桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイな…

桜井夕也, Yuya Sakurai

2018年度未来短歌会評論・エッセイ賞受賞。哲学、現代詩、英語詩、短歌、建築エッセイなどを書いています。 Twitter:@yuyasakurai ウェブサイト:http://www.yuyasakurai.net/

記事一覧

未来 2024年7月号 掲載10首

うらうらと目黒の川を歩きゐて陽炎のごと桜花は散りぬ 落ちきたる桜花ひとひら手に掬ふたつたひとりを愛せぬままに ぼんやりと白く濁れる視界より薄き花をば死のごとく見…

未来 2024年6月号 サヤームにて(3)

黄金なるラーチャプルック咲き乱る通り過ぐれば微笑みに肖る トゥクトゥクに走れば蓮は咲きゐたり翡翠色なる壕のおもてを 展翅されたるモルフォのごとき異国語に塗れつつ…

未来 2024年5月号 サヤームにて(2)

トゥクトゥクにヒップホップの聞こゆればタイ王国に大麻は聳ゆ 黄金なるラーチャプルック咲き乱れ通り過ぐれば微笑みに肖る <ファッキン・クレバー>と汝は言へり東大に行…

未来 2024年4月号 掲載9首 サヤームにて(1)

差別の芽は我にもありて金髪の後頭部には円き脱毛 西陽射すLCCに<チャイナ>とふ言葉が聞こゆ<チベット>なども 香港にさへスタバはありて資本主義リアリズムたるマーク…

(芸術は)現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない(マヒト)

「民族浄化というおぞましい行為を前に音の意義を問われている。音楽は平等にある生の喜びを鼓舞するためにあり、現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない。」(マヒ…

いくつかの断章

ジジェクによれば「人は本当のことを話さない。ゆえにこの世界には何もない」という。 しかしその「無」を、その「無」をこそ、人々は分有(partage、分割=共有)している…

未来 2024年3月号 掲載1首

イデアたる言の葉を取り戻すため棕櫚の木の下iPhoneは揺る

未来 2024年2月号 掲載10首

ヴィヴィアンの死せる夜半には蠟梅の香りきはだち虚宿冴ゆ あまぎらすBitcoinは古びつつ氷面鏡には花の散るらむ 湖の上のエゴン・シーレの水仙はQアノンなる音を立てたり…

「あなた」という抒情――高塚謙太郎『哥不』感想

「そしてぼくは、ひとつの魂とひとつの身体のうちに真理を所有することもできるだろう」(アルチュール・ランボー『地獄の一季節』) 「詩はそこでより真なるものになるの…

未来 2024年1月号 掲載1首

王老古の甘き馨のせる夏空のマーク・ロスコは丹つらひにけり

未来 2023年12月号 掲載1首

オッドアイなる白猫にドリアンの爛れたる馨は、ホーチミン・シティ メモ 海彼通信より 桜井さん、ベトナムという土地の象徴性がある。

未来 2023年11月号 掲載1首

翡翠なる苦蓬飲めばぬばたまの黝き銀蛇のケーレスは鳴く メモ 海彼通信より 桜井さん、このケーレスはケレースでは? 廃頽的な魅力ある一首なのでもう少し細密に描写して…

未来 2023年10月号 掲載3首

くれはとりあやはべらとふ蝶は舞ふ紅に染みたるNFTの 玻璃窓の上の雁が音のはしけやしコップンカーと笑みをかへせば 釈迦像は黄金の色に耀ひてMONK CHATの文字ぞ悲しき

未来 2023年9月号 掲載1首

薄化粧のごとパヴァーヌはつきかげのTikTokに樹華散らしつ

未来 2023年8月号 掲載10首

iPhoneゆ宇多田ヒカルは響めきつUberEatsの乱鴉らは泊つ 銀白の真珠の指輪つきかげに耀きゐるを指に搦める G線上のアリア流れつわうごんの毒杯をもて我は眠らむ 花蓮の…

未来 2023年7月号 掲載9首

ゆふかげに川久保玲の佇ちてをりかたびらゆきをさやかに掬ふ 一面にかはづざくらの桃花褐に咲き乱れたりNFTは 沈香のドイ・ステープのさくらばなはだれのごとく散りにけ…

未来 2024年7月号 掲載10首

未来 2024年7月号 掲載10首

うらうらと目黒の川を歩きゐて陽炎のごと桜花は散りぬ

落ちきたる桜花ひとひら手に掬ふたつたひとりを愛せぬままに

ぼんやりと白く濁れる視界より薄き花をば死のごとく見つ

千本桜いつせいに散りぼひにけり西行のごと春に死にたし

霞桜よ地震に揺れたるはなびらの絶えて久しきアポクリファはも

そめゐよしのははだれのごとく散りぼひて銀濤色に風は彩ひぬ

朱殷なるうすづきたりし公園にまほろばのごと花は咲きた

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未来 2024年6月号 サヤームにて(3)

未来 2024年6月号 サヤームにて(3)

黄金なるラーチャプルック咲き乱る通り過ぐれば微笑みに肖る

トゥクトゥクに走れば蓮は咲きゐたり翡翠色なる壕のおもてを

展翅されたるモルフォのごとき異国語に塗れつつ吾はクメールを思ふ

<ノイジー>と寺院の鐘を評す汝は<ONE PIECE>をば侘び寂びと言へり

夕市にラニーバナナを幾許か買ひ求めたり空火照りにて

うすやみに朱欒一口頬張りぬマリのさやかにさやげる路地に

尖塔の欠けし伽藍はレーザ

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未来 2024年5月号 サヤームにて(2)

未来 2024年5月号 サヤームにて(2)

