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いま23歳のわたしが見た、今回の都知事選。 | 20世紀生まれの青春百景 #81

 いま、わたしの住む兵庫県は斎藤元彦知事のパワハラ疑惑で揺れている。議会によって百条委員会が設置され、今後どのように検証が行われていくかに注目が集まっていたが、この疑惑を告発した職員の男性が本日自殺していたことが明らかとなった。

 今回の件はまったく他人事ではなく、わたしも有権者として斎藤知事が誕生した2021年の兵庫県知事選挙に投票していたので、当時の選択をわたしなりに振り返ってみた。兵庫県知事は2001年から20年にわたって、井戸敏三さんが知事を務めていた。わたしは井戸さん以外の県知事を今の斎藤さんしか知らない。

 この選挙では井戸さんが勇退し、副知事を務めていた金沢和夫さんが前知事の支援を受けて立候補していたが、自民党が分裂していたこともあって、自民の一部と日本維新の会の強力なバックアップを受けた斎藤さんが最終的には当選した。

 当時のわたしは「井戸さんの路線は一定の評価をするが、若くエネルギーのある政治家によって新しい風が吹いてくれたら」という理由で斎藤さんに投票した。かつては自己責任を標榜した新自由主義的な政策を評価していたが、大学生になったくらいの時期を境目に社会的包摂を重視した政策を評価するようになっていた。だからこそ、非常に迷ったのをよく覚えている。

 選挙は投票するまでがゴールではなく、その当選者が任期を全うするまで、いや、すべての立候補者の将来をもって、すべての結果が決まってくるのだと個人的には考えている。お隣の大阪の様子を見ているとそう難しくはないのだが、当時のわたしは維新系の候補を当選させる意味を理解していなかった。橋下徹さんや松井一郎さん、吉村洋文さんの政策、文化に対しての振る舞いを見ていたら、わかりそうなものなのに。今となっては、「あの時金沢さんに一票を投じていたら……」と思うのだが、もはや後の祭りでしかない。

 今回の都知事選は、そんな身近な情景を踏まえながら、個人的に興味深く見つめていた。最大の関心ごとは、「候補者たちが東京という大都市をどう見つめていくか」ということ。小池百合子さんのこれまでをどう評価するのか、これから先の東京をどのような街に育てていくのか、環境に配慮した再開発の在り方やAI・DXといったテクノロジーとどう向き合っていくのか、仮に今回は当選しなくとも5年後・10年後にどんな種を蒔けるのか……

 ご存知の通り、選挙結果は現職の小池百合子さんが3選を果たしたが、ショート動画をフルに活用した前安芸高田市長の石丸伸二さんが2位となり、長きにわたって参議院議員をつとめた蓮舫さんを破る結果となった。その後には、元航空幕僚長の田母神俊雄さん、エンジニアの安野たかひろさんらが続いていく。

 今回はわたしがどのように選挙を見つめていたかを5人の候補者に分けて、記録として残してみようと思う。

小池百合子さん:SNSでは反小池の声が目立ったものの、八丈島での第一声から「今回も盤石だ」という感があった。

 わたしは小池百合子さんの政策を評価していない。オリンピック・パラリンピックはもっと良いものが出来た可能性が高いし、過去の歴史に向き合おうともせず、プロジェクションマッピングはとりあえずよくわからないが、太陽光パネルを全住宅に義務化する政策は狂気だと感じた。そもそも都民ファーストの会が結成された段階で、現・立憲民主党の議員を排除せずに取り込んでおけば、二大政党制に近いものが出来上がっていた可能性もある。

 ただ、小池さん本人の学歴詐称疑惑や旧統一教会との繋がりが取り沙汰された萩生田光一さんや裏金問題が関心を集める旧所属先の自由民主党との関係性が未だにそう離れてはいないとはいえ、コロナ禍での対応におけるキャッチーさは画期的だったし、とりあえず大きくは衰退していないので、仮に組織票と呼ばれるようなものがなかったとしても、最終的に小池さんの当選は堅かったと想像できる。

 なんといっても、いくら酷い実績だったとしても、経験したことのないひどさと、経験したことのあるひどさだと、おそらく後者を選ぶ人の方が多い。そもそも、伝統的に社会は変化を好まない傾向にあるし、自民党時代やこれまでの実績があったからこそ、小池さんへの信頼が醸成されていった部分はないとはとても思えない。

 小池さんの当選が堅かったからこそ、他の候補者を安心して応援できる。

 少なくとも、わたしはそう感じていた。選挙の手法はほとんど従来の王道を踏襲したように見えたし、両手で収まらないほどのいろいろな問題を除けば、「小池さんを絶対に当選させたくない」という人がインターネットの外にはそう思っている人の実感よりも多くなく、主体的にそういった人たちを増やすような振る舞いを本人以外がすることも少なかった。

