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開発エンジニアのための工場入門①

春になると就職活動でメーカーを志望していると様々な企業の工場を訪問したり、新入社員として開発エンジニアになり工場勤務になる人たちがいるかもしれない。工場とは、ものづくりが実際に行われる場所であるけれども、少し訪問したり、目前の仕事をしたりしているだけでは巨大なシステムのため、全体観を掴むのが難しい。今回は、開発と工場への理解度をあげるための話をしよう。

今回の話のまとめは次のような感じ。
◯メーカーにとって、工場は大量生産設備を持つ重要な場所で重要な機能の一つ。
◯材料の仕入れ、検査、量産、保管、出荷という流れを効率良く、柔軟に行えるような組織設計がされ、各部門が連携しながら動いている。
◯開発は大きく分けて2つの側面からものづくりに関わる。1つ目は、ニーズなどの情報を具現化すること。もう1つが具現化したものを製品として量産するためのベースを整えること。
◯開発は、特に新製品の立ち上げの際は、既存のモノ・情報の流れの中に、新しい流れを入れ込むために他部署の役割を理解、仕事がやり安いようにサポートしっかり行えるようにすることが大切。

さて、開発と工場の理解をするには、メーカーおける開発の位置付けを理解することが一歩目になる。なぜなら、工場は企業というシステムの一機能であるためだ。
基本的にメーカーというのは、ヒト・モノ・カネというリソースとアイデアや情報を製品として具現化し、それを販売して儲けるシステム(F(X))だ。売れた製品の価値が投入したリソースの入力価値よりも高ければ利益が出て、そうでなければ赤字になる。そのプロセスを分解すると、ざっくりとマーケティング、研究開発、製造、販売という4つのサブシステムが繋がっている。マーケティングによりアイデアや情報を探りながら、研究開発でそれをものに変換するための情報整備を行い、製造で情報を実体に変換する量産設備の実装と運用をし、製品を販売するという流れだ。(研究)開発は、情報を実体化するための情報整備と量産設備の立ち上げという部分を担当することになる。いうまでもなく、ものを売るということをビジネスモデルの中心に据えるメーカーにとって開発と製造は欠かせないプロセスとなっている(図1参照)。

図1 メーカーのビジネスイメージ

メーカーという大きな括りのシステムが理解できたら、開発と製造の部分にフォーカスした理解が必要になる。
まず、製品開発のエンジニアは、大きく分けて2つの側面からものづくりに関わる。1つ目は、ニーズなどの情報を具現化すること(図2 青色箇所)、もう1つが具現化したものを製品として量産するためのベースを整えることだ(図2 黄色箇所)。開発というと、1つ目だけを想像してしまうことが多いが、実際の業務では上記の両方をこなす必要が出てくる。例えば、医療機器開発では、Design input、Design output、Design verification、Design validation、Design transferなどの開発が主幹となるプロセスを通して、具現化や情報整備していく仕事もするが、IQ(Installation Qualification)、OQ(Operational Qualification)、PQ(Performance Qualification)などの設備立ち上げのプロセスや原材料の購買関係、品質保証に関わる業務を行うこともある。
このように開発者は製品生産のにあらゆることに関わりがある。そして、それらの業務が行われている現場が工場であり、多くの開発者が働いている場所でもある。

図2 メーカーの製品開発者が関わる業務

実際に製品が作られるのが工場であるが、企業という大きな組織の中での立ち位置と工場の組織を少し詳しく見てみよう。どんな組織化や機能化がされているかわかれば、業務でも相談に乗ってもらったり、協力関係を築きやすくなったり、自分から働きかけたり出来るようになるからだ。
全社的に見れば、工場は生産部門であり、唯一大量生産設備をもち、生産に特化した役割を果たすことが期待されている。そのため、工場は、材料の仕入れ、検査、量産、保管、出荷という流れを効率良く、柔軟に行えるような組織設計がされている。例えば、材料の仕入れは、購買部が行い、その中には、なるべく安くかつ適切な製品を作れるような材料を買うことを専門にする組織があったり、資材として管理を行う組織があったりする。製造担当の組織を見ても、加工や組立てなど専門分野に特化した部隊が存在していたりするだろう。企業や戦略によっては、製品群ごとに特化した組織構造を取ることもあるかもしれないが、基本的な組織設計の思想には、材料の仕入れ、検査、量産、保管、出荷という流れを高効率で柔軟に回せることがある(図3)。


