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なぜ円安が日本経済にプラスなのか-近隣窮乏化と経済成長-

-円安は、日本の経済成長にとってプラスになる。

これは歴史的に実証されたデータが存在する客観的な事実です。

そして、これは日本経済に限る話ではなく、自国通貨が「通貨安」になることが、その国の経済成長に寄与するということは、あらゆる国の経済指標(GDP)がそれを実際に裏付けてきた歴史があります。

ですが、円安(自国通貨安)とは、米ドルを筆頭とする外国通貨に対して円の価値が下がっている状況を意味するため『それが自国経済(日本)にとってプラスになる』という話は、直感的には理解しにくい話かもしれません。

-円の価値が国際的に下がっているのだから、それが日本の経済にとってプラスになるはずがない。

多くの人が直感的に感じる「円安」に対する経済への影響は、このようなものなのではないかと思います。

対して、経済学者などの専門家は、このような現象を「近隣窮乏化」と言うのですが、そもそも「近隣窮乏化」とはどういう現象なのか。

その現象によって、何故、円安(自国通貨安)が、日本(自国経済)の経済成長にとってプラスになるのか。

この記事では、その理由、要因などを詳しく解説していきたいと思います。

なぜ円安が日本経済にプラスなのか-近隣窮乏化と経済成長-


過去を遡った米ドルに対する「円」の為替レートの推移として、70~80円台のドル円レートが150~160円台まで円安方向に進行した経緯。

また、その逆に150~160円台のドル円レートが70~80円台まで円高方向に進行した経緯が、これまでに2度あります。

1985~2024年までのドル円レートにおける「円安」「円高」の時系列

1990.04.09 / 160.40円 → 1995.04.17 / 79.76円(101.1%の円高)
1995.04.17 / 79.76円   → 1998.08.11 / 147.67円(85.1%の円安)
1998.08.11 / 147.67円 → 2011.03.17 / 76.57円(92.9%の円高)
2011.03.17 / 76.57円   → 2022.10.21 / 151.94円(98.4%の円安)

このように、米ドルに対する円の為替レートは、過去に2度、米ドルに対する円の価値(交換レート)が2分の1になる状況、および、その逆に2倍になるような状況を経ているということです。

その上で、以下は上記に該当する各年度とその前後1年間(計3年間)の平均GDPの一覧とその推移を表したグラフとなっています。

データ出所:内閣府(https://www5.cao.go.jp/)「GDP統計・長期経済統計」より
(名目GDPは対象年度および前後1年の平均名目GDPを算出)


1990年から1998年までにかけては、円高でも12.4%の経済成長(GDP増)があり、円安になることで逆にGDP成長率は2.2%に低下しています。

この1990年から1998年にかけては、いわゆる「近隣窮乏化」とは逆の現象が起きていたことになります。

その後、2000年以降に関しては、2011年まで進行していた「円高」において、日本の経済成長(GDP成長)はマイナスになっています。

そして、2011年から2022年までの円安経済では、14.6%の経済成長(GDP成長)が見られるため、この間に関しては十分な経済成長が見受けられる状況となっていることがお分かり頂けると思います。

つまり、2011年から2022年、そして2024年現在も、日本においては「円安の進行」と「経済成長(GDP増)」が実際に伴っている状況にあるということです。

経済成長 = GDPの増加


このような「円安」に対する日本経済の「成長」を捉える場合、このような議論の上で主張される「経済成長」というものの定義(意味)をまず理解する必要があります。

ここで言う「経済成長」という言葉は、そのままの意味でも漠然とイメージができてしまうため、実を言うと、それこそが「円安と経済成長の関係」を誤認させる要因となっているからです。

つまり、漠然とした「経済が成長するから経済成長でしょ?」という理解では、円安が日本経済にとってプラスという理屈は理解できません。

逆に言うと、このような議論の上で言われている「経済成長」の意味と定義を正しく理解できれば、円安がなぜ、日本経済にとってプラスなのかも、正しく理解できるということです。

その上で「円安」というのは、外国通貨に対して「円」の価値が下がっている状況を意味するものであり、基本的には「米ドル」に対する為替レートを対象に「円安だ」「円高だ」ということが言われています。

