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夏に冷たい蕎麦をいただくということ | 20世紀生まれの青春百景 #82

 七月に入ってから、ほんとうに暑い。命の危機を感じるレベルで、どうしたものかと気象を問い詰めたくなる。

 ある映画で主人公の神様が太陽を説得して気象を変えさせるというシーンがあるが、今こそその出番だと思う。あの映画はもはや公式に観られる手段が存在しないけれども、お酒を飲みながらぼーっと鑑賞するには素晴らしい作品だった。

 そんなこんなで、わたしは親に連れられ、兵庫県三木市の蕎麦屋『一休庵』へ行ってきた。三木市の中でもかなり有名な蕎麦屋で、つなぎを一切使わない蕎麦が名物である。ここの蕎麦屋は母が見つけてきて、三木市を訪れるたびに食べに行っている。今回もそうだったが、毎回、ものすごい行列でびっくりさせられるお店だ。

 ここの名物はもちろんお蕎麦だが、かけ蕎麦よりも、ざる蕎麦の方が好きなわたしにとって、ざる蕎麦を推してくれていることはとても嬉しいことだ。

 正直なところ、わたしは蕎麦があまり好きではなかった。年越し蕎麦は食べなかったし、カレーうどんやラーメンがその代わりをずっと果たしてきた。今もかけ蕎麦を食べようとは思わない。でも、ここの蕎麦だけは食べられるし、ざる蕎麦ならいくらでも食べられる気がする。

 おつゆとネギとわさびという伝統的な組み合わせだが、蕎麦に奇抜な要素はいらない。ずっと、これでいい。変わってほしくない。

 今回は昼食時に訪れたので、天丼がついてきた。天丼も美味しかったのだが、今度は海鮮を使った丼ものや天ぷらでいただくのも良いかなあ……と思う。せっかくの天ぷら、好みの塩で食べられたら、もっと美味しいんじゃないかしら。そんな気がする。海老が大きいんだな、これが。

 社会は日々変化を続けていくし、物事が良い方向へ変わらなければ、世界は停滞していく一方だけど、衣食住に関してはこれが当てはまりづらい。シンプルであればあるほど、良いものにこだわればこだわるほど、どんな時代にも変わらない満足を手に入れられる。流行は一週間で過ぎても、シンプルは古くならない。

 人間同士のコミュニケーションにも同じことが言えるが、基本的な部分、昔から変わらないものにこそ、誰もが理解できるような本質があるのではないか。

 最近、日本の食文化をわたしなりに遡ってみているが、江戸時代の食文化には興味深い部分がある。特に、外食の文化は現代にも続いているものが少なくなく、蕎麦やうどんはそのひとつ。昔ながらの美味しさを大切に、日本の暑い夏を今年もゆっくり乗り越えていけたら。暑すぎるよな、今年の夏。いや、梅雨。

 2024.7.9
 坂岡 優

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