情報の溜池—身体を解放する―
スマートフォンは、片手で持つには案外重たい。
わたしたちは誰に強いられるわけでもなく、200g程度の重りを1日何時間も持ち続けている。
便利さにかこつけて、その重量に鈍感になってはいないか。
わたしたちの身体には「情報」が蓄積している。
スマートフォンを持つ手や腕と、その重量や保持する時間のバランスが崩れたとき、腱鞘炎やスマホ肘という身体の異常として現れてくる。"スマートフォンという重りを長時間持ち続けた"という物理情報が腕に溜まった結果、痛みとして表現される。そこまで至らなくても、腕の筋肉を触ってみるとガチガチに固まっていることがほとんどだ。
身体は心理的情報もためこむ。例えば、背が高いことをコンプレックスに感じている人は、無意識で背中を丸めて見かけの身長を縮めていることがある。時が経ちコンプレックスが解消したとしても、長い時間をかけて形成された「猫背」という身体表現は残ったままだ。本人がそれに気づかない限り、「背が高いことがコンプレックスだった自分」の情報がそこに溜まり続けてしまう。
わたしたちの日常は過緊張だ。
朝から晩まで仕事に忙殺される人もいれば、育児や子育てに追われる人もいる。常に臨戦態勢でいなければ生活を送ることもままならない。
疲れていることはわかっていても、ゆっくり時間をとって休む暇なんかない。そんな切羽詰まった日々だから、身体はますます固まっていく。
手っ取り早くゆるめるために、鍼灸院や整体でプロに施術をお願いすることもある。思い切って予約を入れてしまえば、それが"こなすべきミッション"として予定に組み込まれる。そこまでしてようやくリラックスできる時間を確保できる。
身体をゆるめることは、そこに蓄積した情報を解放することだ。
まっさらな状態にリセットするからこそ、次に出会う新しい情報を受け取ることができる。
鏡を見て猫背に気づき、固まった首や肩、背中まわり胸まわりをゆるめてリセットする。溜まった情報が身体の外に放水され、身体がニュートラルな状態に戻ったとき、真にコンプレックスから解放されたといえるのかもしれない。
テレビやインターネットでは、わたしたちの感情を揺さぶる情報が毎日発信されている。わたしたちが受け取る情報を選別するより先に、目に入り、耳に入り、なんらかの情動を抱かせるようにできている。
その多くは、不安だったり恐怖だったり、負の感情だ。
「胸が痛む」「胸が締め付けられる」などの表現があるように、感情は身体とリンクしている。あなたが他者からの言葉で傷ついてしまったとき、あなたの身体のどこかにその情報が引っかかり、キュッと硬くなって居座り続ける。
頭が痛い、腰が痛い、動悸がする……。
身体のあらゆる症状は、———もちろん様々な物理的原因があることを肯定したうえで、———わたしたちが受け取ってきた情報の表現のひとつだと解釈することができる。
言わずもがな、過去の記憶も、身体に残っている。
スタニスラフスキーというロシアの偉大な演劇人がいる。
彼が開発した役者の演技メソッドは「スタニスラフスキーシステム」と呼ばれ、高く評価されている。
このメソッドは「リラックス」を重視している。
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