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わたしがポケモンだった頃

「Yuuuちゃーーーーん!!!!」

あら。会ってしまったね。

「あああー!今日もかわいいーーー!」

ぎゅぅっ。

はいはい。と、わたしは背中をポンポンと叩く。


中学生の頃。
わたしは目立つことは好きではなくて、照れ屋だった。
みんなに注目されるのはどうも恥ずかしい。

しかし、そんなわたしも慣れてしまったのだ。


ショートカットの彼女は、
わたしより身長が10センチは高く、活発でボーイッシュな子だった。
同じ部活で、スポーツ万能。
ハキハキとした、しっかりしていた子。

わたしは、なぜかその子にすごく気に入られたようだった。


理由はよく分からないのだけど。
その頃クラスでも2、3番目には身長が低かったであろう小柄なわたしは
彼女の“かわいい”にヒットしたらしく、
わたしを見つけては抱きつくようになった。

わたしの通う中学は一学年9クラスもあり、マンモス校。
同じ学年とは言え、クラスが違うと1日中会わないことも多い。
彼女とは一度も同じクラスにはなったことはなく
会うのはたいてい廊下だった。


最初は戸惑った。どんな反応をしたら良いものか。
同じ部活だし部活中は普通にしているけれど。
なんというか、わたしにキャッキャしてくれている。
廊下でたまたま会うと、レアなポケモンでも見つけたかのように
「Yuuuちゃーーーん!」と飛びついてきた。

最初は周りの子も
「もー!何やってんのー!」と笑っていたけれど
段々見慣れてきたようで、
「あ。またやってるー」
「あー。またあの二人ね」

人は慣れるのだ。


わたしも最初はいちいちびっくりしていたけれど
「また来たー!はいはい、どうぞどうぞ。」と、まるで母親かのような対応。
人は、慣れるようだ。


放課後遊びに行くような、特別仲が良かったというわけではない。
その“瞬間”だけの関係、がしっくりくる。
部活は一緒なのだけど、
それはそれ、これはこれ。



最初はびっくりしていたけど、彼女の人柄や態度を思うと嫌悪感のようなものは全くなくて。
それよりも、みんなが見てる。恥ずかしい。という気持ちが強かった。
でも慣れてからはそれも気にならなくなった。

2年生になると、彼女に“ヒット”した子がもう1人出来て
その子にも抱きついていた。
「浮気だ、浮気」
とからかわれていた彼女は
「やー。だって!選べない!」と言っていた。
ほんの少しさみしさを感じたのは内緒。
なんだかんだわたしもこの関係を喜んでいたのかもしれない。



そんな彼女は部活の部長になり
ますます部の頼れるかっこいい存在となった。

わたしは相変わらず、ポケモンだった。


中学2年だったか、3年だったか。
また廊下で彼女と偶然会ったときに
「Yuuuちゃーーん!」と来て、
どういう経緯だったか忘れてしまったが、なんやかんやのあと
手の甲にチュッてされた。
もちろん、周りのみんなは見ている。

「ええー!もう!やりすぎ!」と他の友達が彼女に注意していた。

わたしもびっくりして「もうー!」とだけ言った記憶がある。

その瞬間、わあっと周りが盛り上がり
そして彼女は嵐のように去っていった。
ええと。
どこかの国の王子様か何かですか?

なんだか行き場のないわたしの手。

えっと。
次の授業はすぐ。。
えっと。
この手、どうしたらいい?
拭いたりするべき?
それは失礼か?

わたしはこの手をどうしたら良いのか考えた。
次の授業まで時間がなかったので、結局そのままだったかもしれない。

(手を拭く、という思考に至ったのは汚いということではなく
 びちょびちょになっていたわけでもなく
 果たしてこれはこのままで良いものなのか?と中学生のわたしは率直に疑問に思ったのです。
 手の甲へのキス、はじめてだったもので。
 よくある王子様がお姫様の手にチュッってするやつ。あれは、手拭かないけど。笑)


彼女が本当のところどんな気持ちで今までの行動をとっていたのかは
聞いたこともないし詳しくは分からないのだけど。
今思うと、思春期にあるような友達同士でベタベタしたがる感じや
周りへのパフォーマンスのような感じもあるかもしれないし
とにかくわたしを気に入ってくれていたようだった。今で言う“推し”のような。

でも毎日などと頻繁に来るわけではなかったし、やっぱりわたしはポケモンだったのかなと思う。



彼女との関係性が特殊で、ちょっと不思議な中学生生活を送っていたわたし。


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