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スターも苦悩していた。あの日のカズのゴール

テレビで見たシーンで強烈に記憶に残っているものが2つある。


ひとつは高校受験が終わった日、『嵐にしやがれ』でトータス松本が歌っていた「ええねん」笑

もうひとつが、東北大震災復興支援 チャリティーマッチのキングカズこと三浦知良のゴール。そしてカズダンスだ。


今までの人生でも憶えているシーンはたくさんあるのだけど、その時の自分の感情や空気感まで鮮明に思い出せるとなると数少ない。



人びとの心を打ったカズダンス

2011年3月11日、東北大震災が起こったときわたしは中学2年生。

中2なりにいろいろなことを感じ考え、答えを出せないことや、何の影響もない・何もできない自分にどこか罪悪感を残した出来事だった。



震災から18日後、わたしが大好きなサッカー選手たちがチャリティーマッチを行った。

海外組も招集された日本代表チームvsJリーグ選抜という、当時のサッカー界を彩る選手たちが勢揃いした試合だ。



試合前から一段と注目されたのは、カズの出場とゴール後のカズダンスをするのかどうか。
前日のインタビューでカズは「ゴールを決めればカズダンスをする」と宣言し、一層注目を集めていた。



そして試合当日、バリバリに若くノッていた日本代表チームが優勢だったが、どちらも全力のプレーを魅せてくれてすごく見応えがあった記憶がある。



後半に満を辞して出場したカズ、全国民が彼のゴールを心待ちにしていた。
わたしは正直「決めたら本当にすごいけど、実際はそう上手くいかないんじゃないか」と思っていた。


わたしはここぞという時にアッサリ外すタイプの人間だし、自分以外に対しても期待してガッカリしないために予防線を張るクセがある。



もはやカズのゴールを想うと、ちょっとくらいわざとゴールをさせる演出があってもいいんじゃないか、なんてダサい気持ちが頭をよぎるほど全員本気の試合だった。

(フリーキックは当時よく代表戦で観たヤットと本田がツーショットで話しているし、ゴールを決めたら本気で喜んでいるし、闘莉王なんて熱くなって最後イエローもらっちゃってるし笑)



そんな中、GK川口のキックから闘莉王を経由し、抜け出したカズがゴールを決めた。その瞬間、会場中がワァアっと歓声をあげ皆立ち上がっていた。

カズダンスと、力強く挙げた右人差し指、祈るようなその表情が本当に忘れられない。



こんなにもテレビに釘付けになって、色んな感情がこみ上げたのは初めてだった。

会場は代表・Jリーグ選抜それぞれのユニフォームを着たサポーターがいたものの、敵も味方もなく全員でカズのゴールを喜んでいた



わたしはそもそも争いが嫌いだ。スポーツはどんなにバチバチやっていても、試合が終わればお互いを讃えあう。


そんな文化がホッとするからサッカーが好きなのだけど、ちょっと当時は熱くなりすぎてサポーター同士がぶつかったり、サポーターが選手を傷つけたりする場面が目に入ってくる時期だった。それはもうスポーツじゃない。



ただこのチャリティーマッチは、みんながみんなを応援しているような気がして、やっぱりサッカーって素晴らしいのだと心から感じた日だった。

ニッポン!ニッポン!の会場中に響き渡る大声援も鮮明に覚えているほど感動した。



あれから10年、思うこと

このチャリティーマッチのカズのゴールを観ると絶対に泣いてしまうから、あまり観ないようにしているのだけど

ふと観たくなって、平日の在宅勤務の昼休みに久しぶりに観てしまった。やっぱり泣いた。



震災から10年。わたしは24歳になった今、当時を回顧するカズのインタビューを観た。

こんな時期にサッカーをしていいのか、カズダンスをするか、自分に何ができるのか。キングカズがそんな苦悩を語っていた。



当時中学2年生だったわたしにとって、大人たちは絶対的な答えを持っていると思っていた

ましてやテレビの向こうで輝いているスーパースターだ。そんなスターだって、わたしたちとおんなじように「自分に何ができるか」悩んでいたのだと実感した。



あんなに喜ばれたカズダンスは初めてだった、と語るカズもきっと悩み続けながら自分のできること・あり方を模索しているのだろう。



ちなみに当時の本田・岡崎・内田などなど、すでに輝いていた選手たちと今のわたしが同じ歳くらいなのだ。もう海外でバリバリ活躍していたのだから本当にすごい、脱帽した。


代表チームのメンバーが試合後のインタビューで口々にカズについて語っていた中でも、24歳だった岡崎が「目指すべきはあそこ(カズ)」と言っていたのが印象的だった。

当時わたしと同世代だった今のスターたちも、まさにそうやって模索していたのだと思う。




カズは後日、自身のブログでチャリティーマッチのゴールについてこう語っている。

Jリーグの歩み、日本代表の歴史、1998年ワールドカップ(W杯)に行けなかったこと。日本サッカーにまつわる歓喜も哀愁も背負ったまま、僕はサッカーをやっているのだろう。

“サッカー人として”2011年04月08日(金)掲載 「ありがとう」のゴール


日本サッカーを背負ってサッカーをやっている、まさにすべてが込められたカズのゴールだから観る者の心を打ったのだと再確認した。


そして、このゴールもひとつの通過点。カズのサッカーはまだ続くと書かれているように、54歳(プロ36年目)で未だ現役だ。



カズはいつも、その記録よりもそこに至るまでのプロセスの方が大事だと言う。


最年長出場記録ばかりが目立ってしまうこともあるけれど(本当に本当にすごいことなんだけど)、

積み重ねたプロセスあっての感動や、それ自体がまたひとつのプロセスになることもまたカズのすごさなのだと思う。


結果よりもプロセス、なんて言葉はよく聞くけれどこんなにも体現している人がいるだろうか。



この日生まれたサッカー実況史に残るほどの名言「カズは、やはりカズだった」し、今もこれからも、やっぱり我らのカズだ。

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