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あり得ない日常#23
目を覚ますと鳥の囀りが聞こえてくる。
シャワーを浴びて、新しいパジャマにも着替え、少し湿っていたマットレスや毛布も、サーキュレーターの温風で心地よく仕上がっていた。
そのおかげか、どうやらしっかり眠れたらしい。
時計は6時近くを示している。
これが、朝なのか夕方なのかまだ判断がつかないところが、ここ数日ベッドとお友達になっていた状態ならではの結果だろう。
リビングのカーテンをシャッと開けてみる。
外を散歩している人がちらほらいるくらい。
太陽からの光が弱弱しく、あらゆるものの右側に影があるということは、これは早朝だと気づいた。
3日間は寝込んだなあとため息をつきながら、水を汲んで一口。
ただの風邪なのか、流行り病なのかはわからないが、食欲にあまり影響もなかったし、このくらいで済んだのならただの風邪のようだ。
ただもう少しくらいは気をつけて、しばらくはまだ外に出ないでおこう。
井上さんから心配するチャットが3件ほど続いているので、気づかずにぐっすり寝ていたことと、熱は下がったようだと伝えておく。
とりあえず、保存しておいた固形食がまだあるので口にする。
よく考えたら、井上さんにも伝染らない保証などどこにもないので、安易に来てもらわなくてよかったと思ったものの、それはそれで心細くはある。
夢の内容が内容だっただけに、場合によっては自分もそのままどうにかなっていたかもしれないからだ。
まあ、それはそれで仕方がないと思えるのがわたしの性格なのだが。
人は必ずいつか死ぬ。
わたしだってそう。
古代の文明でどうだったかは知らないが、今の文明では少なくとも人間の寿命は100歳前後が限界らしい。
厄介なのは身体がどんどん衰えていくことだ。
毎日肌の小じわを気にすれば、おそらくはキリが無いだろう。気にするのが悪いわけではないが、気にするだけならストレスが増すだけだ。
美容化粧品で対応はできるが、一番良いのは余計なストレスを感じないようにすることが効果があることは解っている。
そしてあとはよく眠るしかない。
ただ、全くストレスを与えなかった場合は"たるむ"だけらしい。
ほとんどが自動化されたこの現代でもサービス業は存在するし、"外連味"という"味"はどうしても機械では出せない。
機械で生み出されただけのものだけの世界に納得しなかったのは、他でもない人間だったからだ。
例えば、絵画やアニメなどの芸術の分野やサービスなどがある。それらに対価として支払うものはどうしても多くなりがちだがそれでいいはずだ。
機械音声の楽曲もあるが、なんだかんだ言って結局は人間がミックスして仕上げているし、なんでもかんでも機械化すればいいというわけではない。
とは言え、もう全部機械化してしまってもいい世界だってあるから、結局はバランスであり、ちょうどいいところを探ることになる。
そうやってこの国は、具体的には、われわれ人間と機械はちょうどいいところをこれからも探り続けることだろう。
「価値観は人それぞれ」なんていう極端に都合のいい考え方の時代もあったようだが、俯瞰してよく考えると、それは互いに干渉せず全体として何も決められない事を意味することに気づいた。
結果として、怠惰と同義だったのだ。
互いの価値観や尊重をただただ念仏のように謳うだけでは不十分。
そもそも、そうしたことを主張する人間に限って、それが致命的に欠けているのは往々にしてよくあることだ。
かつての共産主義国家の成れの果てがそうだったように。
毎日勤務するという概念が取り払われた現代において、それを成しえたのがベーシックインカムという制度だった。
大体一人当たり毎月10万円もらえると思っていい。
以前にも話した気がするが、夫婦と子供が3人いると月に50万円入る。
ただ、医療や教育は高度なものを望めば望むほど自費が必要になるために、贅沢ができるわけではない。
家族や子供のためにと家を買ったとしても、子供が巣立ち、例えば海外へ移住するとなると最大で20数年で用済みになる。
子供が巣立てば、夫婦か自分たちに支給される分で生活するしかない。
もし、海外旅行に行きたければ働いて資金調達する方が良いだろう。
むしろ、そんな望みはなくても、人と積極的に関わっていたいと言う人だっているから、社会がマヒすることはない。
海外から日本版グリーンカードを求めて、働きに来る人だっている。
それが実現できたのは、法が国を支配しているからだ。
法に気分や機嫌など無い。
主旨に照らし合わせて個別の事情を汲むことはあっても、一般的に法はその平等性を担保している。
法の秩序を乱したものが、一時的か永久に取り除かれるのは当然のことだが、それは何も国内だけの話ではない。
ひとつの地球に、距離は離れていれど共存せざるを得ない以上は、その叡智から逃れられないことをいつ気づけるかによるだろう
残念ながらその生涯で、気づけない者もいるかもしれない。
その場合はもっと厳しい環境で、また誰かの人生をやり直す羽目になるかもしれない。
なんて難しいことを考えているうちに、8時を回ってしまった。
さすがに固形食ばかりでは飽きてきたし、体にも良くは無いかもしれないから買い物に行きたいが、何かあったら後で怒られるだろうな。
まだ何かほかに無かったかなと、ごそごそと探すことにしたが、ガラス越しに差し込む光が心地よく、まあ後でいいやと。
猫が居心地のいい場所を見つけたかのようにごろんと横になるのだった。
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この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。
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