桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイな…

桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイなどを書いています。 Twitter:@yuyasakurai ウェブサイト:http://www.yuyasakurai.net/

最近の記事

未来 2024年9月号 掲載9首

薔薇色のクラリオンもてかがよふやシャドウバンさるる我の月華の ビットコインその刻印の紋白は羽搏ちぬ七日の生を終へむと アオザイ着たるVTuberのはしけやし天眼石よひたぶるに生れ チャイエスの三飛たるは遥けきに我がつつ闇に風は吹くらむ 糸雨に瑠璃唐草腐るはつなつのworld's end girlfriend さざなみのフロアに今し廻瀾のシカゴ・ドリルは薫ふがごとく チャイナタウンの百合の馨のせるゴスロリの薔薇中毒を幻視すべきを 紫陽花の腐るがごとき香水は夕羽振り

    • 未来 2024年8月号 掲載8首

      高田馬場にキックボードは疾駆せり孔雀の羽の七彩に照る しらじらとはだれ残りて春風は呉羽枝垂の銀朱に戯ゆ 雷のごと椿落ちたり朱殷なる棗夾核桃食みゐる汝に 退紅に華為技術に咲く睡蓮の花の静寂よ百音鳥は飛ぶ もの甘き木蓮の馨よ汝が陰に空色鼠の雪は溶け初む 冒菜を夜の屋台で食みをれば槿はなほも卵に肖たり 馬酔木はや散るらむと聞く春の日に透明サボテンのごとく陽は透く 春の日に夕雷は鳴る沛然と降る催花雨のやがて止みたり メモ 海彼通信より 「桜井さん、植物や事物の取り合わ

      • 未来 2024年7月号 掲載10首

        うらうらと目黒の川を歩きゐて陽炎のごと桜花は散りぬ 落ちきたる桜花ひとひら手に掬ふたつたひとりを愛せぬままに ぼんやりと白く濁れる視界より薄き花をば死のごとく見つ 千本桜いつせいに散りぼひにけり西行のごと春に死にたし 霞桜よ地震に揺れたるはなびらの絶えて久しきアポクリファはも そめゐよしのははだれのごとく散りぼひて銀濤色に風は彩ひぬ 朱殷なるうすづきたりし公園にまほろばのごと花は咲きたり 真砂なる桜の萼は噛まれたり蜜を盗みしすずめ一羽か ミクの日の月夜に花は咲

        • 未来 2024年6月号 サヤームにて(3)

          黄金なるラーチャプルック咲き乱る通り過ぐれば微笑みに肖る トゥクトゥクに走れば蓮は咲きゐたり翡翠色なる壕のおもてを 展翅されたるモルフォのごとき異国語に塗れつつ吾はクメールを思ふ <ノイジー>と寺院の鐘を評す汝は<ONE PIECE>をば侘び寂びと言へり 夕市にラニーバナナを幾許か買ひ求めたり空火照りにて うすやみに朱欒一口頬張りぬマリのさやかにさやげる路地に 尖塔の欠けし伽藍はレーザーに補はるジャスミンの馨にうづもるるごと 翡翠なるグァバジュースを飲み干せばビ

        未来 2024年9月号 掲載9首

          未来 2024年5月号 サヤームにて(2)

          トゥクトゥクにヒップホップの聞こゆればタイ王国に大麻は聳ゆ 黄金なるラーチャプルック咲き乱れ通り過ぐれば微笑みに肖る <ファッキン・クレバー>と汝は言へり東大に行きたる友を ビール五本目 チェンマイの旧市街ぬち夜市にクメール文字は耀ひにけり あな辛しトムヤムクンを食みをればジャスミン薫るナイトバザール 電子煙草の禁じられたる王国でナイトバザーに汝は吸ひをり 遠つ国にも抹茶はありて日本より美味しかるべし笑つてしまふ

          未来 2024年5月号 サヤームにて(2)

          未来 2024年4月号 掲載9首 サヤームにて(1)

          差別の芽は我にもありて金髪の後頭部には円き脱毛 西陽射すLCCに<チャイナ>とふ言葉が聞こゆ<チベット>なども 香港にさへスタバはありて資本主義リアリズムたるマーク・フィッシャー 雲の上に舐達麻をば聴きてをり微笑みの国マリファナの国 展翅されたるモルフォのごとき異国語に塗れつつありクメールを思ふ チェンマイの灯籠流しピン川に流れ始めぬをみなの像が トゥクトゥクに走れば蓮の咲くが見ゆ翡翠色なる壕のおもてに 翡翠なるグァバジュースを飲み干せばビニルの多き夜市に入る