蓮舫さん:周囲では圧倒的な支持。ただ、最初から最後まで、なぜか本人の知らないところでオウンゴールが入り続けた。

 わたしの友人は蓮舫さんの支持者が多いので、蓮舫さんの周辺の声をよく目にしていた。SNS上での熱量はほんとうに凄いものがあったし、街頭演説やひとり街宣など、「市民によるひとりひとりの政治参加」を重視した戦略は非常に一体感があって、遠く離れた関西から見渡すことしかできないわたしは「ひょっとしたらひょっとするかもなあ……」と思わなくもなかった。

 未だに参議院議員としての発言や経歴が取り沙汰されることもあるが、今回は都知事選なので、そこは切り分けて考えたい。

 特に、子育て支援を含めた若者への支援は蓮舫さんがいちばん行ってくれるだろうという期待感があったし、実際に、蓮舫さんは一貫して若者を見つめていた。クリエイターへの支援を公約に掲げ、ジェンダー平等や男女格差への取り組み、高齢者に至るまで、社会包摂の考え方にもっとも近いのが蓮舫さんの公約で、個人的にはすごく心強いな……と。政策の多くに共感できるか、実現できるかどうかは別として、その辺りの一貫性は蓮舫さんらしいと感じた。

 よく蓮舫さんを批判する人たちの中に発言の鋭さ、えぐさを攻撃する人がいるが、今の日本で女性が政治家として生き残っていくためには、ナイフを鋭く尖らせないと光ることすら出来ない。少なくとも、対外的には「強さ、凛々しさ」を見せ続けなければいけない。これは現状の社会を象徴しているのではないか。

 わたしは選挙戦の終盤まで、蓮舫さんを支援していた。兵庫県民なので直接的な投票という支援はできないが、陰ながら、少なくとも見守っていた。

 しかしながら、あまりにもオウンゴールが増えすぎた。SNS上でのハッシュタグ活用、ひとり街宣は、今後も続けていく価値のあるもので、少しでも小池さんに迫るためには必要だったと思うし、街頭演説で音楽を交え、なんとしても記憶に残らせようとすべての人たちが一体となって蓮舫さんを押し上げようとする熱気は凄いものがあった。ただ、小池さんが第一声に八丈島を選んだことを批判した方がいたり、支持者が他の候補者を口汚く罵ったり、大きな声で野次ったり、SNSで暴れ回ったり、そういったオウンゴールの積み重ねにドン引きしていった。(与野党問わず、もともとSNSで思想に合わない相手をひたすら軽蔑する、あるいは相手がダメージを受けるまで攻撃し続ける文化に辟易としていたのもあるし、野次に関しては、わたし自身が大きな声がとても苦手なのもある)

 どうして、相手の顔写真や名前にネガティヴな要素を結びつけたり、自分の主張を曲げさせてまで戦略的投票を呼びかけたり、そういったことでしか訴えかけられないのだろうかと。自分たちに誇るべき、訴える価値のある政策を持っているのに、それをきちんと届けなかったのかと。なぜ、ひたすら相手に塩を送り続けたのかと。

 蓮舫さんは非常に素晴らしい方だと思うが、蓮舫さんを支える人たちが、蓮舫さんの政治をきちんと支えられるとは思えなかった。

 いろいろな側面に嫌気が差したのもあって、「今回は当選するのが難しくとも、数年後に期待できる候補を応援しよう」と決めた。蓮舫さんを全面的に応援する友人にはひたすら怒られたが、選挙前日に応援先を切り替えることにしたのは、そういった背景があったのだ。

石丸伸二さん:わたしはTikTokを観ないので、ほとんど熱狂が届かなかった。

 安芸高田市長時代の政治手法はなんとなく小耳には挟んでいたが、まさか蓮舫さんを破るとは思わなかった。たしかに熱狂的な支持を集めているとは聞いていたし、TikTokでの勢いもあったようだが、そもそもわたしはTikTokをほとんど観ないのだ。

 選挙後によくよく調べてみると、現代社会の変化を象徴するような方だな……と。相手を強い言葉で振り向かせ、論理性や場の空気感を一切気に留めず、ひたすら自分の主張を繰り広げる。 なんとなく、思い浮かぶ人がいるだろうし、これまでの政治の世界にこういった存在が現れた時、決して小さくない混乱が生まれた。

