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「今すごく、いい気分です」

アルケミスト、という名の本を友人が貸してくれました。
人によって、読むタイミングによってきっと様々な感想があると思うからぜひ感想を聞かせてほしいと。
読み終わって、確かに彼と私の感想は全く違ったし、心に残ったセリフも全然違った。
宝物を探しに行って、それが見つかる、ただそれだけの話なのにこの童話風の夢物語は深く考えさせられる話だった。

知ると不自由になってしまう

私は、半年前から家を払ってゲストハウスを転々としている。俗にいうアドレスホッパ―というやつだ。

この生活スタイルはとても面白い。
いつも知らない人と出会う、知らなかった価値観を知る。「そういう生き方もあるのか」と毎日が気づきの連続。

だからこそこのままでいいのか、と自分の生き方に疑問を持つ。
多くの選択肢を知ると、見えなかったルートがたくさん見えてきた。その中で自分はどれを選んだらいいのかわからなくなった。
会社員というレール一本しか知らなかった自分が、多くの選択肢を知ること。
そのことで私は、自分自身のことをとても不自由になったと思った。

アルケミストの作中に以下のようなセリフがある。

「今まで見えなかったものが、今は分かるようになった。わしは人生にこれ以上、何も望んではいない。しかし、おまえはわしに今まで知らなかった富と世界を見せてくれた。今、それが見えるようになり、しかも、自分の限りない可能性に気づいてしまった。そしてお前が来る前よりも、わしはだんだんと不幸になってゆくような気がする。なぜなら、自分はもっとできるとわかっているのに、わしにはそれをやる気がないからだ」

正直、多すぎる選択肢に戸惑っている。

世界には選択肢がありすぎたし、そのなかのどれもとは言わないが会社員以外の道を選べる自分の可能性にも気づいてしまった。

そう選べる、のだ。選ぶ気があれば。の話だけれど

選べずにいるこの行く末は

私はこの選べない状態をもう1年以上は続けていた。
考えて考え続けて、もはや何が自身にブレーキをかけているのかわからなかった。

アドレスホッパ―になって、最低限の生活を続けていくのにお金はそんなにいらないとわかった。人と人の繋がりから、お金がたくさんあることが人を幸せにするわけではないとわかった。やりたいことをすること、それが人生の生きがいや楽しさになることを教えてもらった。

それを知っても私は、今のなんとなく会社員状態から離脱できなかった。
好きでもない会社で、文句を言いながらなんとなく辞めずに続けている、そんな可もなく不可もなくな会社員生活。
正直、フリーランスもしているので会社員をやめたところで生活できないレベルにはならない。

ではなぜこのまま可もなく不可もなくなのか?
いつ死んでもいいと日々を生きる癖に、将来の安泰のために会社員をやめられない自分自身に失笑した。

アルケミストの作中に以下のような会話があった。

「僕の心は裏切り者です。心は僕に旅を続けてほしくないのです」
「それはそうだ。夢を追求してゆくと、おまえが今までに得たものをすべて失うかもしれないと、心は恐れているのだ」
「それならば、なぜ、僕の心に耳を傾けなくてはならないのですか?」
「なぜならば、心を黙らせることはできないからだ。たとえお前が心の言うことを聞かなかった振りをしても、それはお前の中にいつもいて、お前が人生や世界をどう考えているか、繰り返し言い続けるものだ」
「たとえ、僕に反逆したとしても、聞かねばならないのですか?」
「反逆とは、思いがけずやってくるものだ。もしお前が自分の心をよく知っていれば、心はお前に反逆することはない。なぜならば、お前は心の夢と望みを知り、それにどう対処すればいいか、知っているからだ。
おまえは自分の心から、決して逃げることはできない。だから、心が言わねばならないことを聞いた方がいい。そうすれば、不意の反逆を恐れずに済む」

私の心は恐れている。今まで気づき上げてきたものを失うのではないかと。
今のままを進むことが、結果的に何も失わないのだからそれでいいのではないか、と。

私の心は何をしたがっているのだろう。
ずっと見つめてこなかった。なんとなくで働き続けた5年間。

6年目ついに反逆された。心の悲鳴に体が動かなくなった。
仕事に行けなくなって、ベットの中で起きられないまま昼になって夕方になる。立ち上がれない。

一体君は私をどうしたいんだ。

音楽が聞こえる

けれど、わかったこともあった。自分がどうしたらもう一度歩けるのかがわかったから。
何がしたいの?
そう、穏やかな気持ちで私は私に問う。
不思議と嫌な気分ではないのだった。

ベットから抜け出して、濃い目に出したタイティを飲みながら共有リビングのお気に入りのソファの一角。
快晴の空を眺めながら、なんだかとても晴れ晴れした気分だった。


「アルケミスト 夢を旅した少年 」
著:パウロ・コエーリョ
読書感想文

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