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最後のランチは何にする? | 20世紀生まれの青春百景 #86

 おにぎりと味噌汁、ラーメンとおにぎり、コッペパンとパスタ、焼きそばと味噌汁などなど……

 わたしの職場の近くには徒歩圏内で行ける飲食店がないので、お弁当かコンビニで買えるものから昼食を選ぶことになるのだが、日を重ねるごとにどんどんパターン化されて、最後はほとんど決まった昼食をいただくようになっていった。

 以前もエッセイとして綴ったように、それほど健康的な食生活ではないので心を痛ませてはいたのだが、たまに出てくる新作や期間限定の美味しさに舌鼓を打ちながら、それはそれなりに楽しんでいたのも確か。一昨日、久々に並んでいたのを見たあさりとわかめの塩ラーメンを見つけて、思わず小躍りするような気持ちになった。美味しいご飯に出逢うと、とても心が弾むんだ。

 5月に退職を決めてから、より一層、食事に関心を寄せるようになった。もともとは豊かな食文化を広めていくために今の会社に入社したこともあって、食文化や生活様式にはわたしなりにアンテナを張っていた。そういった側面もありつつ、コンビニやスーパーマーケットで売れ筋の商品を眺めながら、商品の向こう側にいる開発者のことだったり、購入した消費者のことだったり、いろいろな情景に想いを馳せた。運命のいたずらや体力的な問題もあって、そこに携わることはできなかったけれども、わたしはほとんど後悔していない。何故ならば、人生は思い通りに行かないものだから。夢は見るけれども、夢が叶うなんて殆ど信じていない。ただ、叶えるために必要なことは何だってする。そうやって生きてきた。

 岡林信康さんの楽曲に「自由への長い旅」というものがある。わたしは加藤和彦さんと坂崎幸之助さんのユニット『和幸』でこの楽曲に出逢ったが、いまはまさにそんな心境で。

 ずっと、わたし自身を疑い続けてきた。何者でもないのに何者であろうとして、自分自身の信じる方向を信じようとしてきた。旅はいつも気まぐれすぎて、何も掴み取れないまま、ひたすら迷走しているような錯覚に陥ってきたけれども、ほんとうは何もないままにふらふらと軸を揺らしていただけだったんだな。そんな人生の現在地に気付いたのは、今年になってから。今年に入って、もっと、まじめに、時にはふまじめに生きようと想った。

 今日でいよいよ退社。何度か綴っているが、この先も関係は続いていく。社員としての日々に別れを告げるだけ。感謝しかない。

 最後の昼食に何を食べようかはもう決めているけれども、また気まぐれで変わるかもしれない。昼食ぐらい、気まぐれでいいじゃないか。すべてが終わるわけじゃあるまいし、人生というロードムービーはこの先も続く。この次は、マッチ・モア・ベターである。いつか、どこかで、たぶん、おそらく……

 2024.7.15
 坂岡 優


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