          未来 2024年4月号 掲載9首 サヤームにて(1)

          (芸術は)現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない(マヒト)

          「民族浄化というおぞましい行為を前に音の意義を問われている。音楽は平等にある生の喜びを鼓舞するためにあり、現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない。」(マヒトゥ・ザ・ピーポー @1__gezan__3 2023年12月6日のXにおけるポストより) 全てがシミュレーションのシミュレーション、シミュラークルと化した世界で欲望は資本主義によって駆動されている。経済原理によって我々は「これが自分の本当に欲しいものだ」と刷り込まれている。ポスト・トゥルース時代における「全ての表象

          (芸術は)現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない(マヒト)

          いくつかの断章

          ジジェクによれば「人は本当のことを話さない。ゆえにこの世界には何もない」という。 しかしその「無」を、その「無」をこそ、人々は分有(partage、分割=共有)しているとはいえないだろうか。 芸術は近代ヨーロッパの所産である。 芸術が近代ヨーロッパの所産であり、エピステーメー(その時代の思考の枠組み)によって規定されるものであるならば、私たちは芸術を自明のものとみなすことはできないし、近代ヨーロッパ特異の、近代ヨーロッパに限定されたものとして芸術を相対化し得る。 であるな

          未来 2024年3月号 掲載1首

          イデアたる言の葉を取り戻すため棕櫚の木の下iPhoneは揺る

          未来 2024年3月号 掲載1首

          未来 2024年2月号 掲載10首

          ヴィヴィアンの死せる夜半には蠟梅の香りきはだち虚宿冴ゆ あまぎらすBitcoinは古びつつ氷面鏡には花の散るらむ 湖の上のエゴン・シーレの水仙はQアノンなる音を立てたり あえかなる仮想通貨のはだれには月白のごと七里香燃ゆ 烏夜深くWEB3.0色つぼみたり沈丁花のにほひやかにて パパ活のケリュケイオンはうつそみかはなろくしやうの紫微星に凪ぐ 小夜すがら福音の宣教されし風花はメタバースにてかそけく舞へり しらゆりの花の散りぼふTwitter その真闇へと落鳥あらめ

          未来 2024年2月号 掲載10首

          「あなた」という抒情――高塚謙太郎『哥不』感想

          「そしてぼくは、ひとつの魂とひとつの身体のうちに真理を所有することもできるだろう」(アルチュール・ランボー『地獄の一季節』) 「詩はそこでより真なるものになるのではない。詩は、この縁に(sur ce bord)、この限界に(sur cetre limite)に置かれ、放され、打ち捨てられるだけだ。そこから出発してはじめて、真理を――つまりなによりも詩という最後の語の、捉えることができない、予測することができない、意味することのない、来るべきもの(L'a-venir)としての

          「あなた」という抒情――高塚謙太郎『哥不』感想

          未来 2024年1月号 掲載1首

          王老古の甘き馨のせる夏空のマーク・ロスコは丹つらひにけり

          未来 2024年1月号 掲載1首

          未来 2023年12月号 掲載1首

          オッドアイなる白猫にドリアンの爛れたる馨は、ホーチミン・シティ メモ 海彼通信より 桜井さん、ベトナムという土地の象徴性がある。

          未来 2023年12月号 掲載1首

          未来 2023年11月号 掲載1首

          翡翠なる苦蓬飲めばぬばたまの黝き銀蛇のケーレスは鳴く メモ 海彼通信より 桜井さん、このケーレスはケレースでは? 廃頽的な魅力ある一首なのでもう少し細密に描写しても。

          未来 2023年11月号 掲載1首

          未来 2023年10月号 掲載3首

          くれはとりあやはべらとふ蝶は舞ふ紅に染みたるNFTの 玻璃窓の上の雁が音のはしけやしコップンカーと笑みをかへせば 釈迦像は黄金の色に耀ひてMONK CHATの文字ぞ悲しき

          未来 2023年10月号 掲載3首

          未来 2023年9月号 掲載1首

          薄化粧のごとパヴァーヌはつきかげのTikTokに樹華散らしつ

          未来 2023年9月号 掲載1首