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終わらない情熱

 昨夜、私はフェルナンド・アロンソに夢を見た。同期のF1ドライバーたちを見ていると、この40歳になったばかりのスペイン人はとっくに衰えていてもおかしくないように思える。だが、ハンガリーの地で、彼は最高の仕事をしてみせた。“現役最強”と言われ続けた男の腕はまだ錆びついていないと、世界に証明した瞬間だった。

 私が彼を初めて認識したのは、2006年の鈴鹿サーキットだった。当時6歳の私にとって、誰がどのチームかさえもわからなかったが、青色のマイルドセブン・ルノーに乗るスペイン人と、真紅のフェラーリに乗るドイツ人だけは識別が付いた。この二人が先頭で激しく火花を散らし、最後はフェラーリがエンジンブロー。「世代交代の瞬間」として、スローダウンするフェラーリとその横を駆け抜けていくルノーの姿は、今でも忘れられない。

その前も、その後も、アロンソには本当に様々な出来事があった。

2007年シーズンにおけるルイス・ハミルトンとの衝突、憧れだったマクラーレンを一年で離脱、フェリペ・マッサとの対立、クラッシュゲート事件、まさかの復帰、苦難続きだったホンダPU時代……

 どちらかというと、日本のファンはフェルナンド・アロンソに対して、批判的な評価を下す傾向にあったように思える。もちろん、競技における政治的な振る舞いであったり、一部の発言であったり、そういった“影の部分”がアロンソの評価を揺らがせていることは事実だ。F1はチームワークの競技であり、いくら腕のいいドライバーでも組織をかき回すような人格では良いシートは得られない。実際、2014年のフェラーリ以降、彼はトップチームのシートを獲得できていないのだから。

 しかし、トラック上のマシンを最速で走らせる腕に関しては、他の誰よりも高く評価されてきた。

 私はこの点において、未だにアロンソを史上最強のドライバーだと信じて疑わないし、ルイス・ハミルトンがミハエル・シューマッハの記録を破るまで「史上最高のドライバーを倒した男のひとり」として高い評価を付けるし、彼の実績に最大の賛辞を贈るだろう。

 アロンソが2015年にホンダのパワーユニットを載せたマクラーレンへ移籍したとき、本当に嬉しかった。「彼なら絶対に大丈夫だ」と思ったし、3年後には表彰台を目指せるチームになると予測していた。チーム関係者はもっと楽観的で、『初年度から優勝争いができる』と発言していたエンジニアさえもいた。だが、現実は厳しかった。3年間の成績をポジティブに評価することはできない。当時のマクラーレンのチーム力は高いとは言えず、表彰台争いに絡むことも難しかったし、ホンダのPUはずっとエンジントラブルに悩まされた。焦りや怒りが原因で、いつしか双方は衝突するようになった。……2017年の冬、マクラーレンとホンダは決別した。

 この頃になると、アロンソはホンダへの怒りを隠さなくなった。世界中のF1ファンやホンダファンは彼に怒った。ホンダがレッドブルと組んでから、目覚ましい成績を挙げ始めたのは結果が示す通りだ。ホンダは速くなった。何より、レッドブルと組んだことで強くなった。今やホンダPUは最高のパワーユニットのひとつだとさえ言える。

 だが、いくら強くなろうとも、果たせなかったことに対しての怒りをドライバーにぶつけるのは違う。もちろん誹謗中傷なんて以ての外だ。多くのファンが心無い言葉をぶつけるのに対して、個人的には「何てことを言うんだ!」と憤っていた。この件に関しては、いくら語っても語りきれないほどに思うところがある。ひとつだけ確かなのは、私はいつか、アロンソの魅力をホンダファンに再確認してほしいと、ずっと願っていた。2018年に彼がF1を去ってからも、将来の復帰を楽しみにしていた。

 今回のフェルナンド・アロンソが見せたパフォーマンスは、かつての出来事を払拭し、復活を示すには十分すぎるほどだったように思える。彼は後ろを走るルイス・ハミルトンを、一周辺り数秒遅いクルマで抑え続けた。過剰なブロックは一切行わず、極めてクリーンな走りでもって対処し続けた。

 先述のように、フェルナンド・アロンソとルイス・ハミルトンは宿命のライバルだ。最初は対立もしたが、今ではお互いを認め合い知り尽くしている。F1の魅力は多種多様であるが、マシン同士の攻防戦はやっぱり面白い。ぶつからないし、ぶつかってこないという信頼感が、バトルをより面白くする。

「あー、F1観てて良かったな」と心から思える瞬間だったし、現代のF1ではおそらく彼らにしかできない高度なバトルだった。

 バルテリ・ボッタスとランス・ストロールが起こしたアクシデントはひどかったし、セバスチャン・ベッテルの失格など、ハッキリしない面も多いグランプリだったが、最後にエステバン・オコンを全力で讃えるアロンソの姿を見て、あたたかい気持ちになった方も少なからずいるだろう。

 世界最高の技術を使った自動車競技にもかかわらず、とても人間的である。

 だから、私はこの競技が大好きだし、情熱に溢れた人情味と高度な技能を持つフェルナンド・アロンソに憧れ続けているのだ。彼にはいつまでも現役で、速く強くあってほしい。今の願いである。

 P.S)エステバン・オコン、優勝おめでとう!!

 2021.8.2
 坂岡 優

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