美しい日本語を操るアーティストたち②

前回、美しい日本語を操るアーティストとして中島みゆき、椎名林檎、あいみょん、ぼくのりりっくのぼうよみ、を紹介しました。

まだまだ気になる歌詞があるので、第二弾です。

前回も書いた通り、だいたいの歌詞は全ての流れがあって意味をなすので、一部だけを取り上げるのはナンセンスかもしれませんが、これをきっかけに全文を読んでみたい、曲を聞いてみたいという興味を持ってもらえたら嬉しいです。


前回取り上げた中島みゆきの「空と君のあいだに」

雨というのは空から見れば下に落ちていくもの、人間から見れば上から落ちてくるもの。
しかし、中島みゆきはその“間”を切り取るという独自の視点で、誰にも書けない歌詞を書きました。

ひらがな・カタカナ・漢字があり、同じ音でも違う意味を持つ言葉がたくさんある、そんな日本語に、“人と違う視点”が加わったとき、その表現の可能性は無限大となるのです。

こちらも前回取り上げたアーティスト、ぼくのりりっくのぼうよみ。
埋もれている美しい日本語を掘り出し、他の人にはできない言葉のつなぎ方をする彼も、日常の出来事をまるで別の視点から切り取ります。

そんな、ぼくのりりっくのぼうよみの「人間辞職」という曲があります。

この曲では、まず、
人間=人の形をしているだけではなく、人と人との間で形成されていく社会に適合できているまともな人
のように捉えていると思われます。

そして、“人間”でなければならないことに息苦しさを感じ「“人間”というものはオワコンだ。まともでなくては生きていてはいけないという世の中の風潮に流されず外れたければ外れよう。私は人間を辞職し、これからは“自分”として生命を全うしよう」ということを表現している曲だと、私は解釈しています。

初めて彼の歌詞に触れた人には衝撃的な表現ばかりかもしれませんが、その中でとても好きな表現があります。

どうにも毎日オフ・ビート
「なんでお前ここにいんの?」
そんな心の内だけは聞こえてくる
時間どおりに言われたことをこなすのさえ
至難の業 痛いよなんか
太陽なんか 沈んで二度と帰ってくんな

ここはラップ部分で、まともな人間でいることの難しさ、苦悩を音に乗せています。
「痛いよなんか 太陽なんか」の韻を踏むところも気持ちいいですが、注目したいのは最後の「帰ってくんな」の部分です。

太陽が沈むと、次はどうなるでしょう。
当然“昇る”はずです。
それを「帰ってくんな」と表現しているのです。

自分のいるこの世界からなくなった太陽。
まともな人間の時間帯から、夜、暗闇の時間帯に変わる。
日が昇ると、また人間に相応しい時間帯がやってくる。
まともな人間には昇ってくる明るい太陽、清々しい朝でも、そうではない人にとっては息苦しい時間の始まり。
昇るという表現は眩しくて苦しいだけ、吸血鬼のように。
自分のいる世界に「二度と帰ってくんな」。

苦しいのに美しい表現だと思いませんか。

ちなみに、イントロのメロディーが曲の途中でも入ってくるところなども好きで、トラック、メロディー、リリック、そして声、全てが絶妙なので一度聴いてみてください。


もうひとつ、美しい日本語というよりは“美しい愛”を感じる曲を取り上げたいと思います。
うーん、“怖ろしいけど美しい愛”と言った方が良いでしょうか。

平松愛理「部屋とYシャツと私」。
30代以上の人はきっと知っている曲でしょう。

婚約者に対し、結婚するにあたっての要望を次々と出していくのですが、守らなかったときの仕打ちがなんとも恐ろしい内容となっています。

女の勘は鋭いからどうせばれるよ、だから嘘はやめて…っていうかさ、浮気したら毒入りスープで心中するから、嘘をつくどうこうより浮気自体しない方が身のためだよ。
ちなみに、あなたは嘘をつくとき右の眉が上がるからすぐわかるよ。

と、逃げ場がないように追い詰めていくのが怖すぎます。
ただ、あなたが裏切ったりしなければ最大限の愛で包み続けるよ、という深い愛情も伝えています。

あなたのいびきも歯ぎしりも好きだよ、あなたが違う人生を選びたくなってもあなたとならばどんなことでも受け入れるよ。

他にもいろいろ、重い女だな、わがままな女だな、と思うようなことを言っているため、同じ女の私から見てもちょっとフィアンセがかわいそうに思えてくるのですが、最後の一言でなんだか彼女が愛おしく感じ、抱きしめたくなりました。

もし私が先立てば オレも死ぬと云ってね
私はその言葉を胸に 天国へと旅立つわ
あなたの右の眉 みとどけたあとで

最後まで要望が多い面倒くさい女だよね、でもね、結局ただあなたのことが死ぬほど好きなだけなんだ。
ただただ愛し続けて、最期はあなたの幸せな嘘を見届けて死んでいくんだ。
最期だけは嘘をついても許すよ。

そう考えると、もし結婚生活を送る中で実際に彼に裏切られることがあったとしてもなんだかんだ許してあげるんじゃないか、大きな愛で包んであげるんじゃないか、と思えてきます。

あなたは嘘をつくと右の眉があがるから嘘ついてもすぐわかるんだよ、浮気してもばれるよ、ばれたら殺すよ、という怖ろしい話から、最後は愛おしいあなたの優しい嘘を見届けて私は死ぬよ、という美しい話に着地させた平松愛理は凄いと感じました。


今日は2つ取り上げましたが、まだまだ感銘を受けた歌詞は山ほどあるので、第三弾もいつかできたらいいなと思っています。

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