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雨の竹富島はカエルの楽園

「雨がすごくて帰れないので迎えに来てくれない?」

すっかり暗くなった20時過ぎ。仕事終わりの夫からLINEが届いた。6月後半に入り、私達の暮らす竹富島はもうすぐ梅雨が明ける。しかしこの日はゴーゴーと唸りながら、地面を叩きつける大量の雨の音が1日続いていた。

「とっと(お父さん)のお迎え行ってくるよ」

子どもたちに声をかけると

「行きたい!行く行くー!!」と3人の子どもたちはなぜか全員行きたがり、雨の中、コンパクトな軽自動車にギューギュー乗り込み、出発した。夜のドライブだ。

竹富島には、集落の周りに1周「外周道路」と呼ばれる舗装された道路がある。しかしこの道路に街灯はほとんどなく、20時を過ぎると暗闇と静寂に包まれる。

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島の地図。黒い部分が外周道路

夫の職場へ行くには、この外周道路を少し進んでから、細い道へと入っていく。地面は舗装されていなく、左右は木々が茂り、シダともツタともわからないものがまとわりつく。街灯はなく真っ暗だ。車1台通るのがやっとの道を、車を左右に揺らしながら進んでいく。大きな水溜りを通り過ぎると水しぶきが飛び、子どもたちが湧く。

「わー!水溜り!!!」

何度行っても、ナイトサファリのような、何かのアクティビティに参加しているような感覚になる。

夜の島を車で走ると、ヤシガニや蛇を見かけることもある。この日は、何かがぴょんと飛び跳ねたのに気づいた。

「あれ、今何か、跳ねたよね。」

またしばらく進むと、また跳ねる。

「……カエルだ!!」

子どもたちも車のライトで照らされる道をじーっと眺めている。

「え、カエルいっぱいいるね」

よく見ると、カエルがぴょんぴょん跳ねているのが視界に入ってくる。

「カエル飼いたいなー」

次男がつぶやく。窓の外を眺めながら、雨のジャングル道を進む。

「「「バサバサッッ」」」

何か鳥が横切った。コウモリかな?と思ったら、暗闇でもわかる真っ赤な姿が目に入る。「リュウキュウアカショウビン」だった。

アカショウビンは沖縄で4月から6月頃見かける鳥で、クチバシまで真っ赤な姿と、一度聴いたら忘れられない個性的な鳴き声が特徴だ。普段家にいるときも鳴き声が聞こえるものの、なかなか姿を見られない。今年見たのはこれが初めてだった。


夫の職場に着き、夫も車に乗り込んだ。

「カエルがいっぱいいたよ!」

「アカショウビンも見たんだよ!いきなり目の前に来たからびっくりしたよ!!」

興奮した子どもたちの口が止まらない。舗装されていない道を走る振動をみんなで楽しみながら、雨の中を家に向かう。

ジャングルのような道を過ぎて、舗装された外周道路に出た。ここでもカエルが何匹も何匹も道路を横切っているのに気がついた。雨の道、車が滅多に通らない道をぴょんぴょん跳ねていて、カエルの楽園のようだった。

「楽しそうだね」

子どもたちがつぶやいた。

カエルを轢かないように車を慎重に進めていく。

島には、川や池はない。おたまじゃくしもあまり見かけない。井戸の中を覗くといたりするけれど、カエルも日中は滅多に見かけない。あのカエルたちはどこから出てきたのだろう。20時を過ぎると、島の人たちはもう大体皆さん家にいる。私たちが車を走らせていた間、ほかの車と1台もすれ違わなかった。

「夜のドライブ楽しかった…!!」

楽しみに出かけたのではなく、ただ単に仕事終わりのお父さんを迎えにいっただけ。およそ30分ほどの出来事だと思う。それでも、冒険を終えてきたような満足感に包まれていた。

雨の日の道路はカエルたちの楽園になっていた。

島で暮らし始め3年目。コロナ禍もあり、ほとんど八重山を出ていない。私はたまに東京が恋しくなる。夜のコンビニに行きたくなるし、ウーバーイーツに憧れるし、映画館や買い物、カフェへ行きたいし、子どもたちと遊園地に行きたいな、と思ったりもする。それでも、五感を周囲に向けてみると、ちょっとした日常の中に、それまで気づかなかった小さな発見がたくさんある。


(島で見かけた生き物について、講談社のメディア「コクリコ」に寄稿しました。こちらもよかったら・・・!)

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