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高橋洋一氏vsひろゆき氏の議論を経済成長率・物価指数・賃金水準の推移から読み解く。

元2ちゃんねるの管理人、論破王こと西村博之氏(以下、ひろゆき氏)と経済学者の高橋洋一氏による『円安肯定論争』について、双方の主張の正当性などを具体的な統計データによる試算などを交えて検証していきたいと思います。

ひろゆき氏と経済学者の高橋洋一氏の「円安上等論争」の経緯、それぞれの主張の詳細については、以下の記事にて、その時系列の方をまとめていますので、論争の経緯などについては以下を参照してください。

争点は1ドル300円もの過度な円安が日本経済にとって「利」となるか否か。


高橋洋一氏による『1ドル300円まで円安が進行しても問題はない』という主張は、以下の2点をその根拠としています。

・1ドル=300円まで円安となれば日本の経済成長率が20%ほどになる
 → 円安は日本経済に悪影響ではなく、更に円安へと進行した方が良い
・政府が保有する米ドル建ての外貨準備には300兆円の為替差益が生じる
 → これを国民に還元すれば、円安に対する国民の不満は払拭できる

ABCテレビ『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』出演時における高橋洋一氏の主張より

この高橋洋一氏の私見に対して、ひろゆき氏がXへの投稿を介して行った「批判」は、以下のような内容でした。

・あらゆる物価が2倍かそれ以上になり、生活水準が2分の1になる。
・その結果として国民のほとんどが円安経済に対して不満を抱く。

ひろゆき@hirox246「X」への投稿より
https://twitter.com/hirox246/status/1803680616879161404

加えて、ひろゆき氏は、高橋洋一氏の主張に対して『数式も根拠もない』という批判も述べていました。

ですが、これに関しては、高橋洋一氏自身、上記の主張を述べたテレビ番組で円安が経済成長に寄与する「近隣窮乏化」の理論を以下のフリップを介して説明していました。

現代ビジネス『ひろゆき氏の批判に改めて「返答」しよう』より https://gendai.media/articles/-/132422?page=2#goog_rewarded

これに関しても、ひろゆき氏は『10%円安の図しかない』『1ドル300円の試算はどこなのか』『誰も文句を言うはずがないという根拠がない』と主張。

この時点で『これが根拠だ』と主張する高橋洋一氏と『これのどこが根拠なの?』というひろゆき氏の見解のズレが生じているのですが、実際のところ、高橋洋一氏が示した「根拠」が、以下の主張を少なからず裏付けるものになっている点は、前回の記事で解説させて頂きました。

・1ドル=300円まで円安となれば日本の経済成長率が20%になるという点
・300兆円の為替差益を元手とした一人あたり250万円になるという点

よって『1ドル300円までの円安に伴う20%の経済成長(GDP成長)』と『その時点の為替差益を元手とする一人あたり250万円の還元金』については、少なからず、高橋洋一氏はその「根拠」を示している状況にあります。

ですが、もう一点、ひろゆき氏が批判した『誰も文句を言うはずがないという根拠』については、確かに示されていない状況にあると思います。

おそらく、高橋洋一氏としては『1ドル300円までの円安に伴う20%の経済成長(GDP成長)』と『その時点の為替差益を元手とする一人あたり250万円の還元金』の根拠を示せば、それがすでに『誰も文句を言うはずがない根拠』に該当するという見解なのかもしれません。

ですが、ひろゆき氏は1ドル300円まで円安が進むと「あらゆる物価が2倍かそれ以上になり、実質的に生活水準が2分の1になる」と主張しています。

つまり「20%の経済成長(GDP成長)」と「一人あたり250万円の還元金」が伴うとしても、それ以上の不利益がある以上は「誰も文句を言わない」と言えるような状況にはならないだろうと主張しているわけです。

1ドル300円の円安経済のメリットとデメリット。


よって、ここで争点となるのは、まず、2024年6月現在の時点で150~160円水準のドル円レートが、300円まで円安方向に進んだ場合におけるメリットとデメリットが具体的にどういうものなのか、です。

