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へえ、昔はこんなに賑わっていたんだな あれから適当に解散して家が近い子同士で帰路につく。駅が近い事と、そもそも公共交通機関が充実しすぎていて迷路のようだ。 しかし、この"私"は慣れたようにすいすいっと進む。 ビル群と商業施設、繁華街を抜けて駅の改札を抜けて階段を上がると一日を乗り切ったという人たちの様々表情が見える。 おじさんたちの視線が気になるところだが、なるほどカバンにストラップをたくさんつけることによりガードになっている、というわけでもないのか。
事務所にはコーヒーマシンが置いてある。 来客用の別の事務所に置いてあったものを新調した時、井上さんが持ってきてくれたものだ。 通販で様々な種類のコーヒーカートリッジを手に入れて、まだまだ楽しむことができる。 窓の外を眺めながら、曇り出した空を見ながら雨が降るような情報はなかったけどなあと天気予報アプリを左手で見ながら、淹れたてのコーヒーの香りに癒される。 サーバールームの室温が安定して問題が無さそうなら、雨が降り出す前に帰らないと、ここに長居することになりそ
目を覚ますと鳥の囀りが聞こえてくる。 シャワーを浴びて、新しいパジャマにも着替え、少し湿っていたマットレスや毛布も、サーキュレーターの温風で心地よく仕上がっていた。 そのおかげか、どうやらしっかり眠れたらしい。 時計は6時近くを示している。 これが、朝なのか夕方なのかまだ判断がつかないところが、ここ数日ベッドとお友達になっていた状態ならではの結果だろう。 リビングのカーテンをシャッと開けてみる。 外を散歩している人がちらほらいるくらい。 太陽からの光が弱
そうだ。 人は亡くなるとこんな風に目の前にただ横たわる。 まさに血の気は無い。 ただ、どうやってこうなったかによって様々だ。 私の娘は違った。 18歳で産んだあの先輩によく似た、よく似ていったあの娘。 連絡を受けて真っ先にタクシーで駆け付けたのは母だった。 娘にとっては祖母だ。 私はというと、交番にお世話になってからというもの、夜には出かけ朝には娘とともに住んでいるはずの自宅へと帰り寝るだけの日々。 娘とはいつの間にか向き合えなくなってしまった。
事件が起こって、 みんなが怒って、 居場所がわからなくなって数年。 一連の出来事は地元の新聞やテレビでも報道され、近所に取材は入るわ、勝手なことは言われるわで、私たち母娘は住み慣れた土地を離れざるを得なくなってしまった。 せめて父には、自分がなぜそんな行動をとったのか、公の場で堂々と釈明をして欲しかったと思わなかった日はない。 でもそれは私の身勝手な言い分だ。 私が原因で父にあんな形で人生を終えさせてしまった。 死んだ方がマシなんじゃないかと母と話したことも
ここまで「あり得ない日常」の20話までご覧いただきました。 お読みいただきありがとうございます。 柚葵です。 ペンネームで本名ではありません。 作家でもなんでもなく一般人として書いています。 前作「続けますか?」 本作は2024年1月28日に#1から始めましたが、その前に「続けますか?」というお話を先に投稿しています。 ちょっと生々しいシーンがありますが、ぜひそちらから読んでいただければ、本作をより理解でき、お楽しみいただけるのではないかなと思います。 こんな
「そろそろ到着されるのでお迎えしましょうか」 周囲は林、というよりは森に囲まれた、街はずれの山のふもとと言ってもいいこの場所は、自然の香や鳥の囀りで満ちている。 少しずつ風向きが北風になりつつあるこの肌寒い季節は、施設の中にも木の葉が舞い降りて入り込んでくる。 それらを掃いていると、呼ばれて次にやることのお声がかかったので、はいと静かに返事をする。 正面で担当の同僚と厳かに、姿勢を正してお迎えする。ほどなくしてゆっくりと車列が敷地に入り、目の前でキッと停まっ
