桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイな…

桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイなどを書いています。 Twitter:@yuyasakurai ウェブサイト:http://www.yuyasakurai.net/

最近の記事

未来 2023年11月号 掲載1首

翡翠なる苦蓬飲めばぬばたまの黝き銀蛇のケーレスは鳴く メモ 海彼通信より 桜井さん、このケーレスはケレースでは? 廃頽的な魅力ある一首なのでもう少し細密に描写しても。

    • 未来 2023年10月号 掲載3首

      くれはとりあやはべらとふ蝶は舞ふ紅に染みたるNFTの 玻璃窓の上の雁が音のはしけやしコップンカーと笑みをかへせば 釈迦像は黄金の色に耀ひてMONK CHATの文字ぞ悲しき

      • 未来 2023年9月号 掲載1首

        薄化粧のごとパヴァーヌはつきかげのTikTokに樹華散らしつ

        • 未来 2023年8月号 掲載10首

          iPhoneゆ宇多田ヒカルは響めきつUberEatsの乱鴉らは泊つ 銀白の真珠の指輪つきかげに耀きゐるを指に搦める G線上のアリア流れつわうごんの毒杯をもて我は眠らむ 花蓮の蛋捲よゆびさきに白鳥石の花を散らして ちゃんみなの金砂子なる真夜深くラップをすなるSpotifyはや ギャングスタ・ラップを聴けるハロウィンに月夜烏はあたらよ羽搏つ あをしらの江戸切子にて飲み干しし金砂ゆらめくモエ・エ・シャンドン 翡翠の瑠璃色したる羽根模様七晩続く華燭の典の 鳩の首色した

        未来 2023年11月号 掲載1首

          未来 2023年7月号 掲載9首

          ゆふかげに川久保玲の佇ちてをりかたびらゆきをさやかに掬ふ 一面にかはづざくらの桃花褐に咲き乱れたりNFTは 沈香のドイ・ステープのさくらばなはだれのごとく散りにけるかも つきかげにさやぐ木擦れの玻璃窓ゆそめゐよしののメメント・モリよ いちまいの羽根の零れつほのじろき桜香はさやに散りぼひにけり さくらばなはだれのごとく散りにけり子を生さぬ身のうかるべしやは 珂雪のごとき花筏をば見てしかもそめゐよしのよ悪の華たれ 翡翠なるレーザー流るるクラブにて鶯宿の馨はひめやかに

          未来 2023年7月号 掲載9首

          未来 2023年6月号 掲載2首

          ホス狂のキャバ嬢笑ふAVの流れチェンマイはクリスマスイヴ   桂:桂離宮 南蛮菊:コスモス(鳳林承章『隔冥記』) いやはつはなの銀花降り初むる桂には南蛮菊の咲き乱れたり

          未来 2023年6月号 掲載2首

          未来 2023年5月号 掲載6首

          天使らは禁猟とされきいまだなほガールズバーの羽音のごとく 機上よりつばらに遠きサイゴンは夜半の光に包まれてをり ハロン湾より涼風の吹く夕つ方奇岩をまへに客船は泊つ 聖書中毒たる我が妹の百年生きよと声のするらむ あかねさす紫苑の咲ける沙庭にてうつそみの吾はドリアンを喰む 白木蓮のパルフュムのごと甘やかに水菓茶を飲み下したり

          未来 2023年5月号 掲載6首

          未来 2023年4月号 掲載4首

          バイロンを嘉するよすがはキリエへのテロに始むる新千年紀 保大帝に献じられたる宮廷雅楽は銀鉤として響みけらしな 黴毒病みのアンドロギュノスの果つるごと罌粟の花々散りぼひにけり たまゆらに喉過ぎゆく珈琲をユダの自裁のごとくこほしむ

          未来 2023年4月号 掲載4首

          未来2023年3月号 掲載1首

          夜もすがら魔都上海に天聳る廃殿のごとビルは顕る

          未来2023年3月号 掲載1首

          未来 2023年2月号 掲載9首

          遊女の小町紅引くあたらよにすきとほりしは蜻蛉の翅か 月に照る曼珠沙華をぞ見てをりぬ空花求むる狂言とかも すすきのに蛾と紛ひたる蝶のゐて春と修羅など思ひうべなふ 供華添ふる手は氷花にて娶らざるまま九月が終はる ロウマ桜は生ふるにあらず薄るるやはなろくしやうの初音ミクはも 夜のほどろ碧瑠璃の七彩は海月の骨のごとくかげろふ 銀濤色にブリーチをせるまふまふの眸のひかりは凍玻璃のごと 紫紺なる翅を封じて蛾の眠る花芒にはしじまをば聞け あをくもの白鳥石の城ぬちにこひびとら

