THE ALFEE『KO. DA. MA. / ロマンスが舞い降りて来た夜』First Impression 〜 エッセイ「50年目の夜明け」
THE ALFEEは7月24日、2023年5月の『鋼の騎士Q / Never Say Die』以来となるシングル『KO.DA.MA. / ロマンスが舞い降りて来た夜』を発売した。
昨年11月には公式Instagramを始め、今年6月には公式TikTokも開設するなど、10年以上手付かずだったSNSへの対応を急速に開始。グッズでメンバーのアクリルスタンドを販売したり、TikTokと連携する形で「メリーアン音頭」を会場全体で踊り、ついには音源を配信したりするなど、デビュー50周年を機にこれまでにない新たなファン層の開拓を積極的に進めている。
そんな彼らが次に送り出したシングルは、テレビアニメ『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』とテレビドラマ『心はロンリー気持ちは「…」』というふたつのタイアップがついた。特に前者は久々のアニメタイアップで、ウルトラシリーズやドラえもんと同じように、これまでALFEEサウンドに触れてこなかった未就学児や小学生にも希求する形となり、実際にお子さんが歌詞を覚えようとしている姿がSNSに投稿され、親御さんやシンカリオンファンにも話題だ。
そして、本作はなんといっても両楽曲ともに、2006年の「Innocent Love」以来となる本格的なミュージックビデオ(以下、MV)が制作されており、こちらもフル・ヴァージョンの公開が期待される。
この記事を読んだ皆さんも、機会があれば、ぜひ一枚手に取ってほしいのだが、まずは公式のエンディング映像とショート版のプロモーション・ビデオで楽曲を試聴いただけると幸いだ。
それでは、10年前の『ウルトラマンギンガS』の主題歌「英雄の詩」でファンになったわたしがこの楽曲について、いろいろと綴ってみようと思う。最後までお付き合いいただけると嬉しい。
1.KO.DA.MA.
まず、実質的な表題曲となる「KO.DA.MA」だが、テレビアニメ『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』のエンディング・テーマで、メインヴォーカルは桜井さんが担当した。言うなれば、“現代におけるTHE ALFEEのスタンダード・サウンド”ともいえる楽曲である。
アニメ側からも「THE ALFEEを全開で出してほしい」という要望があったそうで、高見沢さんソロの「薔薇と月と太陽 〜 The Legend of Versailles」から定番となっている「作詞・作曲・編曲:高見沢俊彦+共同編曲:本田優一郎+ストリングスアレンジ:萩森英明」というトリオで本作も制作された。
このトリオの楽曲は、ハードロックやシンフォニック・ロックの文脈を根底に、ストリングスをふんだんに取り入れたゴージャスなサウンドになりやすい。THE ALFEEの歴史上では、1996年のアルバム『LOVE』で試験的に導入され、次作の『Nouvelle Vague』やシングル「Brave Love 〜 The Galaxy Express 999」などで生のストリングスを取り入れて実践された方法論である。
本楽曲はこれらの楽曲の中ではコンパクトな尺(5分ちょうど)に纏められ、イントロこそ46秒としっかりと作り込まれているが、2番から大サビまでの間奏は比較的短く、ギターソロも凝縮されている。かなり多くの要素や仕掛けが盛り込まれているが、それでも視聴後の余韻が軽やかなのは、タイアップ楽曲ならではのよりシンプルに整理された構成によるものなのだろう。
さらに、歌詞に目を向けてみると、近年は定番ともいえる「大阪国際女子マラソン」のイメージソング直系の、非常にストレートなメッセージソングとなっている。かなりフレーズは詰め込まれているが、だからこそ、メッセージがスッと心の中に入り込んでくる。10代や20代のシンガーが歌うとかなり背伸びした感を抱くし、坂崎さんや高見沢さんが歌ってもちょっと重さを感じる詞だが、桜井さんが歌うと非常に様になるのだ。この辺りは両A面のもう片方の「ロマンスが舞い降りて来た夜」と比較していただくとわかりやすいが、高見沢さんはある程度三人にどんな歌詞を歌わせるかを分担していて、三人全員で歌い継いでいくスイッチヴォーカルの楽曲はバンドの現在やメッセージを詰め込んだものになるが、それぞれのソロヴォーカルだとこの違いが明確になる。
50年の歴史があるからこそ、研ぎ澄まされた歌詞のストレートさが魅力になるし、「メリーアン」「星空のディスタンス」以降にひたすら追いかけてきたハードなサウンドも、ファンはもちろん、ファン以外の方にも「THE ALFEEっぽい曲だと思ったら、ほんとうにTHE ALFEEでびっくり!」といったふうに作風に栞が付くようになる。
これは長年続けてきたクリエイターにしか貰えない“勲章”で、時代のクリエイターにもそういった側面が指摘されることもあるが、幅広い世代が似たような認識を持っているという意味合いにおいて、なかなか真似できることではない。
昭和から培われてきたTHE ALFEEサウンドの最新形態として、ひとつの名刺になりうる楽曲だ。
2.ロマンスが舞い降りて来た夜
「ロマンスが舞い降りて来た夜」は豪華なカメオ出演と軽やかなギャグを取り入れた明石家さんまさん主演のスペシャルドラマ『心はロンリー気持ちは「…」』の主題歌で、メインヴォーカルは高見沢さんが担当した。
「KO.DA.MA」が“現代におけるTHE ALFEEのスタンダード・サウンド”なら、この楽曲は“THE ALFEEの新境地”ともいえる新しい試みがいくつも取り入れられていて、アルバム『天地創造』における「Funky Cat!」や『Nouvelle Vague』における「CRASH!」のような立ち位置になっている。
