桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイな…

桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイなどを書いています。 Twitter:@yuyasakurai ウェブサイト:http://www.yuyasakurai.net/

最近の記事

未来 2024年4月号 掲載9首 サヤームにて(1)

差別の芽は我にもありて金髪の後頭部には円き脱毛 西陽射すLCCに<チャイナ>とふ言葉が聞こゆ<チベット>なども 香港にさへスタバはありて資本主義リアリズムたるマーク・フィッシャー 雲の上に舐達麻をば聴きてをり微笑みの国マリファナの国 展翅されたるモルフォのごとき異国語に塗れつつありクメールを思ふ チェンマイの灯籠流しピン川に流れ始めぬをみなの像が トゥクトゥクに走れば蓮の咲くが見ゆ翡翠色なる壕のおもてに 翡翠なるグァバジュースを飲み干せばビニルの多き夜市に入る

    • (芸術は)現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない(マヒト)

      「民族浄化というおぞましい行為を前に音の意義を問われている。音楽は平等にある生の喜びを鼓舞するためにあり、現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない。」(マヒトゥ・ザ・ピーポー @1__gezan__3 2023年12月6日のXにおけるポストより) 全てがシミュレーションのシミュレーション、シミュラークルと化した世界で欲望は資本主義によって駆動されている。経済原理によって我々は「これが自分の本当に欲しいものだ」と刷り込まれている。ポスト・トゥルース時代における「全ての表象

      • いくつかの断章

        ジジェクによれば「人は本当のことを話さない。ゆえにこの世界には何もない」という。 しかしその「無」を、その「無」をこそ、人々は分有(partage、分割=共有)しているとはいえないだろうか。 芸術は近代ヨーロッパの所産である。 芸術が近代ヨーロッパの所産であり、エピステーメー(その時代の思考の枠組み)によって規定されるものであるならば、私たちは芸術を自明のものとみなすことはできないし、近代ヨーロッパ特異の、近代ヨーロッパに限定されたものとして芸術を相対化し得る。 であるな

        • 未来 2024年3月号 掲載1首

          イデアたる言の葉を取り戻すため棕櫚の木の下iPhoneは揺る

        未来 2024年4月号 掲載9首 サヤームにて(1)

          未来 2024年2月号 掲載10首

          ヴィヴィアンの死せる夜半には蠟梅の香りきはだち虚宿冴ゆ あまぎらすBitcoinは古びつつ氷面鏡には花の散るらむ 湖の上のエゴン・シーレの水仙はQアノンなる音を立てたり あえかなる仮想通貨のはだれには月白のごと七里香燃ゆ 烏夜深くWEB3.0色つぼみたり沈丁花のにほひやかにて パパ活のケリュケイオンはうつそみかはなろくしやうの紫微星に凪ぐ 小夜すがら福音の宣教されし風花はメタバースにてかそけく舞へり しらゆりの花の散りぼふTwitter その真闇へと落鳥あらめ

          未来 2024年2月号 掲載10首

          「あなた」という抒情――高塚謙太郎『哥不』感想

          「そしてぼくは、ひとつの魂とひとつの身体のうちに真理を所有することもできるだろう」(アルチュール・ランボー『地獄の一季節』) 「詩はそこでより真なるものになるのではない。詩は、この縁に(sur ce bord)、この限界に(sur cetre limite)に置かれ、放され、打ち捨てられるだけだ。そこから出発してはじめて、真理を――つまりなによりも詩という最後の語の、捉えることができない、予測することができない、意味することのない、来るべきもの(L'a-venir)としての

