見出し画像

【検証】AI時代に「現場取材」は必要か?試しにコタツ記事をチャットGPTに作らせてみた話

AIの時代が本格的に始まりました。私たちメディア業界にも、少なからぬインパクトを与えそうです。

メディアの仕事といえば、取材をして記事を書いて発信するのが花形。その本丸とも言える「取材」が、AIに取って代わられる可能性について検証しました。

メディアとAIの現在地は?

けさ、Yahoo!ニュースアクセスランキングを見てみました。午前9時時点でランキング上位にランクインする記事は、ほとんどが「〜(有名人)がSNSを更新した」「テレビ番組で〜のシーンが賛否」というものばかり。

Wikipediaによると、こうした記事のことを「コタツ記事」と呼ぶそうです。

コタツ記事(コタツきじ、炬燵記事)とは、ジャーナリストやライター、記者が現地に赴いて調査を行ったり取材対象者に直接取材したりすることなく、インターネットウェブサイトブログ掲示板SNSテレビ番組などの他媒体で知り得た情報のみを基に作成される記事の通称。

コタツ記事 - Wikipedia

このようなコタツ記事って、もしかしたら何の苦労もなく、優秀なAIの手にかかれば書けてしまうのでは?との仮説から、試しに検証してみることにしました。

試しにAIにやらせてみたコタツ記事執筆

(※これはAIが生成した架空のニュース記事です)

【Yahoooo!ニュース】
「天使が過ぎる」吉岡里帆、ディズニープラス「ガンニバル2」の撮影を終えてファンからは絶賛の嵐!

人気女優の吉岡里帆が、映像シリーズ「ガンニバル」のシーズン2の撮影が無事終了したことを、自身のInstagramで報告しました。

シリーズ「ガンニバル」は、過酷なロケーションでの撮影が続いていたとのことですが、全ての撮影を乗り越え、無事に終えることができたとのこと。今回も「パワーアップ」していると自身のパフォーマンスに自信を見せる吉岡。

投稿に対するSNS上での反響も大きく、「天使が過ぎる」「可愛さがエグい」などと絶賛の声が上がっています。また、ファンからは「応援してます」「いつもありがと」といった応援のメッセージも寄せられ、吉岡への支持の厚さを物語っています。

今後の彼女の活動から目が離せません。

↑ チャットGPTに「女優の吉岡里帆が、Instagramでこのような投稿をしていました。この内容を、Yahoo!ニュースのような形で記事にしてください」と指示した結果

作業時間、ものの1分。しかも帰宅中の電車の中で、スマホ片手にできたのが上の記事です。ガンニバルの説明部分や、女優に対して「支持の厚さを物語っている」という表現には違和感があったりと・・・多少はいじる必要があるものの、何となくそれっぽいものが出来上がりました。

このように、ほんの少し手直しするだけでいいレベルの「コタツ記事」は、AIで簡単に作れそうです。ヤフーのアクセスランキングには、実際にAIが使われた記事も何本かランクインしているかもしれません。

このままいくと、AIが大量の記事を執筆する時代になるのでしょうか?逆に、AIには絶対できない取材ってなんだろう、と考えてみました。

人にしかできない取材とは

私も6年間ほど、記者の端くれをやっていたことがあります。その時の経験を振り返ってみると、まず人へのインタビューは、AIには絶対にできない。もっと言えば、コタツではなく現場取材が望ましいです。zoomなどリモートでも、取材のクオリティはかなり下がると感じます。

その理由の一つは、「情報量」です。たとえば現場へ行って、対面で取材することで、必ず「雑談」が発生します。この雑談で話した内容が、記事の中で大きなウェイトを占めることも少なくありません。

もう一つは、「感情」です。私もたくさんの人にインタビューしました。不思議と私がインタビューする相手は、カメラの前で自然と涙することが多かった。取材中に涙を流した、という事実は、それだけで多くの示唆を与えてくれます。zoomでのインタビューで、相手が涙を流すということは…皆無ではないでしょうか。感情を引き出し、感情を記事にして伝えるのは、人が、現場で、取材をすることで初めて可能になります。

会議室を飛び出して現場を見に行くという仕事は、生成AIにはできない

先日、こんな記事を読みました。

記事にはこう書かれています。

生成AIの登場でコンサル業界の存在意義が問われ始めている。スマートフォン向けアプリを運営するワードファインダー(スペイン)の調査では、米国でチャットGPTの利用法として最も多いのがアイデアの創出で、次いでコンテンツの作成だ。コンサルが得意としてきた分野だ。

そして、この一文。

ーーーアパレルでも「何を買ったか」より、「試着したのになぜ買わなかったか」を知る方が価値がある。

つまり、データから導き出される情報よりも、"買わなかった理由を聞くこと"に価値があると。・・・まさにこれは、「現場取材」の真髄と、まったく同じだと感じました。

AIとの理想的な付き合い方は

生成AIはインターネット上にある膨大な量の情報をインプット(学習)して、それらから導き出される「確からしい」ものをアウトプットする仕組みです。

一方でプロの記者がやっている「現場取材」は、取材を通して徹底的にファクトを集めて、その中から適切なものを取捨選択して、並べ替えて…最終的に、記事というアウトプットをするプロセスです。

そのように考えると、AIの上位互換を、プロの記者は毎日、やっているのではないかという気がしてきます。

また、そもそも生成AIがインプットする学習内容の多くは、元を辿れば誰が、この世の中に送り出しているでしょうか。

AIは、アクセスできる情報、つまり光に照らされた状態にある情報を、わかりやすく整理し、まとめてくれます。

プロの記者がやる「現場取材」では、これまで世の中になかった情報、つまり光に照らされていない状態にある情報を、掘り起こし、明るみにしてくれます。

つまりAIと現場取材は、光と影の保管関係にある、と言えそうです。

勝手ながら結論としては、「現場取材」はメディアのプロフェッショナルにとって、代えの効かない絶対的なものであり、メディアの生命線であるということです。優秀な記者であれば、闇に埋もれたAIでは絶対に辿り着けない事実を、明るみにしてくれます。

理想を言えば…優秀な記者のこの働きにこそ、最大限の報酬が与えられれば良いのですが。残念ながら今のネット空間では、それを適正に評価してくれる指標がありません。そのため、いつもランキング上位には「コタツ記事」が並ぶ結果となっているわけです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?