その点において、ひろゆき氏は、あらゆる商品の価格(物価)が2倍かそれ以上になるため、この不利益は20%の経済成長や、為替差益からの一人あたり250万の還元金ではカバーできないのではないかと主張しています。

ですが、そもそも150~160円水準のドル円レートが、300円まで円安方向に進んだ際、ひろゆき氏の言う通り『あらゆる商品の価格(物価)が2倍かそれ以上になるのか』という議論があります。

この点に関しては、歴史上、実際に「150~160円水準のドル円レートが、300円まで円安方向に進んだ」という実例は、過去に一度もありません。

ですが、為替レートの「変動率」という点では、70~80円台のドル円レートが150~160円台まで円安方向に進行したという経緯、また、その逆に150~160円台のドル円レートが70~80円台まで円高方向に進行したという経緯は過去に2度あります。

1985~2024年までのドル円レートにおける「円安」「円高」の時系列

1990.04.09 / 160.40円 → 1995.04.17 /   79.76円(101.1%の円高)
1995.04.17 /   79.76円 → 1998.08.11 / 147.67円
(85.1%の円安)
1998.08.11 / 147.67円 → 2011.03.17 /   76.57円
(92.9%の円高)
2011.03.17 /   76.57円 → 2022.10.21 / 151.94円
(98.4%の円安)

ひろゆき氏による『物価が2倍かそれ以上の水準になる』という主張は、ドル円の為替レートが円安方向に進み、米ドルに対する円の価値(交換レート)が2分の1になる状況に対して「(物価が)2倍」という数字を用いていると考えられます。

ただ、これまでのドル円の為替レートは、過去に2度、米ドルに対する円の価値(交換レート)が2分の1になる状況、および、その逆に2倍になる状況を経ています。

よって、ひろゆき氏、高橋洋一氏、双方の主張の妥当性や正当性は、このような過去のドル円レートの変動に対して、実際に日本経済がどのような影響を受けたのかを確認していけば、ハッキリするということです。

検証1:為替変動に対するGDP(経済成長率)の推移


円安に対するGDP(経済成長)に関しては、前回の記事で高橋洋一氏の主張する『1ドル300円までの円安に伴う20%の経済成長(GDP成長)』を試算する上で、2011年から2022年までの70円台から150円台まで進行した円安経済を対象に、その間のGDP(経済成長)の成長率を検証しました。

上記の期間も含め、以下は上述した為替変動率が100%に迫る円高、および円安となった年度とその前後1年間(計3年間)の平均GDPの一覧とその推移を表したグラフです。

データ出所:内閣府(https://www5.cao.go.jp/)「GDP統計・長期経済統計」より作成
(名目GDPは対象年度および前後1年の平均名目GDPを算出)

自国通貨安(円安)が自国経済の成長(GDPの増加)をもたらす現象は「近隣窮乏化」と呼ばれるもので、これ自体は歴史的な統計などから、経済学の見地の上では一般化されている理論の1つだと思います。

ただ、上記のドル円の為替レートの変動(円高・円安)に対するGDPの推移(経済成長率)は、1990年から1998年までにかけては、円高でも12.4%の経済成長(GDP増)があり、円安になることで逆にGDP成長率は2.2%に低下しています。

要するに1990年から1998年にかけては、いわゆる「近隣窮乏化理論」とは逆の現象が起きていたということです。

自国通貨高(円高)および通貨安(円安)による「近隣窮乏化」は絶対ではない。


このように、経済学の見地において一般化されている理論は、必ずしも、全ての時代、全ての国、全ての経済において、絶対的に該当するようなものではありません。

ただ、2000年以降に関しては、2011年まで進行していた円高経済では、実際に日本の経済成長(GDP成長)はマイナスになっています。

そして、2011年から2022年までの円安経済では、14.6%の経済成長(GDP成長)が見られるため、この間に関しては高橋洋一氏が主張していた『10%の円安に対して0.4~1.2%の経済成長(GDP増)』に該当する経済成長が見受けられる状況となっていました。