この理解はこのままで全く問題ありません。

これに対して「経済成長」というのは、一般的には上記で示したような『GDPが成長すること(GDPが増加すること)』を指して「経済成長」と言っています。

つまり、ここで言う「経済成長」の『経済』というのはGDP(国内総生産)のことであり、GDPの総額、厳密には、GDPの総額を人口数で除した「一人あたりのGDP」が増加していれば、それが「経済成長」を意味します。

逆にGDPおよび一人あたりのGDPが減少しているか横ばいとなっている場合は「経済は成長していない」ということになるわけです。

GDPの増加が「経済成長」を意味する理由。


これは経済(経済学)を勉強しているような人からすれば『そんな当たり前のことを説明する必要があるのか』というレベルのことかもしれません。

ですが、円安と経済成長の関係をうまく理解できない人は、意外にこの部分の理解が抜けている傾向にあります。

そして「経済成長がGDPの増加を意味する」ということが分かった上で、次に理解する必要があるのは、そもそも「GDPとは何なのか」であり、それが「増加する」とはどういうことなのか、です。

一国経済の規模や経済成長の指針として「GDP」という数字が用いられるのは、多くの人も知るところだと思いますが、これも経済(経済学)をきちんと学んだ経験がなければ、正しい「理解」に及んでいないケースも決して少なくありません。

ただ、ひとまず「円安と経済成長の関係を理解する」という前提の上では、GDP(国内総生産)は『その国の一定期間の総支出、総消費、総生産、総所得、これら全ての側面を有する数字』という理解で問題ありません。

その国における全ての支出高(総支出)は原則として、全ての消費高(総消費)、生産高(総生産)に等しく、また、それは全所得の総額(総所得)に等しくなるということです。

GDPの原則的な説明は、実質的にこれがほぼ全てを物語るものなのですが、以下にGDPについて詳しく解説している記事がありますので、こちらも併せて参考にしてください。

「GDP」が意味するもの。


よって、各年度ごとの「GDP」は、その国において実際に支出された金額や、実際に消費された金額の総計によって算出されています。

そして、その支出における金額、消費における金額などは「日本円」で支払われた支出分、消費分であるため、それらは全て「日本円」で集計されています。

このことを個々の消費者ベースで論じるなら、個々の消費者が国内において、何を消費するのか。

すなわち、どの商品を買うのか、どの商品に対してお金を支払うのかは、当然、日本国内のあらゆる商品やサービスの「価格(物価)」を含めて吟味し、その上で、実際に支出(消費)を行っています。

その際の「消費判断」は、当然ですが「米ドル建て」で輸入されたような外国製品も含まれています。

つまり、個々の消費者が円安、円高などの為替レートの影響を受けた個々の商品の価格を含めて「消費(支出)」の対象としていく商品を判断(選択)し、その上で実際に「消費」された分だけがGDPに反映されています。

よって、GDPは、ただの漠然とした「集計値」なのではなく、そこには一国における消費者、事業者個々の判断(意志)の「総意」が反映されているということです。

GDPには「消費者の選択」および「消費判断の結果」が反映されている。


よって、例えば円安によってあまりにも割高となってしまった外国製品などは、多くの消費者に選ばれなくなるため、この時点で「消費」の対象からは外されていくことになります。

仮に事業者がそのような商品を一定数、仕入れているとしても、それが全く売れない状況であれば、売れ行きのよくない割高な外国商品を継続的に仕入れ続けるような事業者(輸入業者)は、まずいません。

つまり、その年度を通して「円安」が進行していく場合などは、米ドル建てでなければ仕入れができないような外国製品は「消費」の対象からも「輸入」の対象からも除外されていくことになります。

このことは、以下の記事でも実証した『円安の進行がそのまま物価高に反映されない理由』の1つでもあります。

円高・ドル安が進行していけば、消費者は割安な外国製品を選ぶようになるため、その消費量が増えることになりますが、円安・ドル高の進行によって外国製品が割高になれば、当然、そのような割高な外国製品に手を伸ばす消費者は減ることになります。


それが「代替」が可能なものなら、消費者は国内製品や、ドル建てではない、さほど通貨安の影響が出ていない米ドル以外の通貨建て(人民元・ルーブルなど)で輸入ができる他の外国製品を選ぶようになるということです。