図3 企業組織と工場の組織の例

組織としての工場の立ち位置と求められる機能・組織体制がわかった後は、工場の中身を見ていこう。工場は巨大で掴み所がないと思う人がいるかもしれないがモノの流れと情報の流れに注目することで大枠の理解が可能だ。図4に、工場内でのモノの流れと情報の流れをざっくりと図示した。黒い矢印で示される横方向の流れが、材料を仕入れて、保管し、加工をして、製品として保管し、必要な量出荷するという流れになっている。縦方向の白い矢印は、情報の流れを表している。例えば、工場の外からは、経営戦略などにより工場でどの製品をどのくらいの価格で、どのくらいの量をいつまでに作るという計画が工場に降りてきたりする。工場の中では、どのくらいの材料をどのくらい買ったかという購買情報や製造した結果として原価がどのくらいになっているか、販売した結果どのくらいの金額になるかといった情報が財務情報として流れることになる。モノが流れるラインは、シンプルなフローになっていて、効率よく処理を行えるような構造になっている。このような組織の繋がり方なら、既存製品を生産する際には、イレギュラーが起きない限り、各部門は決まった情報をもとに、モノを処理していけるからだ。一方で、開発・設計は、モノの流れの中に入っておらず、流れに情報だけを渡すような位置付けになっていることがわかると思う。開発・設計がモノの流れから離れているために、設計段階(図1 青部分)では、他部署とのやり取りが比較的少なく、自部門の仕事に手中できる。新米のエンジニアにとっては割と働きやすい状態だろう。

図4 工場組織の連携の全体観

一方で、量産体制を確立する段階(図1 黄色部分)になると、すでに確立されているフローの中に新しいモノの流れ、情報の流れを入れ込んでいく必要があり、開発が整えた設計情報をさまざまな部署になんとかして展開しなければいけない(図5)。一気に他部署との連携が必要となり、コミュニケーションが非常に多い仕事になる。他部署が協力的であれば、動きやすいだろうが、そうでない場合は無駄な仕事を増やさないでほしいと言わんばかりの顔をされる時もあるかもしれない。工場組織に馴染みがない人には、一体誰に何を頼んで良いのかわからないと思うようなことが起こるかもしれない。

図5 量産体制確立の時の開発と他部署の関わり例

そうならないために、重要なのは、自社工場の組織図をざっくりと頭に入れておくことと図4のように工場のモノの流れ・情報の流れ(必要ならヒトの流れ)を整理しておくことだろう。開発は技術だけでは生きていけないのだ。量産体制確立段階では、既存の流れの中に、新しいモノ・情報の流れを入れ込むために他部署の役割を理解、仕事がやり安いようにサポートしっかり行っていきたい。

さて、今回はここまで。

まとめ
◯メーカーにとって、工場は大量生産設備を持つ重要な場所で重要な機能の一つ。
◯材料の仕入れ、検査、量産、保管、出荷という流れを効率良く、柔軟に行えるような組織設計がされ、各部門が連携しながら動いている。
◯開発は大きく分けて2つの側面からものづくりに関わる。1つ目は、ニーズなどの情報を具現化すること。もう1つが具現化したものを製品として量産するためのベースを整えること。
◯開発は、特に新製品の立ち上げの際は、既存のモノ・情報の流れの中に、新しい流れを入れ込むために他部署の役割を理解、仕事がやり安いようにサポートしっかり行えるようにすることが大切。


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