その上で、1990年代の円高、円安において「近隣窮乏化理論」とは真逆の経済成長が伴っていた理由。

その後、2000年以降になって「近隣窮乏化理論」に沿った円高による経済成長の停滞と、円安による経済成長が見られた理由などについては、多くの経済学者がそれぞれ多様な見解を述べています。

ただ、ここで1つ確実に言えることは、2000年以降は「近隣窮乏化」に伴う、円安経済に伴う経済成長が実際に見られるものの、それは『絶対的な経済法則ではない』という点です。

とは言え、2011年から2022年、そして2024年現在も、日本においては「円安の進行」と「経済成長(GDP増)」が実際に伴っている状況にあります。

よって、2011年以降、現在までの日本経済においては『近隣窮乏化に伴う円安の進行と経済成長が伴う条件を満たしている』と言える経過が確認できるため、高橋洋一氏は、この状況が少なくとも1ドル300円台までは継続すると見ているのだと思います。

検証2:為替変動に対する消費者物価指数の推移


上記で高橋洋一氏の主張する『1ドル300円までの円安に伴う20%の経済成長(GDP成長)』という部分は、少なくとも2000年代以降の日本経済においては、現在進行形でそれが実証されているということが分かったと思います。

では次に、ひろゆき氏が主張した『1ドル300円もの円安になったなら、あらゆる商品の価格が2倍か、それ以上になる』という点を、同じく、以下の為替変動率が100%に迫る円高、および円安となった年度を対象とする『消費者物価指数』から検証してみたいと思います。

1990.04.09 / 160.40円 → 1995.04.17 /   79.76円(101.1%の円高)
1995.04.17 /   79.76円 → 1998.08.11 / 147.67円
(85.1%の円安)
1998.08.11 / 147.67円 → 2011.03.17 /   76.57円
(92.9%の円高)
2011.03.17 /   76.57円 → 2022.10.21 / 151.94円
(98.4%の円安)

以下は上述した為替変動率が100%に迫る円高、および円安となった年度とその前後1年間(計3年間)の平均消費者物価指数(CPI)の一覧とその推移を表したグラフです。

データ出所:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数(CPI)の推移」より作成
(対象年度および前後1年の平均消費者物価指数を算出)

消費者物価指数は、日本におけるほぼ全品目の商品・サービスを対象とした、その価格変動の水準を示すもので、上記は2020年の物価指数を基準としたものになっています。

端的に言えば、どの年度の指数を基準にしていようと、米ドルに対する円の価値が半減するような円安が、あらゆる商品の価格水準を2倍か、それ以上に高騰させた経緯があったなら、この「消費者物価指数」が、そのタイミングで2倍近くになっていることになります。

ですが、1995年から1998年にかけての円安でも、2011年から2022年にかけての円安でも、いずれも100%近いドル円レートの変動があった中で、実際に生じている価格の高騰(物価高)は、そこまで大きいものにはなっていません。

ドル円の為替レートが最も「円高」となっていた年度に比較しても、1998年の円安時で消費者物価指数の増加率は2.1%、2022年度の円安時でも8.4%となっています。

つまり、ドル円の為替レートが大きく円安に進行して、実際に米ドルに対する日本円の価値が実質的に半減した状況となっても、国内のあらゆる商品の価格(物価)は、最も「円高」となっていた年度に対して、10%も高騰しないということです。

米ドルに対する円の交換レートが半減しても物価の高騰は10%にも満たない。


以下は商品やサービスの品目を「生活必需品」となる『食糧費』『住宅費』『衣服』(衣食住)および『電気(光熱費)』『家具・家事用品』といった身近なものに絞り込んだ消費者物価指数の推移です。

データ出所:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数(CPI)の推移」より作成
https://www.stat.go.jp/data/cpi/index.html

