしていた足からすっと力が抜けてくのを感じる。
動けなかった私はじっとカエルを見つめることしかできない。

伸びをするように一歩を踏み出したカエル。いつも曲げている脚を伸ばすとめちゃ脚が長いことがわかる。
ゆっくりと、しかし着実に歩を進めてゆくカエル。
私はただ脂汗を流しながら引き攣った顔で見つめている。さながら身体を丸め厄災が過ぎゆくのを願う祈り人のような心境である。

それからカエルが路地の端の茂みに消えるまで、永遠に思えるほどの時間、まあ実際には1〜2分なのだが、私はただ待つことしか出来なかった。

なぜあんなにも恐怖心が勝ってしまったのか、今となっては理解しがたい。
今は道端でカエルに出くわしても、うわぁ…とは思うものの別に避けて通ることは出来る。

精神的に過敏な時期だったのか、はたまた具合が悪いだけだったのか、よくわからないではありますが、何故だか未だに忘れられない、どうでもいい事象でした。

とにかく苦手なんですね、爬虫類。

何故唐突にこんなことを書こうかと思ったのか。
その理由は昨日にありました。

散文 3につづく

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