          「あなた」という抒情――高塚謙太郎『哥不』感想

          未来 2024年1月号 掲載1首

          王老古の甘き馨のせる夏空のマーク・ロスコは丹つらひにけり

          未来 2024年1月号 掲載1首

          未来 2023年12月号 掲載1首

          オッドアイなる白猫にドリアンの爛れたる馨は、ホーチミン・シティ メモ 海彼通信より 桜井さん、ベトナムという土地の象徴性がある。

          未来 2023年12月号 掲載1首

          未来 2023年11月号 掲載1首

          翡翠なる苦蓬飲めばぬばたまの黝き銀蛇のケーレスは鳴く メモ 海彼通信より 桜井さん、このケーレスはケレースでは? 廃頽的な魅力ある一首なのでもう少し細密に描写しても。

          未来 2023年11月号 掲載1首

          未来 2023年10月号 掲載3首

          くれはとりあやはべらとふ蝶は舞ふ紅に染みたるNFTの 玻璃窓の上の雁が音のはしけやしコップンカーと笑みをかへせば 釈迦像は黄金の色に耀ひてMONK CHATの文字ぞ悲しき

          未来 2023年10月号 掲載3首

          未来 2023年9月号 掲載1首

          薄化粧のごとパヴァーヌはつきかげのTikTokに樹華散らしつ

          未来 2023年9月号 掲載1首

          未来 2023年8月号 掲載10首

          iPhoneゆ宇多田ヒカルは響めきつUberEatsの乱鴉らは泊つ 銀白の真珠の指輪つきかげに耀きゐるを指に搦める G線上のアリア流れつわうごんの毒杯をもて我は眠らむ 花蓮の蛋捲よゆびさきに白鳥石の花を散らして ちゃんみなの金砂子なる真夜深くラップをすなるSpotifyはや ギャングスタ・ラップを聴けるハロウィンに月夜烏はあたらよ羽搏つ あをしらの江戸切子にて飲み干しし金砂ゆらめくモエ・エ・シャンドン 翡翠の瑠璃色したる羽根模様七晩続く華燭の典の 鳩の首色した

          未来 2023年8月号 掲載10首

          未来 2023年7月号 掲載9首

          ゆふかげに川久保玲の佇ちてをりかたびらゆきをさやかに掬ふ 一面にかはづざくらの桃花褐に咲き乱れたりNFTは 沈香のドイ・ステープのさくらばなはだれのごとく散りにけるかも つきかげにさやぐ木擦れの玻璃窓ゆそめゐよしののメメント・モリよ いちまいの羽根の零れつほのじろき桜香はさやに散りぼひにけり さくらばなはだれのごとく散りにけり子を生さぬ身のうかるべしやは 珂雪のごとき花筏をば見てしかもそめゐよしのよ悪の華たれ 翡翠なるレーザー流るるクラブにて鶯宿の馨はひめやかに

          未来 2023年7月号 掲載9首

          未来 2023年6月号 掲載2首

          ホス狂のキャバ嬢笑ふAVの流れチェンマイはクリスマスイヴ   桂:桂離宮 南蛮菊:コスモス(鳳林承章『隔冥記』) いやはつはなの銀花降り初むる桂には南蛮菊の咲き乱れたり

          未来 2023年6月号 掲載2首

          未来 2023年5月号 掲載6首

          天使らは禁猟とされきいまだなほガールズバーの羽音のごとく 機上よりつばらに遠きサイゴンは夜半の光に包まれてをり ハロン湾より涼風の吹く夕つ方奇岩をまへに客船は泊つ 聖書中毒たる我が妹の百年生きよと声のするらむ あかねさす紫苑の咲ける沙庭にてうつそみの吾はドリアンを喰む 白木蓮のパルフュムのごと甘やかに水菓茶を飲み下したり

          未来 2023年5月号 掲載6首

          未来 2023年4月号 掲載4首

          バイロンを嘉するよすがはキリエへのテロに始むる新千年紀 保大帝に献じられたる宮廷雅楽は銀鉤として響みけらしな 黴毒病みのアンドロギュノスの果つるごと罌粟の花々散りぼひにけり たまゆらに喉過ぎゆく珈琲をユダの自裁のごとくこほしむ

          未来 2023年4月号 掲載4首