円安の進行と共に変化する事業者・消費者の支出と消費。


このことを実証するデータの1つとして、以下は先ほど「GDPの推移」を示した米ドルに対する円の為替レートが2倍まで増価、また、その半分の価値まで減価した年度間の「消費者物価指数の推移」を示したグラフです。

データ出所:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数(CPI)の推移」より
(対象年度および前後1年の平均消費者物価指数を算出)

上記の通り、ドル円の為替レートが100%(2倍)に及ぶ変動率となっていても、最も円高となっていた年度から最も円安となった年度までの消費者物価指数、および、その逆の消費者物価指数の推移を見ても、その変動率は常に10%に及んでいません。

もしも日本の事業者、および消費者のほとんどが、円安であろうと、円高であろうと、常に同じ米ドル建ての原料や製品に対する支出、消費を行っている状況なら、ドル円の為替レートの変動は、そのまま「物価指数」の方にも連動することになるはずです。

ですが、為替レートの変動率が100%近くに及んでも、物価指数の変動率が10%にも及ばない理由は、円安の進行と共に、事業者や消費者が、その支出・消費の対象を、円安の影響が及ばない国内製品などへ代替しているからに他なりません。

そして、これはGDPの算出における「事業者」による原料、製品の仕入れ(輸入)などにおいても同じことが言えます。

米ドルに対しての「円安」が進行すれば、それだけ米ドル建ての原料や商品などの輸入高は目減りしていくことになります。

つまり「GDP」には、そのような消費者、および事業者の「選択」の結果が、そのまま反映されているということです。

100%に及ぶドル円レートの変動に対する物価指数の変動率は10%以下。


同じく、以下は米ドルに対する円の為替レートが2倍まで増価、また、その半分の価値まで減価した年度間の「輸入総額」と「経済全体に対する輸入の割合(輸入比率)」を示したグラフです。

データ出所:財務省「貿易統計・輸出額の推移」より作成
https://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time_latest.htm

1995年から1998年にかけての円安では、経済全体に対する輸入の割合(輸入比率)が5.8%から6.5%に上昇し、2011年から2022年にかけての円安では、12.1%から17.3%に上昇しています。

ただ、いずれの円安も70円台のドル円レートが150円に及んでいますので、ドル円の為替レートが2分の1に減価していることを踏まえると、経済全体に対する輸入割合は、為替レートの変動率ほどの影響は受けていません。

ドル円の為替レートが100%(2倍)に及ぶ「円安・ドル高」となった際、先立つ「円高・ドル安」の際と同じだけの輸入を行えば、全ての輸入がドル建てだったと仮定した場合、それだけで国外に支払う必要がある「円」の金額は2倍になります。

実際には全ての輸入が「ドル建て」で行われているわけではありませんが、それでも国際的な貿易決済の大半は米ドルによる「ドル建て」で行われています。

つまり、1995~1998年にかけては日本経済全体の5~6%ほど、2011年~2022年にかけては12~18%ほどが、主に「ドル建て」で輸入された原料や製品などによって賄われていたということです。

GDPにおける「輸入」の位置付け。


このような「輸入」には、当然、その際における国外への「支出」が伴うため、GDPの算出において、輸入に伴う支出は以下のような計算式で計上されることになります。

GDP = C + I + G + ( X - M )
C:消費|I:投資|G:政府支出|X:輸出|M:輸入

GDP(国民総生産)の代表的な計算式

上記は教科書などでも、誰もが一度は目にしたことがあるであろう、GDP(国民総生産)の代表的な計算式の1つだと思います。

この計算式1つを見ても分かる通り、GDPの計算において「輸入」は、言わば『国外からの仕入れ』を意味するため、輸入が増えれば増えるほど、国内の「所得(富)」はマイナスになります。

もちろん、輸入を行っているような各業者ごとの視点では、輸入した海外製品を、国内でそれ以上の価格で販売して利益を得ているはずですが、GDPに加算されるのは、その上乗せした「利潤」の部分のみとなります。

つまり、その輸入業者の視点においても、一国経済全体の視点においても「輸入」の際の支出は、国外へと流れ出る形の「減算(マイナス)」の対象になる点に変わりはないということです。