          未来 2023年2月号 掲載9首

          未来 2023年1月号 掲載10首

          瑠璃色の蜻蛉飛びける吉原のつまくれなゐにおもひあくがる 曼珠沙華咥ふる手にはひたあをの水精ありや毒持つものを あかねさす紫電の断ちし叢雲にかぐろき翳はさやげにけりな うつそみに帝が天降る流灯のおぼおぼしきに鬼灯は燃ゆ 麝香猫果の銀食器の上に置かれゐるあふひすみれのたぎつまにまに トー横にノンクロンせるわかびとの蜻蛉羽さやに風はひよめく グリ下の洎夫藍色の蛾羽を珂雪のごとき光が照らす 平家の裔の住まひたるとふ湯西川おぼろおぼろに霞みてゐたり 唐草の東照宮を見上ぐ

          未来 2023年1月号 掲載10首

          未来 2022年12月号 掲載5首

          ちはやぶるGod Save The Queenうたた心のパパ活狩りの 下北沢の新雪園に海鮮の焼きそばを食む牡蠣は残しつ 草臥れし向日葵の茎のやや折れてヴィトンを持つはパパ活なりや forget me notてふ青空に鎮魂の曲は響みけらしな ダイアナの死にたる朝のヒステリア 女王の罷る偽りの栄え

          未来 2022年12月号 掲載5首

          未来 2022年11月号 掲載8首

          黄金のドリアンの馨の零るるや風薫るフエまで来たりなば 昇龍のみづうみに泛く花梨とは月に隠るる妖精王なりや あなあはれ反魂草の咲きながら狂るるごとく洗礼を受く ガザのごと荒廃したる工場を子に見せにける女が笑まふ 胸奥に不協和音を奏でつる黄金の色のヤコブズ・ラダー 異国語の波濤砕くる夕つ方高田馬場は青く霞みぬ 雨止みて烏鳴き初むる暁闇の霧らふに花を友としながら レイ・ハラカミを聴く短夜に梔子の咲き乱れつつ雪にあらずや

          未来 2022年11月号 掲載8首

          未来 2022年10月号 掲載10首

          かぎろひのはたてに響むヴィオロンの黝き痣もて祝福をせよ VTuberの正典に触るる星座にて薔薇中毒のロザリオを繰る モスクワは燃えてゐるか幾万の屍の眼の青き燐火に 薫風に青葉躍れる蘭の上の花蟷螂は水葬されき 虫食ひの紫陽花の葉を見てをりぬ烏揚羽はためらひがちに 半神のおもかげありてセルフィーに六花降りつるかそけき自瀆 姫釣鐘は地下アイドルの贄なるか銀のコインの腐るごとくに 薔薇色のクラリオンもて芍薬のおまへの罪を数へろ 天使 薄荷油を垂らしし後の鼻腔より香気を

          未来 2022年10月号 掲載10首

          桂離宮――敗者の美学

          日本では古来より『万葉集』や『古今和歌集』に代表される「花鳥風月」「雪月花」という美意識が連綿と続いている。花は散り、鳥の鳴き声は途切れ、風は凪ぎ、雪は溶け、そして月は満ち欠けを繰り返す。そうしたどこか欠落したもの、未完成なものに対するものに古来より日本人は美を感じてきた。たとえば、和歌の「もののあはれ」、能の「幽玄」、茶道の「侘び」、松尾芭蕉の「さび」。百人一首には月を詠った和歌が12首もある。 なげけとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな(「嘆け」といって月が私に

          桂離宮――敗者の美学

          未来 2022年9月号 掲載10首

          聖ちいかわはプリマヴェーラの裔なるかシーフード散るパエリア美しも 反天皇の<主よ憐れみ給へ>聴こえたりピジョン・ブラッドの磔刑のごと モニターの<スノウ・クラッシュ>は止まずしてオムニバースの白左もこそ 男娼のルージュのごとくI.N.R.I.燃ゆ水晶の夜げに美しきやも 首府キーウなほ顕ちてをり春寒の帝図を燻る不香の花は 芒種はや躑躅の咲く梅雨寒に微醺を帯びしメガリ・イデアの ワルプルギスのメタバースたるシオンには聖別されしサトシ・ナカモト 月、それはプロセルピナ

          未来 2022年9月号 掲載10首