【43】「購買をうながす文章」を書く技術に迫る。
ライターとして文章で生計を立てるならば、「購買をうながす文章」を書く機会がかならずあるでしょう。
要するに「買ってくれ」という文章のことです。
具体的には
・アフィリエイト
・広告
・コーポレートサイト
・サービス・商品の推薦文
・レビュー
・会員勧誘
など。
実際、この分野はライターへの需要があり、
「いい商品だから買ってください」
「美味しいからおすすめ」
「快適なサービスです」
といった紹介文は、メディアのマネタイズに不可欠なため、Books&Appsにも数多くの「購買をうながす文章」が掲載されています。
これは「ページビューを稼ぐ技術」とはまた異なっていますので、今回はそれについて説明します。
「買いたくなる」文章とは
で、実際の例なのですが、例えば1ヶ月半ほど前にBooks&Appsに掲載された、「しんざきさん」による、次の記事です。
オースン・スコット・カードの「エンダーのゲーム」「死者の代弁者」が超絶名作なので読んで欲しいという話
それは、「エンダーのゲーム」から始まる、いわゆる「エンダーシリーズ」。
その中でも特に二作目、「死者の代弁者」については名作中の名作と言ってしまってなんら過言ではない素晴らしい一作でして、SFとして読んでも、ミステリーとして読んでも、ヒューマンドラマとして読んでも、群像劇として読んでも、頭の先からつま先まで1ミリの隙もなく何から何まで面白いという傑作SFなのです。
正直「死者の代弁者」についてはどれほどハードルを上げても上げすぎということはないだろうと私は思っているのですが、しかしただ一つ注意点があります。
我々は、「死者の代弁者」を読む前に、この素晴らしい作品を100%楽しむ為にも、まず「エンダーのゲーム」を読んでおくべきなのです。
「SF小説」という、極めてターゲットの小さい話を扱ってはいますが、この記事は公開して1ヶ月半、この記事で紹介されている「エンダーのゲーム」を始めとするのSF小説が、すでに記事経由で50冊以上売れているのです。
これは、アマゾンのアフィリエイトリンクを介して計測された数だけなので、実際には100冊近く売れている可能性があります。
(「エンダーのゲーム」シリーズは映画化もされているほどの超名作SF小説なのですが、確かに間違いなくおすすめです。)
この文章から「すぐに購買」に至る人が50名以上もいて、未だに記事から売れ続けている。
SF小説というジャンルから見ると、この成果は決して悪くないどころか、かなり大きいものと言えます。
「購買意欲のわかない文章」とは
ただ、対照的に「購買意欲のわかない文章」があることも、また事実です。
例えば「エンダーのゲーム」についての書評をweb上で調べてみると、幾つかの書評が見つかります。
『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード
例えばSFを読んだ事の無い人に、SFの面白さを伝えることの難しさは......うーん、至難の業ですね! まったくこのジャンルに興味がないのですから、どうにもならない。
しかし興味を持つチャンスは今までにも何度かあったはず。その時今からご紹介いたします『エンダーのゲーム』に出会っていたら、人生ひっくり返るほどの衝撃を持ったに違いありません。
上の書評は、書店員の方が書かれた書評なのですが、大変恐縮ながら、今ひとつ「買おう」という気が起きない書評です。
あるいは下のブログ。
「一番面白い本でした」とあり、下にアフィリエイトリンクも張ってあるのですが、今ひとつ食指が動かない書評になっています。
戦いを宿命づけられた3番目(サード)の子ども【読書感想文】『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード/ハヤカワ文庫
最近読んだ中で1番面白い本でした。大人たちの陰謀に乗せられながらも、成長し仲間を見つけていくストーリーはまさに王道です。まだ商用ネットワークが始まる前、最初期のパソコンが出回り始めた時代の小説なのですが、タブレット型の端末(デスク)やインターネット、近年のSNSで見られる炎上のような手法も書かれており、全く古臭さを感じませんでした。1周回って現代の読者にも受け入れられる内容です
さらに比較としてわかりやすいのは、Amazonにおける「エンダーのゲーム」の書評です。
ここでは、エンダーのゲームに対して「高評価」を与えた2つのレビューを比較してみましょう。
まずこちらは「3人」が参考になったと感じる書評です。
指揮官たるもの……
二等兵がブートキャンプから一人前の兵士になるまでを描く小説は世の中にあふれていますが、良き指揮官になるにはと士官学校を描いたのは「愛と青春の旅立ち」くらいいしか知らないなぁ。主人公はゲーム形式の訓練で実力を発揮していくわけですが、常に不利な状態でゲームははじまります。現実の戦い(生活)もそうで、常に情報は非対称、戦力は少なく他の問題も不利なことが多い。それらの条件を覆してこそ指揮官であり、人の上に立つものであるということがよくわかります。
物語は少年の不利な日常生活と重なるように、訓練も不利な形で進められます。それをエンダーの卓越した才能で乗り切っていくわけですが、兄弟、親子、教師と生徒、上司と部下など多くのシチュエーションで対立と理解、協働が描かれます。「これは見逃してたなぁ」というのが正直な感想です。
ちなみに映画より小説のほうが細部が描かれていて楽しめると思います。原作の雰囲気を味わうために読んだ後、映画も見てください。逆だと面白さが半減すると思います。
そして、こちらは「37人」もの人が参考になったと感じる書評です。
ルールの無いゲームはゲームか?