2011年から2022年にかけて高騰が顕著なのは、やはり光熱費に該当する「電気代」で、この品目のみが50%近い高騰が見られますが、それ以外はやはり10%以内の高騰の範囲で納まっています。

結論から言えば、米ドルに対する円の価値が実質的に半分になってしまうような円安となっても、米ドル建ての輸入品目への依存度は、せいぜい消費者物価指数を10%押し上げる範囲ということになります。

これは過去に二度あったドル円レートの半減に及ぶ円安が実証している事実であり、直近の2011年から2022年にかけて、実際に米ドルに対する円の価値はすでに半減していますが、消費者物価指数から見る物価の高騰は8.4%に過ぎません。

少なくとも、ひろゆき氏が言うような「300円の円安になれば、あらゆる商品の価格が2倍かそれ以上になる」というような状況には、おそらく『ならない』ということです。

国際的な貿易決済に用いる基軸通貨でもある米ドルとの為替レートが半減するほどの円安になっても、物価の上昇率が消費者物価指数ベースで10%にも満たないという現実は、少し不思議に思われるかもしれません。
ただ、これにはいくつかの明確な要因があるため「為替レート(ドル円レート)」と「物価水準」の関係性についてご興味があれば、以下の記事を併せて参考にしてください。

「円安肯定論争」は高橋洋一氏に軍配?


これまでの歴史が証明するように、1ドルが300円となるまで円安が進行したとしても、ひろゆき氏が主張するような「あらゆる商品の価格が2倍になる」というような状況には、おそらくなりません。

その際、現実に見受けられる物価の高騰は、最も円高となっていた年度の物価水準に対して10%にも満たないというのが、現時点で実証されている事実ということになります。

その上で、高橋洋一氏の言うような「20%の経済成長(GDP増)」はしっかりと見込める以上、彼等の論争は高橋洋一氏に軍配・・・というように見えてしまうかもしれません。

ですが「あらゆる商品の価格が2倍になる」という主張はさすがに過剰であったと思いますが、それでも現時点で2011年の物価水準に対して10%近い物価の高騰があり、これが更に1ドル300円の円安まで進行すれば、更に10%かそれ以上の物価高騰が生じることになります。

その際に、高橋洋一氏の言うような「20%の経済成長(GDP増)」が現実に伴っていたとしても、本当に同氏が主張するような「誰も文句を言わない経済状況」となるのでしょうか。

高橋洋一氏は「政府が保有する外貨準備から一人あたり250万円の支給を行えば」とも主張していますが、これと20%の経済成長を踏まえても、現在の水準から更に10%の物価高騰は『その物価水準が続く』と仮定する場合、一度使い切ればそれまでの一時的な所得にしかなりません。

国民一人あたりに250万円を還元した際に生じる短期的、長期的な経済効果がどのようなものになるか、という点に関しては、色々と考察の余地もあると思いますが、今回の議論(仮定)において、高橋洋一氏もそこまでの展望は含めていないと思います。

よって、この論争で高橋洋一氏に軍配を挙げられるか否かの論点は、一定の物価高が伴う形で実現できる円安による経済成長(GDPの増加)が、本当にほほ「全ての人」にとっての『利』となるのかどうかの一点に行き着くのではないかと思います。

経済成長・GDPの増加は、ほぼ「全ての人」にとっての『利』となるのか。


少なくとも「現時点から10%の物価高騰」は、賃金がそのままの水準であるなら、ほぼ誰もが不満を覚えるような状況に他ならないと思います。

これに対して「250万円の支給」というのは、誰でもその具体的な利得を、そのままダイレクトに想定できるものかもしれません。

だからこそ、高橋洋一氏はあえて、このような「まず現実にはありえないような仮定」をこの主張の中に盛り込んだのだと思います。

ですが、仮に『世の中の全ての商品を今後、半永久的に10%増しの価格で買わなければならない』というなら、250万円という一度のみの支給金など、明らかに「割に合わないもの」だと思います。

