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THE ALFEEのチケット争奪戦が健全化された日 | 20世紀生まれの青春百景 #40

 「譲ってください!」「お譲りします!!」の看板が日常だった時代。必要以上に延びた列が鬱屈とした気持ちに拍車をかける。インターネットを見渡してみても、規約で禁止と明言されているにもかかわらず、そういった書き込みが散見どころではないくらいに行われていた。はっきり綴ってしまうと、他の同世代のミュージシャンと比べても異常な状態だった。

 5月7日、THE ALFEEがデビュー50周年を記念してKアリーナで行う夏のイベントに向けて、新しい規約を発表した。内容は概ね例年と変わらないものだったが、もっとも話題を呼んだのは「チケット不正転売防止法」に基づく「特定興行入場券」の導入だ。長年問題となっていたチケットの転売や大量購入に対しての切り札ともいえる。ひとつ断っておくと、以前から転売に関しては固く禁止されていた。黙認されているわけでも、容認されているわけでもなく、ただ有効な手を打とうとしなかった。単純に近年人気が上昇傾向にあるのも理由だが、その結果、THE ALFEEのチケットはどの公演も取りづらくなった。

 チケット争奪戦に限らず、YouTubeの違法アップロードや肖像権の問題に関しても、このファンコミュニティーは非常にゆるい。昭和からの延長線でもあるが、そういった状況にインターネットに慣れた10代や20代のファンは戸惑いを隠せなかった。声には出さないものの、離れていってしまった人もいるだろう。昨年まではSNSにも手を出さず、「Innocent Love」以降はミュージックビデオも作らず、小さな事務所の運営する“公式”にカバーできる範囲は非常に限られているといえるが、それにしても現代のミュージシャンと思えないほどにインターネットへの適応は弱かった。Webサイトや現代でいうSNSのような環境を高見沢さんの個人サイトに構築していた00年代の方がまだ進んでいたくらいである。

 今回の論争で感じたのは、そういった「ゆるさ」がコミュニティーを成長させていった側面もあるものの、「ゆるさ」によって許容されると信じ込んでいた側面が限りなく拡大し、よくわからない方向に進んでいったがために逆に縮小を促してしまっていたのではないかということ。特に、チケットに関してはそれが大きくなりすぎた。明文化されているにもかかわらず、そこにグレーゾーンがあると思い込んで、無用な争いがSNS上でも起こっていた。他のグループや個人がいるSNSですらそうなのだから、掲示板ではもっと酷いのかもしれない。

 わたしは個人活動が主なので、ファンコミュニティーにはそれほど関与していない。仲の良い友人であったり、研究家であったり、海外のファンであったり、そういった人たちと年に数回会うくらいだ。ライブでも他のファンには会わないし、人混みが好きじゃないのもあって、そもそもライブにそんなに行かない。過激な人たちに怒られるかもしれないが、このような推し方があってもいいじゃないか。他の人はどう考えているか知らない……だが、わたしにとってはある一曲だけが好きな人も立派なファンだと捉えているから。

 あらゆる分野における転売が社会問題化され、法整備が行われてから久しい中、今回の方策は遅きに失した感も否めない。5年どころではない歳月が流れた先に、ようやく対応が行われた。このコミュニティーは歴史やぬくもりはあるが、倫理観という意味ではそこまで成熟していないように思える。だからこそ、もっと早めに対策ができたのではないか。コロナ禍によってコンサートスタッフのやるべきことは増えたが、それ以前に手が打てた問題ではある。

 ひとつ確かなことは、一部のファン自身がそこに対して“自分ゴト化”していなかったこと。高額転売だけでなく、ファン同士の取引も禁じられていたのに、それを良きものだと思い込んでいたこと。レギュレーションを目は通しても、読もうとはしなかった。あの立て看や「譲ってください」というSNSの投稿は、その証明といえる。

 やっと、多少は良くなるのかな。改善されていくのかな。まだまだ改善してほしいことはあるけれども、運営に微かな希望を持った瞬間だった。

 2024.5.10
 坂岡 優

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