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あり得ない日常

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記事一覧

あり得ない日常#58

 信用は、より実績に伴う。 価値観と発言力への信用は人間性と実績次第だろう。  かつて世界は危うく核戦争へ突入し、人類は滅亡の一歩手前までいったが、将校の一人が承認を拒否したことで回避されたという。  キューバ危機の最中、核を搭載した潜水艦が周囲の爆撃から逃れるために海中深く潜航、電波が届かないため外部からの情報から断絶された。  状況からすでに開戦したのではと判断。 核攻撃を艦長と将校2人の合計3人で決め、実行しようとしていた。  しかし、1人が承認を拒否し、核攻撃

あり得ない日常#57

「いいかもね。ちょっと考えていい?」  急いではいないようですが、返事は出来るだけ早く欲しいそうです。 由美さんから聞いたままを伝える。  由美さんの活動を応援する人は少なからずいるが、その人たちの中に後継ぎがいないので事業を引き継いでくれる人はいないかという話をしている人がいた。  長らく自治体のごみ収集事業を請け負ってきたが、自身が高齢になるにつれて誰かに譲れたらと考えてきたそうだ。  いち従業員としての立場をあくまで出ない社員に譲るわけにもいかない。要は、混乱な

続けますか?|パラレル短編創作

1 学生を卒業して幾年月、もうすぐ年度替わりという事もあって年末とはまた違った慌ただしさを感じる。 田舎ならまだ少し違うのだろうか。 ラッシュ時は乗り遅れることをあまり心配する必要のない路線の駅近に住む身としては、寝に帰っているようなものだけとはいえ、便利なもので気に入っている。 休みの平日にはたまに足を延ばして、大きな駅の本屋に立ち寄るのが最近の楽しみになっている。 旅行になんて、思えばいつ行っただろうか。 男の独り身だから、時間を気にせずふらっと出かければいい

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あり得ない日常#56

「母の姿はとてもきれいだったんだ。」  なぜ、ちゃんと最期を看取らせてくれなかったのか。 そう母の遺体の傍で、そして心の中で、何度も責めた。  そうしているうちに、きっと言わなかっただけで相当苦しかったんだろうなという思いが込み上げてきた。  痛みは本人にしかわからないから。  そう由美さんは、これまで溜め込んでいた大きなものを一つ一つ苦しみながら吐き出すように話す。 「安置所でさ、眠っているようだった。 一目見てわかったよ、やっと解放されたんだなって。」  由美

あり得ない日常#55

 由美さんのお母さんは、肝臓がんだったという。  貧血のような、めまいのような、まあ寝ていればそのうちよくなると言い、一日横になっている日も少なくなかったが、ある日たまたま行った血液検査を皮切りに見つかった。  ただ、その時にはすでに遅かったらしい。  転移している可能性もあって、医師はさらに精密な検査を勧めたが、真実さんは痛み止めの薬を希望するだけでそれ以上は望まなかったという。  由美さんが二十歳を過ぎたあたりだった。  真実さんは50代の半ば、旦那さんのおじい

あり得ない日常#54

「多くの人は、自分の人生に意味があったと思いたいと思うよきっと。」   二人そろって、おじいさんの声が聞こえた気がしたあの後も、 少しだけのつもりでお酒を飲みつつ、話を続けている。  最近の情報交換と言えば聞こえはいいが、また先輩の話に戻ってきた。言っちゃ悪いが、厄介な人の話はどうしても盛り上がってしまう。  その流れで由美さんがそんなことを言う。 「だってさ、自分の生き方に満足している人なんて世界にどれだけいるんだろうって思わない?」  そうだなあ。 「気づいた

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あり得ない日常#53

 由美さんに先輩の話をしている。  あまり、愚痴や人の事を話題にしたくないし、することもないのだが、例の事件の話の流れからつい、そんな話になったのだ。  つい、というより、それも人間関係なので仕方が無い。 この際だから、思いっきり聴いてもらう事にしよう。  こうして、クセの強い人間の噂というものは本人の知らない所で、様々な人の話のネタにされて広がっていく。  コミュニティの外だ、万に一つも本人と交わることが無いだろうと散々言っていると、どういうわけか巡り巡って本人に伝