「輸入額」はGDP算出において減算(マイナス)の対象となる。


なお、これは決して国外からの「輸入」が、その国の経済においてマイナスになるという話ではありません。

ですが「国内で生産・消費できる商品を輸入する」という場合、為替レートの状況によっては、輸入で賄うよりも国内で賄う方が、その国の経済全体においてはプラスとなるような場合がありえます。

つまり「円高」の状況下においては、輸入によって賄われている原料や商品などが「円安」となっていくことで、国内の原料や国内の製品への代替が行われるため、それが自国経済にとってプラスになっていく場合があるというこです。

そのような形でドル円の為替レートに影響を受ける原料や製品などの中には「円安」が進行していくことで、国内の原料や製品への代替が行われていくものがあり、そのような原料や製品の割合は円安が進行するほど多品目となっていきます。

これが意味することは、まさに「輸入(支出)の減少」に他なりません。

そして、そのような原料や製品の輸入が減った分だけ、国内の事業者は国内産の原料や製品を取り扱うようになり、消費者は国内産の商品を消費するようになります。

それは必然的に「国内における原料供給業者」や「国内製品を取り扱う国内業者」の事業所得(売上)の「増加」に繋がります。

当然、それはそのまま「国内総生産(GDP)の増加」へ直結していくということです。

円安に伴う輸入原料・輸入製品の「代替効果」が国内生産を押し上げる。


このような価格変動に伴う支出行動、消費行動の変化を「代替効果」と言いますが、円安の進行が国内生産(GDP)を押し上げる理由の1つは、他でもなく、この「代替効果」によるものと言えます。

実際に円安の進行は、日本国内の事業者全般、消費者全般の代替効果を引き起こし、それが「国内の事業者全体の売上と利潤の増加」に寄与する形になるからです。

上記で示した『円安の進行に伴うGDPの増加』と『為替変動に対して明らかに変動が微弱な消費者物価指数および輸入割合』が、実際にこのことを裏付けていると思います。

そして、国内におけるあらゆる事業者の売上と利潤の増加は、それらの事業者に雇用されている労働者の給与の増加にも寄与していくことになります。

データ出所:厚生労働省「給与所得者数・給与額・税額の推移」より
厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/index.html


このような給与(所得)の上昇は「消費の増加」を促すため、これも事業者の売上・利潤の増加に繋がります。

このように「円安」による事業者、消費者の支出行動、消費行動の「代替効果」は、事業者全体、消費者全体の所得と消費の底上げする形となります。

そして、それがGDPの増加、すなわち「経済成長」に結び付くようになっているということです。

円安と経済成長における「輸出」の側面。


ここまでは「輸入」の側面から、円安に伴う経済成長の要因を言及してきましたが、これは「輸入」の側面においても同じことが言えます。

国外の事業者(日本にとっての輸出相手)からしてみれば、国内生産や、日本以外の国から輸入をして賄っていた原料や製品が「円安」の進行によって割安となるため、日本からの輸入で賄うメリットが大きくなります。

つまり、日本の事業者(輸出業者)からすれば、国外に自国(日本)の原料や製品をよく多く「輸出」できる形になりますが、その代金はドル建てで受けとろうと、円建てで受け取ろうと「円換算」では、希望する金額をそのまま受け取れることになります。

日本国内の事業者(輸出業者)からしてみれば、円高であろうと円安であろうと、その輸出製品に対して「100円」「1000円」という金額を円建てで設定している限り、実際に「輸出」を行った際に受け取れる円建ての代金は、その設定金額に変わりはありません。

上述したように、円安が100%(2倍)に及ぶ範囲で進行していたとしても、国内の物価水準の上昇率は最も円高だった時期に対して10%にも満たないため、平均的に言えば円安の影響で生じる「小売価格」の変動は、あくまでも10%以内ということになります。

その平均的な水準で言えば、輸出の際における輸出価格の上昇率も円換算では、最も円高だった時期の10%にも満たない上昇率ということになります。

その中で、円に対する米ドルの購買力が2倍(100%増)に及んでいる以上、円建ての10%の価格高騰など、米ドル建てで輸入を行う業者側からすれば、ほぼ半額近いバーゲンセールのような状況になるということです。

円安(通貨安)によって増加する外貨の購買力が「輸出増」をもたらす。


以下、同じく米ドルに対する円の為替レートが2倍まで増価、また、その半分の価値まで減価した年度間の「輸出総額」と「各年度間の輸出増加率」を示したグラフです。

データ出所:財務省「貿易統計・輸出額の推移」よりhttps://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time_latest.htm