 このまま人気が広がっていくと仮定すると、おそらく一度は国会議員になるだろうし、なんらかの形で自治体の市長や知事をやるかもしれない。仮にそうなった時、非常に危ういものがあるのではないかと感じている。膨れ上がったポピュリズムほど怖いものはない。

 しかしながら、ここまで無党派層を取り込んだのは本当に素晴らしい成果だと思う。

田母神俊雄さん、他の候補者たち:ほとんど無風だった。

 本当に申し訳ないが、ドクター中松さんが96歳で挑戦を続けていることを除けば、ほとんど目にも留まらなかった。メディアでは政見放送やポスターの奇抜さが仕切りに取り上げられていたが、もっとも重要な政策には何も目が向かなかった。

 あまりにも上位三候補との差が広がっていたし、仮に3候補以外のすべてを足したとしても、小池さんには遠く届かない。

 唯一、顔出しをまったくせず、インターネットでの知名度を背景に選挙戦を展開したひまそらあかねさんが10万票以上を獲得したことは画期的な出来事だったと思う。

安野たかひろさん:あなたの5年後、10年後に心の底から期待したい、そう考えた。

 今回のような選挙では「戦略的投票」という形でひとりの対立候補に票を集約させるのが“賢い”と言われる。わたしが蓮舫さんを支援していたのは、そういった側面が大きかった。

 だが、選挙戦で公約が発表された段階で、「安野たかひろさんの公約が数年後におもしろいことになるかもしれない」というおもしろさを感じていた。わたしはITに明るくないので直感的な部分も大きかったのだが、エンジニアとしての知見を最大限に活用し、選挙戦の中で公約を絶えずアップデートし続け、支持者たちと共に、ひたすらクリーンな選挙に徹する姿勢に好感を抱き続けていた。

 わたしが蓮舫さんを支援するのをやめようと思った時、最初に浮かんだのは安野さんだった。蓮舫さんの時はあくまでも見守る姿勢だったが、「安野さんならおもしろいかもしれない」というときめきのようなものと、現実的で画期的な公約への期待感から、生まれて初めて、特定の候補者への支援を公言した。

 今回、安野さんは15万票以上を獲得した。どこの政党にも所属せず、支援者のほとんどが政治に明るくない中で、自身の政策や実現させるための手法をひたすら訴え続けた選挙活動。

 正直なところ、選挙活動最終日に行われたひろゆきさんとの対談はいかがなものかと思わなくもなかった。エンジニアとしてのひろゆきさんがどうかはともかく、安野さんの今回の選挙活動を応援してきた人たちにとって、ひろゆきさんがどう映っていたのか、少なくともポジティヴに感じた人が多いとは思えなかった。終盤の熱気は安野さんの予想を超えていたかもしれない。

 それでも、わたしは安野さんがここまで自身の選挙をやり抜いたことを賞賛したいし、安野さんの5年後、10年後に期待したい。あなたの描く政治は、きっと、日本や東京をもっと良くするだろう。それを証明する機会はきっとそう遠くない未来に現れるはずだ。その時、実務者としての能力を遺憾なく発揮してほしい。

おわりに:次の選挙へ行こう。その次も、ずっと先も。

 最初にも綴ったが、選挙は投票所へ行くことがゴールではない。その次の選挙まで、今回の選挙は続いている。あなたの投票した候補者がどう振る舞っていくか、当選した場合はどんな仕事をしたか、そこまでを見つめていくと、また違った景色が見えてくる。

 ひとつだけ確かなのは、選挙には必ず当選者とそうでない人が現れる。しかしながら、残念ながら落選してしまったとしても、選挙活動によって得られるものは決して少なくないし、その先への種まきになるだろう。

 あなたにやってほしくないのは、仮に相手候補が当選したとして、「この人に投票した人は愚かだ」「あんな人に投票する人は理性的ではない」と罵ること。選挙戦の段階でも、相手候補や政党を批判ではなく、まったく論理的な裏付けのない誹謗中傷で攻撃したり、選挙妨害をしたり、そういったことがエスカレートしては、その場の支持者は気持ちいいかもしれないが、大多数のそうでない人が離れていく。

 わたしは選挙を政策で語るべきだと思うし、そうでない部分に支持者が明け暮れている候補者に一票を託したくはない。

 これだけははっきりと表明しておきたい。

 とにかく、次の選挙も、その次の選挙も、長年の行動の末に掴み取った政治参加の権利なのだから、有権者のみなさんはきちんと選挙へ行こう。そして、政治に参加しよう。

 わたしは政治を「わたしごと」として捉え続けたい。

 今回の都知事選を遠く離れた兵庫県からずっと見つめていたが、あらためて、政治参加の重要性を痛感させられた選挙だった。

 2024.7.8
 坂岡 優

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