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あり得ない日常#14

 へえ、昔はこんなににぎわっていたんだな

 あれから適当に解散して家が近い子同士で帰路につく。駅が近い事と、そもそも公共交通機関が充実しすぎていて迷路のようだ。

 しかし、この"私"は慣れたようにすいすいっと進む。

 ビル群と商業施設、繁華街を抜けて駅の改札を抜けて階段を上がると一日を乗り切ったという人たちの様々表情が見える。

 おじさんたちの視線が気になるところだが、なるほどカバンにストラップをたくさんつけることによりガードになっている、というわけでもないのか。

 ちらほら空いているロングシートの席の中で、おばあさんの横に迷いなくすっと座ると、カーディガンのポケットの中からケータイを取り出し、母親へ今帰ってるとこと打ち込んだ。

 わたしが過ごす現代でも新宿シンジュクは残っていて、高層ビルこそメンテナンスの問題から低く改築されたものの、ビジネス街、行政機能のある街として存在している。

 しかし皇居から東、霞が関の東側三分の一は、農地、または土壌改良中のまっさらな土地になっているはずだ。

 湾内は大水が回析かいせつして海面が乗り上がり、塩害を被った土地もあった。その後、堤防の嵩増しかさまが施され、避難塔も造られた。

 その材料の多くに元高層ビルの建材が再利用されたと聞いている。

 コンクリートや土に関する技術、とりわけリサイクルに関する技術が、いわゆる低地居住禁止令が出てから大きく進歩したのだった。

 そんなことを考えていると、先ほどまでの猥雑な雰囲気から一転して静かな夜の住宅街の中を進むごとに電車は中身を軽くする。

 今日はいつもよりは遠征したらしい。
遠回りな寄り道だ。

 時計の針は20時を少し回ったくらいを指す。

 もうすぐ冬が訪れることがわかるくらいには冷え込んできた。もう少し体が冷えないように太ももが隠れるくらいにはすればいいのに。

 おしゃれはがまんとの闘いなんて名言が伝わってくる。ついでにこの角を曲がればもう自宅らしい。

 2階建ての新旧混ざった戸建てが並ぶ住宅街は、自動車や自転車に乗った人たちがちらほら行き交う。

 時間的には小さい子供がいる家庭はすでに夕食を済ませて、翌日に備えるようなそんな頃合いだろう。

 見覚えは無かったが、珍しさと懐かしいにおいがする光景だった。


 汗をかいたな。
気持ち悪いから着替えたい。

 はっとしてまぶたをあげると、慣れ親しんだ自室の天井。

 新しくも古くもないアパートの一室。
一昨日に雨に濡れて帰ったせいで、昨日から熱が出て大変だった。

 こういう時に一人暮らしだとなんだか心細くはある。

 ついでに喉も随分渇いた。セラミックボトルのスポーツドリンクを冷蔵庫から取り出す。

 寝相が悪かったせいか、汗をかいた身体が冷えたことが気になるが、食欲が回復しているようなので食べれそうなうちに保存しておいた固形食を摂る。

 時計は午前4時と半分を回った所だ。

 あんなに毎日出勤や通学していたら、こんな時にはいったいどうするのだろうか。今度隣のおじいさんにでも尋ねてみようと思うのだった。

 この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

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