大抵の人は今後の生涯において2500万円以上の支出(消費)を行うわけですから『250万円の一度のみの還元金』は、実情として『10%の物価高騰』という不利益をとてもカバーできるものではありません。

ゆえに、この議論において重要なのは「20%の経済成長(GDP増)」の方であり、これが本当に多くの人、強いてはほぼ全ての人にとっての「利」となるのかどうか。

そして、それは『現時点から更に10%近い物価高騰』という現実に対して、ほぼ誰もが『20%の経済成長(GDP増)による恩恵』の方を受け入れ、そこに「不満」を抱かないものなのかどうか。

これらを再び以下の為替変動率が100%に迫る円高、および円安となった年度を対象とするいくつかのデータから検証してみたいと思います。

1990.04.09 / 160.40円 → 1995.04.17 /   79.76円(101.1%の円高)
1995.04.17 /   79.76円 → 1998.08.11 / 147.67円
(85.1%の円安)
1998.08.11 / 147.67円 → 2011.03.17 /   76.57円
(92.9%の円高)
2011.03.17 /   76.57円 → 2022.10.21 / 151.94円
(98.4%の円安)

検証3:為替変動・経済成長に伴う賃金の推移


先立つ検証で、少なくとも2011年から2022年にかけての円安においては、14.6%という経済成長(GDP増)が実現できています。

よって、基本的には、この間のデータを中心に、この「経済成長」で、実際にどれくらいの「利」が多くの人に還元されているのかを確認していきたいと思います。

以下は、やはり「多くの人」が実際に受け取っている「賃金」の各年度ごとの一覧とその推移を表したグラフです。

データ出所:厚生労働省「給与所得者数・給与額・税額の推移」より作成
厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/index.html

こちらは為替レート(円高・円安)との相関というよりも「経済成長率(GDP成長率)」および「消費者物価水準」との相関がハッキリと確認できる推移になっていると思います。

1995年から2011年にかけての経済成長の停滞(GDP減)においては、賃金の減少率がより著しいため、その「しわ寄せ」が賃金の方により大きく現れているのが分かります。

その反動も含めて、実際に経済成長(GDP成長)が伴えば、賃金もそれに伴う形で増加する傾向にあることも間違いないようです。

つまり「円安に伴う経済成長(GDP増)」が伴えば「賃金の増加」も伴い、また、これらに相関する形で「物価(消費者物価指数)」も変動していることが分かります。

2011年から2022年までの円安に関して言えば「経済成長」と「物価の上昇」が伴い、同時に「賃金の上昇」も伴っているため、少なくとも物価の上昇率に対して賃金の上昇率が低い状況にはありません。

これはあくまでも賃金と物価の「平均的な水準」から言えるものですが、これらの平均的な水準から言えば『文句は出ない』と言えるだけの状況を、少なからず試算することができたのではないかと思います。

結論:300円の円安となっても、ほとんどの人は文句を言わない。


以上、それなりの情報量となりましたが、ひろゆき氏、高橋洋一氏による円安肯定論争において、ある程度の着地点は、具体的な試算に基づく根拠と共に示すことができたのではないかと思います。

・仮定1:ドル円の為替レートが300円になる。
・仮定2:政府が外貨準備による為替差益300兆円を国民に還元する
・仮定3:円安による「近隣窮乏化」によって20%の経済成長が実現できる
・結論:一人あたり250万円の還元金で円安経済に対する文句はほぼ出ない

高橋洋一氏による仮定と帰結(『正義のミカタ』における主張より)

・仮定1:ドル円の為替レートが300円になる
・仮定2:政府が外貨準備による為替差益300兆円を国民に還元する
・仮定3:あらゆる物価がほぼ2倍になり、生活水準が2分の1になる。
・結論:その結果として国民のほとんどが円安経済に対して不満を抱く

ひろゆき氏による仮定と帰結(ひろゆき@hirox246「X」への投稿より)

上記のようなそれぞれの主張において「仮定1」と「仮定2」は高橋洋一氏が立てたものですが、これを踏まえた、ひろゆき氏による「あらゆる物価がほぼ2倍になり、生活水準が2分の1になる」という仮定が、まずそのようにはならない可能性が高いものになっていました。