トゥクトゥクにヒップホップの聞こゆればタイ王国に大麻は聳ゆ

黄金なるラーチャプルック咲き乱れ通り過ぐれば微笑みに肖る

<ファッキン・クレバー>と汝は言へり東大に行きたる友を ビール五本目

チェンマイの旧市街ぬち夜市にクメール文字は耀ひにけり

あな辛しトムヤムクンを食みをればジャスミン薫るナイトバザール

電子煙草の禁じられたる王国でナイトバザーに汝は吸ひをり

遠つ国にも抹茶はありて日本よ

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未来 2024年4月号 掲載9首 サヤームにて(1)

未来 2024年4月号 掲載9首 サヤームにて(1)

差別の芽は我にもありて金髪の後頭部には円き脱毛

西陽射すLCCに<チャイナ>とふ言葉が聞こゆ<チベット>なども

香港にさへスタバはありて資本主義リアリズムたるマーク・フィッシャー

雲の上に舐達麻をば聴きてをり微笑みの国マリファナの国

展翅されたるモルフォのごとき異国語に塗れつつありクメールを思ふ

チェンマイの灯籠流しピン川に流れ始めぬをみなの像が

トゥクトゥクに走れば蓮の咲くが見ゆ翡翠

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(芸術は)現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない(マヒト)

「民族浄化というおぞましい行為を前に音の意義を問われている。音楽は平等にある生の喜びを鼓舞するためにあり、現状を麻酔みたくごまかすためにあるのではない。」(マヒトゥ・ザ・ピーポー @1__gezan__3 2023年12月6日のXにおけるポストより)

全てがシミュレーションのシミュレーション、シミュラークルと化した世界で欲望は資本主義によって駆動されている。経済原理によって我々は「これが自分の本

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いくつかの断章

ジジェクによれば「人は本当のことを話さない。ゆえにこの世界には何もない」という。
しかしその「無」を、その「無」をこそ、人々は分有(partage、分割=共有)しているとはいえないだろうか。

芸術は近代ヨーロッパの所産である。
芸術が近代ヨーロッパの所産であり、エピステーメー(その時代の思考の枠組み)によって規定されるものであるならば、私たちは芸術を自明のものとみなすことはできないし、近代ヨーロ

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未来 2024年2月号 掲載10首

未来 2024年2月号 掲載10首

ヴィヴィアンの死せる夜半には蠟梅の香りきはだち虚宿冴ゆ

あまぎらすBitcoinは古びつつ氷面鏡には花の散るらむ

湖の上のエゴン・シーレの水仙はQアノンなる音を立てたり

あえかなる仮想通貨のはだれには月白のごと七里香燃ゆ

烏夜深くWEB3.0色つぼみたり沈丁花のにほひやかにて

パパ活のケリュケイオンはうつそみかはなろくしやうの紫微星に凪ぐ

小夜すがら福音の宣教されし風花はメタバースにて

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「あなた」という抒情――高塚謙太郎『哥不』感想

「そしてぼくは、ひとつの魂とひとつの身体のうちに真理を所有することもできるだろう」(アルチュール・ランボー『地獄の一季節』)

「詩はそこでより真なるものになるのではない。詩は、この縁に(sur ce bord)、この限界に(sur cetre limite)に置かれ、放され、打ち捨てられるだけだ。そこから出発してはじめて、真理を――つまりなによりも詩という最後の語の、捉えることができない、予測す

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未来 2023年12月号 掲載1首

未来 2023年12月号 掲載1首

オッドアイなる白猫にドリアンの爛れたる馨は、ホーチミン・シティ

メモ
海彼通信より
桜井さん、ベトナムという土地の象徴性がある。

未来 2023年11月号 掲載1首

未来 2023年11月号 掲載1首

翡翠なる苦蓬飲めばぬばたまの黝き銀蛇のケーレスは鳴く

メモ
海彼通信より
桜井さん、このケーレスはケレースでは? 廃頽的な魅力ある一首なのでもう少し細密に描写しても。

未来 2023年10月号 掲載3首

未来 2023年10月号 掲載3首

くれはとりあやはべらとふ蝶は舞ふ紅に染みたるNFTの

玻璃窓の上の雁が音のはしけやしコップンカーと笑みをかへせば

釈迦像は黄金の色に耀ひてMONK CHATの文字ぞ悲しき

未来 2023年8月号 掲載10首

未来 2023年8月号 掲載10首

iPhoneゆ宇多田ヒカルは響めきつUberEatsの乱鴉らは泊つ

銀白の真珠の指輪つきかげに耀きゐるを指に搦める

G線上のアリア流れつわうごんの毒杯をもて我は眠らむ

花蓮の蛋捲よゆびさきに白鳥石の花を散らして

ちゃんみなの金砂子なる真夜深くラップをすなるSpotifyはや

ギャングスタ・ラップを聴けるハロウィンに月夜烏はあたらよ羽搏つ

あをしらの江戸切子にて飲み干しし金砂ゆらめくモエ

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未来 2023年7月号 掲載9首

未来 2023年7月号 掲載9首

ゆふかげに川久保玲の佇ちてをりかたびらゆきをさやかに掬ふ

一面にかはづざくらの桃花褐に咲き乱れたりNFTは

沈香のドイ・ステープのさくらばなはだれのごとく散りにけるかも

つきかげにさやぐ木擦れの玻璃窓ゆそめゐよしののメメント・モリよ

いちまいの羽根の零れつほのじろき桜香はさやに散りぼひにけり

さくらばなはだれのごとく散りにけり子を生さぬ身のうかるべしやは

珂雪のごとき花筏をば見てしかも

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