開発エンジニアのための工場入門②

そろそろ春になり、異動や入社などのイベントで新しく工場で働くことになった製品開発エンジニアがいるかもしれない。工場というのは中に入ってしまうと中々複雑なシステムであり、働き始めると身の回りしか見えなかったりと、全体像の把握が難しい
前回(製品開発エンジニアのための工場入門①)は、メーカーというビジネスの枠組みの中での工場の位置付け、組織構造などから工場を解説した。今回は、もう少し具体的な部分を上の方(マネジメント)の立場から見ながら、工場の理解に挑む

今回の内容としては次の通りだ。

  • 工場のパフォーマンスは、QCD(品質・コスト・納期)+F(柔軟性)で見るのが基本。

  • 良いパフォーマンスを達成するために、さまざまなオペレーションが存在しているが、大枠としては、生産・在庫・保全・品質の4つの観点がある。

  • それぞれ4つのオペレーションの内容を知っておくと、部署の機能と対応させながら、誰とどのような情報を共有し、連携すれば良いかわかりやすい

  • 組織と機能を俯瞰して結びつけておくことが、スムーズな開発業務のカギ。

初めに工場の経営者の目線から工場を見てみよう。一番上の目線から見ると、工場のパフォーマスを管理するのが仕事になる。ものを作るという視点から見るとこれは、予定されたものを決められた品質で、決められた原価で、期限内に作れたか/作れるかどうかということになる。これはいわゆるQCD(品質・コスト・納期)管理と呼ばれるもので、品質管理、原価管理、工程管理という3つを達成する必要がある。さらに、これら管理をするだけでは市場の変化や時代の流れについていけず競争力を失ってしまう可能性がある。そのため、工場のオペレーションのあり方を企業の戦略に合わせて変化させていける柔軟性(Flexibility)も必要になる。Quality・Cost・DeliveryとFlexibilityを合わせて、QCDFと言ったりもする(図1左)。さて、このQCDFをうまいこと管理していくのが工場であるが、いかにしてこれを達成するかというと、工場の機能群の連携や単一機能の向上によって行うのである。企業システムの機能群(図1右)には、企業が持つ機能とそれらの結びつきが示してある。特に、生産コントロールを中心とした薄い点線で囲われている部分が工場としての機能群となっている(外側は経営システムの機能群)。マネジメントの立場にある人は、この単一/全体としての機能の維持・向上に責任を持つことになる。一方で、機能群の繋がりは、工場にいる人にとっても、工場に馴染みがない人にとって、複雑なことが見てとれるだろう。

図1 工場のパフォーマンスと企業システムの機能群

工場が持つ機能のつながりが複雑に感じて、イメージを掴みにくい理由は、各組織が専門的なことを行なっているためだろう。中にいない人にとってはそもそも具体的に何を行なっているか知る機会があまりないし、中にいる人にとっては各々の業務が専門的で他の部署の業務知識がつきにくい構造だ。しかし、上の方の立場から見れば少しは複雑さを回避しつつ雰囲気を掴むことができる。企業システムの機能群(図1右)には、多くの機能が登場するように見えるが、大きく分けて4つのオペレーションが存在している。すなわち、生産オペレーション、在庫オペレーション、保全オペレーション、品質オペレーションである(図2参照)。マネジメントは、この4つのオペレーションを相互作用させ、QCD目標達成を目指しながら、ものを製造している。

図2 工場におけるオペレーションの4つの大枠

4種類のオペレーションが存在していることがわかったら、機能群の図にそれぞれのオペレーションを重ね合わせてみる。すると、各オペレーションが相互作用している様子がイメージできる(図3)。例えば、次のような感じである。

①経営側からいつまでに、どのくらいの原価で、どのくらいの量の、どのような品質で作るように要求が発生する。
②図3中の点線に接している工場の機能群や点線外の機能群(生産スケジューリング、製造原価管理、品質保証機能群)から、生産オペレーション領域の機能群へと情報が流れていく。
③生産オペレーションと在庫オペレーションが相互にやり取りしながら、材料を製品へ変換していく。
④プロセスの管理や検査などで製品品質が要求通りとなっているか品質オペレーションが生産オペレーションとやり取りを行う。また、設備が悪くなれば、当然QCD に影響があるため、保全オペレーションと生産オペレーションがやり取りを行う。
⑤在庫オペレーションにより、完成製品やプロセスのデータが処理され、経営側で製品出庫管理が行われ、最終的には顧客に向けて製品が出庫される。

図3 企業の機能群とオペレーション種類の関係

一番上から見た工場のオペレーションの雰囲気を掴んだところで少し下に降りて、各オペレーションをもう少し詳しく見てみよう。図4にそれぞれのオペレーションに含まれる大きな括りでの項目を示した。この辺りを自分の会社の部署と結びつけることができると業務で連携する部署や相手を考えたりすることができると思う。特に開発エンジニアは、設計情報を量産設備として展開する上で、どのような内容をどの部署に重点的に伝えるか分かっておくとスムーズに業務が行えるだろう。

図4 各オペレーションに関連する業務

生産オペレーションは、ものを作る時の工程で行われることがまとめられている。4項目あるが、そのうち3つが加工、1つが組み立てとなっている。詳細を覚えておくことで、工程設計やフロー図の読み書き、設備レイアウトなどの理解に役に立つかも知れない。

図5 生産オペレーションの小分類と内容

在庫オペレーションは、モノの流れに関わること全般がまとめられている。エンジニアとは関わりがなさそうと思われるかも知れないが、包装形態や輸送条件の指定も開発業務の範疇となり得るので、地味に接点がある。また、厳密な管理が必要な材料や仕掛品などがある場合は、保存方法や保管方法も設計開発エンジニアがしっかりと情報展開をしておかないといけない。

図6 在庫オペレーションの小分類と内容

保全も開発と関わりが薄いだろうと思われるかも知れないがそんなことはない。例えば、開発エンジニアでも、製造条件の設定やプロセスバリデーションなどの業務に関係することがある。そうなると、安定して製品を製造できる機器の状態を考える必要が出てきて、設備エンジニアとこの部品は寸法がこの程度だったら使えるよね、とか、ここまですり減ったら交換だねとかを考えていく場面があるのだ。

図7 保全オペレーションの小分類と内容

最後に、品質オペレーションであるが、これは大きくプロセスの品質と生産製品の品質管理の2つの項目がある。プロセスの品質管理は、工程の妥当性を保証するための活動となっている。工程の品質度合いを決めるパラメータを設定し、それを測定するための機器を正しい状態に整えた上で、パラメータの測定や試験を行う。生産製品の品質管理は、出来上がった仕掛品や製品を目視や測定機器を使う方法で検査して、製品品質を維持・確認する活動となる。

図8 品質オペレーションの小分類と内容

今回は、ここまで。
内容をまとめると、冒頭に書いた通り次の通りになっています。

  • 工場のパフォーマンスは、QCD(品質・コスト・納期)+F(柔軟性)で見るのが基本。

  • 良いパフォーマンスを達成するために、さまざまなオペレーションが存在しているが、大枠としては、生産・在庫・保全・品質の4つの観点がある。

  • それぞれ4つのオペレーションの内容を知っておくと、部署の機能と対応させながら、誰とどのような情報を共有し、連携すれば良いかわかりやすい

  • 組織と機能を俯瞰して結びつけておくことが、スムーズな開発業務のカギ。

読んでくれた読者の方、ありがとうございました。


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