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あり得ない日常#52

 「あの人は何なんですかね。」  あの人とはと尋ねると、どうやらあの先輩の事らしい。 温厚な、ひと回りは年上の藤沢さんが少しイラつきを見せる。  珍しいな。  あの日、わたしは由美さんにお呼ばれしていたので、さっさと帰ったが、あの後にどうやら何かあったようだ。  なんとなく、そうなるんじゃないかという気はしていた。 ああ、ようやくわかってくれる人が身近に現れてくれたか。  井上さんに言わせると、別に悪気があるわけ無いんじゃないなんて簡単に言うもんだから、あてにならな

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あり得ない日常#51

 「オレ先輩だからさあー、いくらでもアドバイスできるよ」  懐かしの新人時代、研修で通った相変わらずの場所に、相変わらずの先輩がここにいる。  いつもなら、ため息をつくところだが今日は藤沢さんを連れてきているので一味違う。  「なにー?久しぶりに見たかと思えばずいぶん偉くなったじゃん」  偉くなったつもりなんか、もちろんない。  あれからほぼ一人でいられる空間で、業務というよりは作業を淡々とこなして、井上さんの依頼どおり、新人さんに引継ぎまで可能かもしれないというく

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あり得ない日常#50

 どんな道具も使い方による。  世界には依然として何かが始まればすぐにでも、すべてを焼き尽くしてしまうほどの核兵器が配備されている。  数は減ったかもしれないが技術と共に質も向上していく。  世界のパワーバランスが崩れないことと、人間がミスを犯さなければまだしばらくは大丈夫そうだ。  世界を変え得る道具の一つにお金もある。 お金は主義の違い関係なしに、どの国でも存在している物だ。  共産圏の物資が不足する国においては、配給制度が今だ存在するところもあるようだが、お金

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あり得ない日常#49

 自分の人生があと1日だとして、どんな過ごし方をするだろう。  少なくとも気持ち悪いと思う人物に割く時間など1秒たりとも無い。 そう考えるのが自然だろうな。  人によって自分の人生の残り時間は実に様々だ。 もしかしたら100歳まで生きるかもしれない。  かと思えば来年の今頃は、もうこの世にいないかもしれない。  これらには共通点があって、今自分でこの世からドロップアウトすることを選ばなければ成立する条件に過ぎない。  現代の文明での人間の寿命は生まれてから、お正月を

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あり得ない日常#48

 その人が、本当に賢いかどうかは文章を見れば大体わかるのではないだろうか。  まるで鏡のよう。  とはいえ、人間賢さだけがすべてではない。 人生にとってお金がすべてではないという感覚と似ているかもしれない。  食べ方が汚い人を嫌う人は多いだろう。  似たような人物なら気にしないかもしれない。  だからと言って、わざわざ食べ方を直せと指摘する人物は、その人の身内くらいではないだろうか。  他人なら、わざわざ指摘して波風を立てるよりも、何も言わずにそっと離れたほうが良

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あり得ない日常#47

 毎月10万円という金額は多いだろうか、それとも少ないだろうか。 それが国から支給されるという前提の中で生きることが出来るとしたら。  これはもちろん、普段の生活費と考えての話だ。  現代では実現しているこの話も、創設されて移行するときは多くの年金世代から反発があった。  それはなぜか。  自分たちよりも下の世代はすべて好待遇となるからだ。  妬ましく思う人間が出てくる。  なぜ、自分たちよりもいい思いを、楽な人生を送ることを国として可能としようとしているのかと。

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あり得ない日常#46

 現代では入社式といったものを開催するところも少ない。いかにも日本らしい風習だが、年齢層も様々、新卒という概念もいわゆる総合単位管理制度の成立でもはや存在していない。  死語である。  教育は先に話したように、高校教育課程まで学力認定試験をそれぞれ受験すれば、たとえ13歳でも高校卒業認定を取ることだって可能だ。  その後は引き続き大学課程を同様の方式で勉強することができる。  優秀で明らかに専門性の知識とセンスと持ち合わせている人物は、研究機関に招待学生として迎えられ

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