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【ゆのたび。】20: 野沢温泉 ~野沢温泉日帰り外湯巡りRTA(リアル湯治アタック)③~

前回からの続き。

今回でpart3だ。

前回の内容はこちらから↓

一番最初の内容はこちら↓


前回までで、野沢温泉に点在する13の外湯のうち、9つ目までを制覇した。

残るは4つ、あと4つ。日の入りはもうすぐそこまで来ているが、何とか頑張って全湯制覇を達成したい。

体は立て続けの入浴によって熱さが飽食状態ではあるけれど、まだあと少し我慢だ。

幸い夕方になって気温が低くなり、湯上りには心地よい涼しさになって来ている。

これを活用し、なんとか最後まで完走したい。

ということで、次の外湯を目指していこう。

来た道を戻って大きな通りに出る。

そこから南側へ行き、住宅と旅館が混ざる区画へと進む。

少し複雑な形をした道の分岐点、お堂のあるその体格の位置に、白い建物の外湯が鎮座していた。


十王堂の湯


実は唯一の縦書きの字。2階の男性湯の入り口で唯一の縦看板が客と目を合わせる


女性湯は1階。字自体が看板だ

10番目の外湯、『十王堂の湯』である。

斜向かいにある十王堂が名前の由来だ。

泉質は含石膏-食塩・硫黄泉。

麻釜と湯ノ宮という源泉から引湯し、効能は大湯と同じらしい。

ということは胃腸病、リウマチ、婦人病、中風に効くということだろうか。

街角にありそうな近代風の建物は2階建てで、ある意味では一番街中に溶け込んでいるともいえる。

1階が女性風呂、2階が男性風呂という珍しい造りだ。

ここにも以前に来たことがあり、比較的利用客の多い印象の外湯だった。

さて、今回はどうだろう。他に人はいるのか、いないのか。

真相を確かめるために私は少し急で狭い階段を上った。

戸を開けると、濃い湿気が顔にぶつかってくる。入ってすぐに浴室だからだ。

中は大きな単一の空間で、脱衣所と浴室が一体になっている造りだ。

他の外湯と比べても広い室内は、真ん中にこれまた他よりも大きい浴室が1つある。そこにすでに数人の先客が湯に入っていた。今日も人気なようである。

湯船が広いので、先客がいても余裕を持って入れるのがここの良い所だ。

熱めながら心地よく入れる湯温はすでに先客の誰かが調整をしてくれたからかもしれないが、湯に入れば外の寒さをしばし忘れることができそうである。

ただ、ここまでの連続入湯によってすでに体は出来上がってしまっているので、長風呂は体がノーセンキューと訴えてくるのが少しもったいない。

先客よりも後に湯へ入ってきた奴が誰よりも早く湯から上がったのを見て、客たちはきっと奇妙に思ったに違いない。

湯が良質なのは分かっているけれど、のぼせるまでのリミットはすぐそこまで来ているので無理はできないのだ。

安全第一、湯上りした自分に指さし確認良し! 下がってきた気温で体を冷やしつつ、残る外湯を巡っていこう。

 

十王堂の湯のスタンプ

これにて10番目の外湯、『十王堂の湯』制覇である。


⑪秋葉の湯

街灯がともり始めた集落は趣のある雰囲気がある。

観光地としての温泉街と生活の場としての住宅地が混在しているためなのだろうか。温泉街という癒しを求めて訪れる場、ある意味では非日常な空間には本来無いはずの生活感というか、暮らす人々の『ニオイ』がする気がする。

しかしそれは決して悪い感覚ではない。むしろうらやましさを感じてしまう。

それはもしかしたら芝が青く見えているだけかもしれないが、毎日のように湯へ気軽には入れるなんてなんとうらやましいことだろうか。

歩いているとランドセルを背負った小学生とすれ違う。何でもない一場面なのに彼らがどこか異質な存在に思えるのは、小学生の通学風景が温泉街からは遠いものに私が心の中で位置づけていたからだろう。

集落内の細い道を曲がり、少々長い坂を上がっていく。

車一台分くらいの薄暗くなってきた道を上ると、道が幾つにも分岐する交差点に当たる。そこからさらに上へと上るのかと意識させておいて、ふと横を見たところに少々古めかしい建物な10番目の外湯がある。


秋葉の湯


正面から秋葉の湯


達者な字。曲線を描く看板が客を見てくる

11番目の外湯、『秋葉の湯』である。

なんというか、街の公民館のような雰囲気を感じる。

和式建築な外湯も雰囲気があって良いけれど、こういう現代の生活になじんだ外湯も良いものだ。こちらの方がむしろ生活と地元民により近い気がしている。

泉質は含芒硝-石膏・硫黄泉。源泉は麻釜で、効能もほぼ同じらしい。

中へ入ってみると、すでに先客が2人いた。やはり客の数が増えてきている。夕方となり、仕事や学校帰りの人々が湯へやって来ているからだろう。

中はやはり脱衣所と浴室が一体となった造りで、外湯では当然だが石鹸類は無いのでちゃんと湯を桶ですくって体を洗い流してから湯に入る。

ここもすでに調整がされて入りやすい温度となっていた湯は、麻釜から引湯しているためにこれまで入ってきた外湯と泉質は同じなのに違う湯へ入っているような感覚になる。

いかに温泉には浴室や湯船の造り、そしてその場所の雰囲気が大切かが分かるというものだ。

そしてやはり先客、おそらくは地元の人々が入っているとより外湯らしい雰囲気が湯に漂う気がする。外湯は地域住民の生活の場であり、『もらい湯』の文化で入浴させてもらってはいるものの客は結局のところ外様なのである。