BEAT BOYSでも武部聡志さんのサウンド・プロデュースによって「DIAMOND DANDY」でブラスを取り入れたサウンドが展開されたが、本作はそれとも違う、生のブラスをふんだんに取り入れたバンドサウンド。そもそも生のブラスが取り入れられたのは2003年発売のアルバム『Going My Way』以来となるのだが、あの頃はローリング・ストーンズの来日公演に影響を受けたハードロック、グラムロックにホーンを融合させた形で、高見沢さん曰く「これまで手をつけてこなかったモータウン・サウンドを自分なりに解釈してみた」という本作はまさしく“挑戦作”といえるだろう。
もう、この楽曲の特徴はとにかく「THE ポップ!」であること。なんといっても詩は覚えやすいし、みんなが歌いやすく、思わず身体が跳ねる。ここまでポップなサウンドを歌う高見沢さんはとても久々で、カンレキーズのポップさともまた異なる、屈託のない笑顔が本当によく似合う。InstagramやTikTokに公開されたショートMVでメンバーが踊っているんだけど、単純にかわいいし、格好いいし、特に桜井さんがノリノリだ。腰がよく振れている。(桜井さんはメンバーの中でいちばんダンスが巧い)
明石家さんまさんのキャラクターが高見沢さんに紡がせたのか、高見沢さんが以前からあたためてきたのか、また詳しいインタビューを読んでみたいと思うが、久々にTHE ALFEEの楽曲から「この曲はヒットするかもしれない」というキャッチーさを持った楽曲が自然に現れた感覚がある。
時代に寄り添っているわけではないし、打ち込み全盛の時代にむしろ逆行したサウンドかもしれないが、彼らからこんなに拓けた楽曲が出てくるとは思わなかった。
個人的には、ベテランの円熟味溢れるアルバム『Orb』の後、21世紀を迎えてテレキャスターを全面的に推し出してきた『GLINT BEAT』への変化も凄かったが、「ロマンスが舞い降りて来た夜」はそれを越えるほどの衝撃を感じた。「Funky Cat!」も16ビートを取り入れたダンサブルな楽曲だったが、仮に伏線だったとしても、そこを容易く越えてくるような、飛び抜けた開放感だよね。
メタルやメッセージソングを歌う高見沢さんもいいが、ポップに突き抜けた高見沢さんはもっと素敵である。
あらためて、高見沢さんのヴォーカルのおもしろさと、そのプロデュース力に感銘を受けた新曲だ。はやくフル尺のMVが観たい。後はただ、それだけ。
エッセイ:「50年目の夜明け」
“作詞家・高見沢俊彦”は光と影の描き分けが巧い。
代表曲「SWEAT & TEARS」や「ラジカル・ティーンエイジャー」はわかりやすいが、かなり濃い影を描いた後に、パッと暗闇が拓けるようなメッセージを出す。このコントラストが強烈な印象に繋げていくのだけども、そこに繋がるまでの入り口となる最初のワンフレーズがリスナーを掴んでいく。
人はよく言う。「夜は夜明け前がいちばん暗い」と。なにかに迷った時、誰かと別れた時、生きている意味がわからなくなった時、わたしたちは絶望に打ちひしがれそうになる。ただ、打ちひしがれている時はまだしも、そこから一歩を踏み出そうという瞬間が、もっとも暗い闇に迷い込んでいるような気持ちになる。だから、実際にその通りなのかもしれない。
THE ALFEEのために高見沢さんが紡いできた詩は、もちろん抒情的で幻想的な、ファンタジーの世界にあるものも数えきれないが、現実世界に対してのエールやメッセージを送る作品も同様に数えきれない。とりわけ、「ラジカル・ティーンエイジャー」や「A.D.1999」を作り上げたことがひとつの転機になったようで、大阪国際女子マラソンのタイアップが始まってからはさらに増えていく。THE ALFEEといえば、応援ソングのイメージを持つ人も少なくないだろう。
そして、40周年を迎えた後の「英雄の詩」や「今日のつづきが未来になる」といったシングルを経て、THE ALFEEの歌詞は、現在の高見沢さんがさまざまな人々へ素直なフレーズで背中を押す詩が中心となってきた。これらの詩の特徴は、「できるだけシンプルに、やさしい言葉でメッセージを語りかけていく」ということ。かつては強い言葉で鼓舞するような詩を書いていたし、「頑張れ!」というフレーズが目立っていたが、今は「頑張らなくていい」「自分の人生を生きればいい」という肩の力を抜いて歩むことを促すようなフレーズが多くなった。
これは時代の変化もあるだろうが、率直に年輪を重ねたことによる高見沢さんの心境も垣間見え、長年のファンであればあるほど、その作風の変化を噛み締めながら聴き込んでいる方が目立つ感覚がある。
シングル『KO.DA.MA. / ロマンスが舞い降りて来た夜』が発売された7月24日、JR西日本は本作「KO.DA.MA.」でモチーフに取り上げた500系“こだま”の引退を発表した。プレスリリースによると、2027年ごろを目処に置き換えられるそうだ。
来年の1月20日に桜井さんが70歳を迎え、メンバー全員が古希となる。まだまだ衰えなど見せずに走り続ける彼らだが、70代の彼らにはどのような旅が待っているのだろうか。少しずつ、少しずつ、自身の可能な範囲で仕事を続けた500系のように、この先も旅は続いていく。
終わらない夢の終わりは、未だ見えそうにない。あるいは、50年目の夜明けへ、これから新しい夢が始まるのか。
わたしは彼らの足跡を最後まで追いかけるつもりだ。THE ALFEEと同じ時代に生まれ、こうして新曲を愉しめる歓びを噛み締めながら……
2024.7.28
坂岡 優
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 いただいたサポートは取材や創作活動に役立てていきますので、よろしくお願いいたします……!!