20年ほども前に、高橋源一郎氏が何かに書いていた書評を読み、旧訳版で読んでみました。それまでSFには手を出さずにいたのですが、読後他の古典と呼ばれるSF作品を読むようになりました。今回新訳で再読。映画化されたということでこの新訳版が出ましたが、おそらく小説として読むほうが何倍も面白く感じるはずです(映画の方はまだ観てないですし、観に行くつもりですが…)。(多くのSF作品がそうですが、映画は小説の解釈の参考としてすごく意味があるものだと思います。)
教育も競争も、生き残りのための戦いも、人生も(?)、人は「ゲーム」としてとらえるのが分かりやすいので、とりあえず「ゲーム」として位置づけてプレイする(/させる)のだなあと、でもそれは「ゲーム」ではない、なにか名づけがたいものを生きることそのものなのだなあ、と日常を反省するきっかけになりました。解説には、「本作における『指導者の条件とは』という問いかけは、多くの職業軍人の琴線に触れたと言われており、なかでもアメリカ海兵隊は、本作を下士官および士官候補生たちへの推薦図書リストに載せ、海兵隊大学でリーダーシップ演習の教材として使用しているともいう。」とあります。リーダー論として、また経営学的発想を刺激するモデルケースとしても読めると思います。
長さも、語り口も、「映画」に触れている部分も同じなのですが、お読みいただくと後者のほうが遥かに「購買につながる」文章だと思われる方が多いのではないでしょうか。
「買いたくなる」と「購買意欲がわかない」の境界
では一体なぜ、後者のレビューのほうが、購買意欲をそそるのでしょう。
こうした事例からわかる、「買いたくなる文章」と「購買意欲がわかない文章」の本質的な境界はどこにあるのでしょうか。
それは以下の3点に集約されます。
順を追って、説明しましょう。
1.
購買意欲がわかない文章は「商品の内容」にフォーカスするが、
買いたくなる文章は「読者の属性」にフォーカスする。
最も購買意欲のわかない書評は実は、「あらすじの紹介」に終止する書評です。
というのも読者は「あらすじ」を読んで、買うかどうかを決定するわけではないからです。
これは「商材」や「サービス」を紹介するのと全く同様で、基本的に読者は「商品やサービスのスペック」に興味はありません。
商品やサービスのスペックに興味を持たれるシーンは、すでに購買の意志が固まり、「ポチる直前」の確認です。
したがって、「購買意欲の喚起」の段階では、多くの場合無視されます。
では何を読んで買うかどうかを決定するか。
それは「こんな人におすすめです」がピタリとハマるときです。
例えば本であれば、
「失恋した主人公が、立ち直るまでの物語です、どんな話かというと〜」と紹介されるより
「失恋した直後の人におすすめです。なぜなら〜」
と紹介されたほうが、購買に繋がりやすい。
「部下の指導ノウハウを網羅した本です。例えば〜」と紹介されるより
「部下を初めて持った方におすすめです。なぜなら〜」
と紹介されたほうが、購買に繋がりやすい。
「ミニマリストの◯◯さんの生活ノウハウを細大漏らさず紹介した本です。例えば〜」と紹介されるより
「シンプルで、ミニマルな生活を、2週間以内に実現したい人におすすめです。なぜなら〜」
と紹介されたほうが購買に繋がりやすい。
「エンダーのゲーム」のAmazonレビューにおいて、後者のほうが「参考になる」と感じた人が多いのは、最後の一文
「リーダー論として、また経営学的発想を刺激するモデルケースとしても読めると思います。」
が読者の属性にフォーカスしているからです。
逆に前者は、
「物語は少年の不利な日常生活と重なるように、訓練も不利な形で進められます。それをエンダーの卓越した才能で乗り切っていくわけですが、兄弟、親子、教師と生徒、上司と部下など多くのシチュエーションで対立と理解、協働が描かれます。」
という形であくまでも「エンダーのゲーム」のストーリーにフォーカスしている。
だから「参考になった」という人が少ないのです。
「買い手の属性に着目せよ」は、コーポレートサイトなどでサービス紹介を記述する際にも適用される原則であり、ごく当たり前の原則でもあります。
では、2つ目です。
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