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太陽が心臓なら月は銀色の弾丸、

セカイ系のぼくたちの、夏に積もった雪はすっかり溶けたから、
休み時間の教室の窓辺、海の波に似たうすいカーテンにかくれてきみはぼくにさよならと言ったけど、その声があまりにも透明で音楽めいていたから、思わずきみの手を握りそうになったんだ、
これは秋なの?それとも春なの?

世界はどんどん進歩するけど、宇宙のはてに、なにがあるのかは依然として誰も知らないし、火星のひび割れまで出掛けて写真撮ってインスタ映えさせられるころには、ねえ地球はもうなくなっちゃってるかもよときみは笑って、だってそんなずっと先にぼくらはふたりともいない、ぼくの知り合いも誰もいない。そんなことを思うと怖くなって、目をぎゅっと瞑ってだめになりたくなる、だめになったまま、生きることをゆるされたくなる、宿題もテスト準備も手伝いも友達に笑顔でいることも近所の人に挨拶されてもし返さないで、あの家の誰々くん最近感じわるいわねって言われて、たとえば罪を犯してテレビ局の人が来るとするよね、そんなとき「ああ、○○さんちの誰々くんね、何だかなにかしでかしそうな子だったわ」なんて隣のおばさんに言われちゃったりしたとしても、だけどそれでも生きてることをただただ、それでいいんだよって、だめになったまま甘やかされて、ゆるされたくなってしまうんだよ。

ねえ、だから弾丸を仕込むのよときみは言う、真冬の空を見てよ、鉛色しててこんなにも美しいでしょう、心みたいに重くって、生活みたいに邪魔でしょう、だからわたしたちそっと弾丸を仕込むのよ太陽は心臓だから心臓に撃ち込むのよ、世界の中心だから。
月の、なんて銀色の、完璧の、完結された世界のはての、いつも太陽に寄り添って、満ちたり欠けたりする月になって。ねえ泣かないでよそんな顔して私の前で。わたしたちさよならしましょう、そして手を取り合って明日を祈りましょう、冬の空を見上げたまま夜になるのを待って、
これ昼なの?それとも朝なの?違うわちゃんと聴いてときみはぼくに、耳打ちする、

わたしたちの、孤独な魂を、撃つのよ。