1990年から1995年にかけての円高の際には輸出高は減少しているものの、1998年から2011年にかけての円高の際には29.4%の増加が見られます。

これに対して1995年から1998年にかけての円安では、わずか3年で21.9%の輸出高の増加が見られ、2011年から2022年にかけての円安では49.8%もの増加が見られます。

輸出高の増減は、純粋な日本企業における企業努力の結果でもあるため、一概にこれを円安、円高だけの影響で論じるべきではありません。

ですが、円高よりも円安の方が総じて「輸出(輸出高)」に好影響を与えていることは、ほぼ間違いない推移になっていると思います。

このように「円安」は輸出額の増加に繋がり、これも以下の計算式の通り、GDPの増加にそのまま寄与する形になります。

GDP = C + I + G + ( X - M )
C:消費|I:投資|G:政府支出|X:輸出|M:輸入

GDP(国民総生産)の代表的な計

輸出の増加は、輸出を行う事業者の利潤をそのまま増加させる形になるため、当然、これも「経済成長(GDPの増加)」にとってのプラス要因になるということです。

なぜ、円安に伴う経済成長が「近隣窮乏化」と言われるのか。


このような通貨安(円安)による経済成長(GDP増)が「近隣窮乏化」と言われるのは、まさにここでデータを示したように通貨安(円安)は「輸入の減少」と共に「輸出の増加」をもたらします。

これは近隣の国々や当の貿易相手国からすると、ほぼ例外なく通貨安となった国に対しての「輸入の増加」と「輸出の減少」を伴う形になります。

国際経済全体が、必ずしもゼロサム(パイの奪い合い)ではないにしても、どこかの国が輸入を減らせば、それまでのその国へ輸出を行っていた国の輸出高に伴う利潤は必ず目減りします。

また、どこかの国が通貨安の恩恵によって輸出のシェアを多く奪えば、それを奪われる国が必ず生じることになります。

このように通貨安に伴う経済成長は、基本的には「輸入」や「輸出」といった国際市場を対象とする形で生じるため、これは実質的に、近隣国や貿易相手国のパイを奪う形になってしまいます。

ゆえに、これを意図的、人為的な「政策」によって実施する場合には「近隣窮乏化政策」として、近隣国から非難される場合があるわけです。

「近隣窮乏化」は絶対的な現象ではない。


以上、円安(自国通貨安)が自国の経済成長、GDPの増加に寄与する理由についての解説でした。

ただ、ここで解説したような「自国通貨安による経済成長(近隣窮乏化)」は、必ずしも絶対的な現象というわけではありません。

データ出所:内閣府(https://www5.cao.go.jp/)「GDP統計・長期経済統計」より
(名目GDPは対象年度および前後1年の平均名目GDPを算出)

現に1990年から1998年までにかけては、円高でも12.4%の経済成長(GDP増)があり、円安になることで逆にGDP成長率は2.2%に低下していました。

1990年代の円高、円安において「近隣窮乏化理論」とは真逆の経済成長が伴っていた理由などは、多くの経済学者が多様な見解を述べています。

ただ、ここで1つ確実に言えることは、2000年以降は「近隣窮乏化」に伴う、円安経済に伴う経済成長が実際に見られるものの、それは『絶対的な経済法則ではない』という点です。

とは言え、2011年から2022年、そして現在においても、日は実際に円安の進行と共に経済成長(GDP増)が伴っている状況にあります。

よって、2011年以降、現在までの日本経済においては『近隣窮乏化に伴う円安の進行と経済成長が伴う条件を満たしている』と言える経過が確認できることは間違いありません。

ゆえに、この傾向は今後もしばらく続くと考えられるため、著名な経済学者の多くは現在の「円安」の進行を肯定している傾向にあるということです。

***

実際に現在の円安の進行を肯定した経済学者(高橋洋一氏)に対して、2ちゃんねるの元管理人、ひろゆき氏が『円安による経済成長』を批判し、SNSを介して論争になっている経緯がありました。

以下は、この件についてのそれぞれの主張などをまとめた記事になっていますので、もし興味があれば読んでみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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