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タバスコの酸味と辛味に惹かれて | 20世紀生まれの青春百景 #76

 最初は数滴でも「辛い」と感じていたものが、いつの間にか、何滴もかけても辛くなくなっていく。

 辛さやしょっぱさの感じ方にも「変化」という概念があることに気付いたのは、2020年の冬。いわゆるコロナと思われる症状に罹ってしまった。症状としては去年の冬の方がひどく、いまだに体調不良が残っていたりもするんだけども、最初の感染の際に味覚がおかしくなってしまったらしく、中辛しか食べられなかったカレーが辛口でも満足できなくなり、辛味調味料をたくさんかけるようになった。

 もちろん、インド料理店やスパイスを使った料理をその近辺にたくさん食べていたのもあったけれども、そこから先、異様に辛さに強くなった。

 ただ、激辛が好きなわけではない。辛口が好きなのだ。

 個人的には大量のパクチーもやたらと大盛りの食べ物も、「味わう」という観点からすると、こんなに食べ物を粗末に扱う行為はないと思っている。だからこそ、必要以上に辛かったり、明らかにエンターテイメントを意識した食べ物には軽蔑心すらも感じてしまう。

 タバスコもいろいろと出ているが、やっぱりスタンダードなタバスコがいちばん美味しいと思う。

 いま調べてみて知ったのだけども、メキシコにはタバスコ州という州があって、そこを原産とするキダチトウガラシの変種「チレ・タバスコ」が元になっているらしい。そこからビネガー、岩塩を加えたうえで、オーク樽で3年間熟成させる。その後に辛さを薄めるための酢があらためて加えられる。こうして、辛味と酸味の程よいタバスコという我々の知っている調味料が出来上がるわけだ。まるでウイスキーのように手間暇がかかっている。

 トマト系のパスタソースやピッツァにも合うし、ミネストローネやチリトマトヌードルなどにも応用が効き、基本的には洋食だとクリーム系以外はなんでも行けるんじゃないかというくらい、タバスコが馴染む範囲は広い。特にファミリーレストランにはタバスコがタバスコをモチーフに作られた辛味調味料が必ずといっていいほど備わっていて、個人的にはタバスコがある飲食店は気楽に足を運べるという印象を持っていたりするのだ。

 職業柄、いろいろな食べ物や飲み物を体験する機会が多かったが、もちろんタバスコのバリエーション商品もそうだし、他の調味料もいろいろと試してみた。それでも、定番商品の強さは変わらないし、この先もタバスコがあってこそ、他の調味料に手を伸ばしていける。

 科学的な研究が重ねられたうえで生み出された「基準のワイン」が出ていたりするが、この基準があることかなり大切で。たぶん、タバスコがなかったら、パスタやピッツァにかける調味料は困る気がするんだよね。

 また味覚が変わらないことを切に祈っているが、今の辛さに強くなったわたしも、これはこれで好きだったりする。そうだ、今日もたこ焼きにタバスコをかけた。

 2024.7.1
 坂岡 優

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