地面に一直線に吸い込まれるよう 一瞬のはずなのにどうして その恐怖にハッと目を覚ます。 いつもの自室。 天井。 窓のカーテンからははっきりと力強い光が漏れ出ている。 気づけば汗びっしょりになっていた。 これは風邪の熱のせいではないだろう。 なぜ、あんな小さな子があんな思いをしなければならないのだろう。 汗だけじゃない。 涙が止まらない。 なんでわたしはこんなに泣いているんだろう。 ただ眠っていただけなのにという不思議な感覚半分、幸せだったはず
いってきます。 ほんとうは学校になんか行きたくないけど、行かないといけない。 昨日も登校して、ようやく終わったと学校の敷地を出るときほど心が軽くなる瞬間を私は他に知らない。 中学生からは自転車で登校する事も可能だ。でも、うちは他の子のようには余裕が無いので、自転車が欲しいなんて言いにくい。 違う、言えない。 お母さんはほぼ毎日、夜中に帰ってくるので今は寝ている。 仕切りのようにある襖を開けるとほぼ一部屋のアパートの一室に母娘二人暮らしだ。 寝てい
高校2年の冬、明日はクリスマス・イブだ。 今年はこれから寒い冬になるらしい。 窓の外を見るとちらほらと雪が舞い始めたようだ。大きなブラウン管のテレビに映る左上の数字は19時を過ぎたことを示す。 学生はすでに冬休みに入って数日経ち、クリスマスと太陽暦で年越しを控えるという事もあって、慌ただしくも賑やかで、私もその空気感を楽しめている中のひとりになったのだろう。 生まれて初めてのこの下腹部の鈍痛、悪い痛みじゃない。 なかなか言えなかったが、先輩は気づいて驚いたよ
カバンから上衣を取り出し、前のジッパーをあげて身を包む。 家でジーンズに履き替えてきたので動きやすい。 肩までの茶髪を後ろ一つにまとめる。 なんだか学校に行く朝より気合を感じる。 住宅街の中の店舗なので、繁華街や駅前の店舗と比べて静かではあるが、道路沿いであることもあって、店舗前の駐車場の見通しが良くなるのは深夜帯から早朝にかけてくらいだ。 シフトには、ここ二日入っていなかったので久しぶりの感覚だ。 アルバイトでもノルマがあるらしい。 クリスマスケーキか。バ
とりあえず井上さんにだけでも連絡はしておこう 携帯端末を枕元から手繰り寄せる。 一応あの帰宅後、雨に濡れたことで体調危なめな予感がしますと正直な直感を伝えてはおいた。 まさか、本当にそのとおりになるとは思わなかったけども。 この時期には大体体調崩れる傾向があるので、去年なんともなかった分を回収しているんだろうという心持でいることにする。 「え?大丈夫?そっち行こか?」 と即レスされる。さすが井上さんだ。 大丈夫だと思います、いま汗をかいて起きて気が付い
「マック寄ってこーよ」 いいね月見食べたいと自分が言ったような言ってないような感覚で、月見ってなんだろうと思いながら時間の流れるまま身を任せる。 ずっと言いたかったが、この人メイクが濃い! きらびやかな夕暮れの都会の街並みの中を、あきらかに短いスカートとダボダボの白いソックスを履いた足でお店の中に踏み込んでいく。 流れるように慣れた注文と、流れるように動く店員さんに感心しながら、自分ではない自分が数人のグループの仲間と何かをきゃっきゃと話している。 待って
「何か問題があるというわけではなさそうね」 井上さんが部屋の様子を窺いながら言う。 昔はそれこそサーバーもそれぞれ独立した筐体で、一台一台調達するたびに予算との相談と思い切りが必要だったが、現在では増設したいパーツをノイズに強い共通ケーブルで接続してあげればいい。 パーツ単位なので経済的、扱いもシンプルだ。 サーバーごとにラックを作って一つの"島"と呼ぶ。 その島に調達したパーツをつなげていくわけだ。 ただ、より多くなりがちなグラフィックボードばかりは接続