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楓と青春 | 2000年生まれのポピュラー文化探訪 #96

 スピッツって、ほんとにずるい。THE ALFEE、ムーンライダーズ辺りはビジュアルからある程度推測がつくんだけども、スピッツは一見さんでは凄いことをやっているって気付けない。そのまま聴き流すことも出来るのに、一度沼に嵌まると一生追いかけてしまう。

 最初に挙げたふたつのバンドも嵌まるとなかなか外に出してくれないどころか一生ものの付き合いになりそうなんですが、スピッツはふとした瞬間に無性に聴きたくなって、そのまま離してくれません。

 草野マサムネさんの名曲メーカーぶり、三輪テツヤさんのギターもちろんですけど、田村明浩さんと﨑山龍男さんのリズム隊があまりにも強すぎるんです。わざわざ説明しなくてもわかるかとは思いますが、アタックという意味ではなく、サウンド全体に「どーん!」と彼らの音像が座っていることで強度が凄まじいことになっていて。高校時代のいつだったか、ちゃんとしたスピーカーで聴いた時に彼らの凄さを実感して、そこから最新アルバムは必ず手に取るようになりました。

 わたしがスピッツの楽曲の中でいちばん好きなのは、今回のエッセイのタイトルにも据えた「楓」です。

 この曲を初めて聴いた瞬間、思わず心が張り裂けそうになりました。ぎゅっとナイフを刺されたまま、抱きしめられているような感覚で。まだ高校生なのに、十代が終わった頃の情景を想像して。そんな曲じゃないかもしれませんが、いろいろな感情がふわっと浮かび上がってくる。名曲と呼ばれる楽曲は世界に数えきれないほどありますが、「楓」の特殊さはちょっと言葉にできないかもしれない。

 日本語にこだわって紡がれた歌詞の響きもそうで、決して言い切らず、行間を大切にしているがゆえに、人々のあらゆる物語を受け容れてくれる。

 作中の中に「楓」という言葉は一切出てきませんが、「楓」以上の題名は誰も思い浮かばないでしょうし、題名が「楓」だからこそ、ここまで愛される楽曲になったのかもしれません。

 いろいろな方が歌っていますが、わたし個人としては上白石萌歌さんのカヴァーがいちばん印象に残っています。出逢いの曲でもあり、彼女の声があまりにも美しかったから。高校時代は弾き語りもしましたし、ちょっとしたバンドセットで演奏したこともあったな……

 振り返ってみると、わたしがスピッツをスピッツとして認識し、追いかけ始めたきっかけになったのが「楓」なんです。

 代表曲は知っていましたし、それぞれに思い入れがある。ただ、「楓」だけは特別な響きを持ちます。青春の中の大切な一曲。

 わたしの思い入れをひたすら語るエッセイになりましたが、この曲はわたしと同じように、リスナーの数だけ深い感情のある楽曲だと思います。こういった作品が語り継がれていくのでしょう。これからも好きであり続けるでしょうし、嫌いになることなんか絶対にない。そう断言できます。

 2024.3.11
 坂岡 優

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