ただ、今回の高橋洋一氏の主張においては「政府が外貨準備による為替差益300兆円を国民に還元する」という仮定(仮定2)が余計というか、そもそも不必要だったのではないかと思います。

実際のところ、円安の進行に伴う「経済成長」と「物価上昇」に対して、それに相関した「賃金の上昇」も伴うという実証データを示すことができる以上、この時点で『円安が進行してもほぼ誰も文句は言わない』という理屈は成り立っていたと思います。

ですが、そこに『政府が外貨準備による為替差益300兆円を国民に還元すると一人あたり250万円の支給額になるため、誰も文句は言わない』という非現実的な主張を加えたことで「円安に伴う物価の上昇」と「一度きりの250万円」を対比する解釈が生じてしまったのではないかと思います。

現にひろゆき氏も、そのような解釈の上で高橋洋一氏の主張を批判しているように見受けられました。

現実的に考えても日本政府が米ドル建ての外貨準備の全てを国民に還元するような政策はありえないですし、これを現実に行ったと仮定すると、また色々と厄介な問題が出てくる提言になってしまっていたと思います。

シンプルに以下のような統計データを示して70円台の為替レートが150円台まで円安に進行した2011年から2022年、もしくは直近までの経済成長率と賃金上昇率の推移に対して、物価水準の上昇率を対比して示せば、それこそ「誰も文句は言わなかった」のではないでしょうか。

データ出所:厚生労働省「給与所得者数・給与額・税額の推移」より作成
厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/index.html

***

以上、ひろゆき氏と高橋洋一氏による『円安肯定論争』について、具体的な統計データなどから双方の主張の正当性などを検証させて頂きました。

今回の論争から派生する形で、以下のようなコンテンツなどに興味を持たれたなら、是非、併せてお読み頂ければと思います。

為替レート(ドル円レート)と物価水準の関係性について(準備中)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ー6月29日追記

その後、ひろゆき氏が再び以下のように高橋洋一氏を批判していました。

日本のGDPは591兆円で4.2兆ドル。仮に1ドル150円が1ドル300円の円安になると、GDPは2.1兆ドル。一年後に20%成長するとして、2.52兆ドル。4.2兆ドル-2.52兆ドル=1.68兆ドルのマイナスです。高橋洋一さんって、算数も出来なくなってるんですか?

ひろゆき@hirox246「X」への投稿より
https://x.com/hirox246/status/1806352370516836825

ひろゆき氏のようにGDPに対する経済成長を捉える上で、GDPを「ドル建て」で計算し、その上で経済成長の有無を議論しようとする人がたまにいるのですが、これは大きな勘違いをしています。

何故、ドル建てで計算したGDPは、その国の経済成長とは無関係なのか。

こちらについても以下のような記事をアップしましたので、併せて参考にしてください。

ー7月10日追記

以下の記事で2023年度までを含めた経済成長率(GDP)と消費者物価指数、賃金の推移を分析した結果を公開しました。

2011年から2022年までの円安進行に伴うデータ分析では、上述したような結論が出ましたが、2022年から2023年にかけての物価上昇率に対して、賃金の上昇率が緩やかになったため、そのデータ上では『誰も文句を言わない状況とは言えない経過状況』となっています。

もちろん、物価水準、賃金水準は流動的なものですから、結局のところ、今後のこれらの水準がどう推移していくかが重要となります。

少なくとも、2011年に対する2022年の100%近い円安進行では、物価高騰をやや上回る賃金の上昇があったため、そのデータの上では平均的な視点で『誰も文句は言わない』という結果にはなっていました。

ですが、2022年から2023年にかけての物価上昇率に対する賃金上昇率の割合が続くようなら、ここからの更なる円安の進行では、また違う結果になっていく可能性があります。

そのような点も含めて、上記の記事も併せて参考にして頂ければと思います。


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