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それでも、ナイアガラ。

 今年も、ナイアガラ・レコードから掘り出し物が贈られる季節がやってきました。2013年の暮れに大滝詠一さんが亡くなってから10年が経ちますが、まだまだ未発表音源が眠っているものなんですね。もし大滝さんが生きていたらこの音源をどのように扱ったのか、それとも死後の音源リリースを本人なりに“予定”していたのか。今となっては知る由もありませんが、やはり新曲が聴けるのは嬉しいです。

 音楽ビジネスをまだ認識すらしていなかった時代の私が、「死語に作品がリリースされることもある」と知ったのは大滝さんがボーカルを取った「夢で逢えたら」がきっかけでした。この楽曲は日本でもっとも多くの音楽家にカヴァーされたと形容されるほど有名なものですが、生前は頑なに「そんなものはない!」と言い続けてきたものですから、中学生の私なりに衝撃を受けました。

 正直に申し上げますと、『DEBUT AGAIN』『HAPPY ENDING』のように本人がコンセプトの部分まで携わっていない作品のことをオリジナルアルバムと称するのは不誠実だと思います。レーベル主導の企画盤といいますか、せめてベストアルバムと呼んだ方が良いのではなかろうかとは感じていました。

 ただ、作品自体は大滝さんが丹精込めて仕上げた作品そのものですから、批評的な視点やビジネスの観点は抜きにして、いちファンとしては感激する音源ばかりです。

 死後に良質な音源を聴けるのは、ひとえにマスター音源とサウンド・エンジニアリングにこだわり抜いてきた大滝さんならではと言えますし、ロンバケ以後にはほとんど聴けなくなったユーモラスで先鋭的な彼の歌唱はやっぱり楽しい。もちろん、ロンバケ以後の音源もひとえに美しくて、唯一50年代のUSポップに近づいたといえるほどの傑作だと思っています。

 最新作『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』はやっと音頭を歌う大滝さんに注目が集まるのかと、万感の気持ちです。これを機に、『NIAGARA CALENDAR』が再評価されると最高だな。

 やっぱり、私はナイアガラ育ち。もっと言うと、はっぴいえんどのメンバーが紡いだ作品に育てられた表現者なのです。

 2023.3.19
 坂岡 優

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