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未来 2024年7月号 掲載10首

うらうらと目黒の川を歩きゐて陽炎のごと桜花は散りぬ

落ちきたる桜花ひとひら手に掬ふたつたひとりを愛せぬままに

ぼんやりと白く濁れる視界より薄き花をば死のごとく見つ

千本桜いつせいに散りぼひにけり西行のごと春に死にたし

霞桜よ地震なゐに揺れたるはなびらの絶えて久しきアポクリファはも

そめゐよしのははだれのごとく散りぼひて銀濤色に風はいろひぬ

朱殷なるうすづきたりし公園にまほろばのごと花は咲きたり

真砂なる桜の萼は噛まれたり蜜を盗みしすずめ一羽か

ミクの日の月夜に花は咲きゐたり薄きひかりにうてな照りつつ

桜の森の満開の下白銀しろがねの風に吹かれつはなびらは舞ふ



メモ
欄頭ページ2番目でした。

海彼通信より
「桜井さんは古風な文体を刺激的に再生させている。江戸情緒と現代の衝突だ。」

「短歌が短歌である理由。それはとりもなおさず、「韻文」であるということだ。韻文であるということは、すなわち、散文ではないということだ。皮肉な言い方ではあるが、しかし、言語表現が効率化、経済主義の波に飲み込まれないためにも、どこかで韻文精神をこの世に伝えねばならぬ。短歌はその器の一つだろう。」黒瀬珂瀾さん「未来」2024年7月号 海彼通信より

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