あくまで私の持論だが、外湯の主は地元の方々だ。客はそこへ混ぜてもらいつつ、目立たないようにそっと湯を楽しませてもらうのだ。

そして彼らがいることで生み出させる地元の空気を少しだけ共有させてもらうのが趣というものなのだ。

という風に格好つけつつ、のぼせる前に湯から出る。

入っているときも騒がずに、そして湯から出るときも後を濁さない。

これが私が地元の人々への敬意の表し方なのだ。


秋葉の湯のスタンプ

これで11番目の外湯、『秋葉の湯』制覇である。


⑫新田の湯

日が暮れる速度が早くなっていることを改めて実感する。

外に出ると、辺りはより薄暗くなっていた。

日の長さの変化に気付くのタイミングはいつも突然だ。日の入りの遅さにも早さにも、一日一日では気づかない。ふと思い出したように、自分の感覚と実際の日の入り時間とのずれへ違和感を覚えて初めて気が付くのだ。

ちなみに日の出の時間の変化には気が付かない。

私は早起きは苦手だからである。

街灯が灯る道を下り、太い道路に出る。そのまま集落中心部を背にして道なりに歩いていく。

意外にも車通りがあり、ヘッドライトのまぶしさに目を細めてしまう。これから宿にチェックインする客たちの車だろう。

すっかり夜になってしまった道を歩いていれば、道のわきに温かみのあるオレンジ色の門灯が目に入る。暗い集落内での客たちの訪問を歓迎するかのように12番目の外湯が建っていた。


新田の湯


正面から新田の湯


流れよく書かれた字。自然の形を生かした看板が客を見つめる


温泉には暖かい色合いの光がよく似合う。

火のような暖色はどこか丸さがある雰囲気だ。癒しを求める人の心をより穏やかにしてくれると思う。

泉質は含芒硝-石膏・硫黄泉。源泉はここも麻釜。当然効能も同じ。

今までいくつの外湯が麻釜を源泉にいたのだろうか。源泉の多い野沢温泉だが、いくつもの外湯に加えて多くの宿の内湯の源泉である麻釜がどれだけ大きい源泉なのかよく分かる。

中は、そろそろ飽きてくるかもしれないがやはり脱衣所と浴室が一体となった造りだ。服を脱げばすぐに湯へと入っていける。

石製の床は滑りやすいの注意が必要だ。湯船も石製で、磨き上げられた壁面はツルツルしていて心地よい。

ゴロゴロとした石を組んだ湯船も味があって良いが、時々尻や背中に石の角が刺さって痛かったりすることがある。そういう意味では身構えずに湯へ入れる。

先客に地元民らしき人々が数人。年配の方もいるが、彼らよりも若い人々も多い。その中には小学生くらいの少年もいた。

客層の変がよく分かる。昼間は年配の方々ばかりだが、夜になると若年層が増えてきている。

これはきっと、若い人々が帰宅してきたからだろう。彼らはこうやって、会社や学校での疲れを外湯で癒しているのだ。

少年が大人顔負けに湯へ気持ちよさそうに使っているのを見て、なんだが野沢温泉の未来は安泰だなと思えてしまった。

そして私も負けじと湯に首まで浸かる。のぼせの我慢はすでに限界に近いが、少年のように湯をしっかり堪能しないといけない。

そして私は気合を入れて、少しだけ長く湯へ入ったのだった。



新田の湯のスタンプ

これにて12番目の外湯、『神殿の湯』制覇である。


⑬中尾の湯


長かった外湯巡りもついに最後の1つ。

リアル湯治アタックもいよいよ大詰めだ。

正直もう体はいっぱいいっぱいで、「もう湯は十分だって」と体が訴えてくるけれど、あと少し我慢だ。

いや、我慢とか言ってはいけない。湯は楽しむものだ、我慢するものではない。

最後まで、そして最後だからこそより湯を楽しまなければ。

すっかり日の暮れた道を歩いて街はずれを目指す。

最後の外湯は他のものと比べて特に集落の端にある。

そのため他の外湯はどこから入っていこうか順番をしっかり決めておらず、行きやすいところから入っていけばいいと考えていたのだが、この湯だけは最初、もしくは最後に入ると決めていた。途中で入りに行くとなると時間のロスになるからだ。

集落の端はより街灯と人の数が少ない。足元も見えづらい道をそっと歩きつつ、地図を見ながら目的地を目指す。

そしてやっと、私は最後である13番目の外湯へとたどり着いた。


中尾の湯
柱があるので斜めから見る。堅実な看板が客を横目で見ている


13番目の外湯、『中尾の湯』である。

泉質は含石膏-食塩・硫黄泉。源泉はやはり麻釜。効能も麻釜と同じだ。

もはや辺りが暗くて写真を撮っても外観をまったく上手く撮れず、玄関だけを撮っておいた。

他の外湯よりも大きな建物で、外湯の中では一番大きい木造建築の建物だ。

建物の前には駐車場もあり広々としている。集落の端である立地の利点を生かしているようだ。

さあ、最後の外湯だ。満を持して入らせてもらおう。

中は変わることなく脱衣所と浴室が一体となった造り。衣服と荷物を置き場に置いたら、そのまま浴室の石造りの床へと降りていける。

やはりというか、室内はかなり広い。歩ける床の面積も広く、真ん中に埋まった浴槽もまた広い。外観の大きさは見掛け倒しではないのだ。

浴槽は中ほどに仕切りがされ、湯温が分けられている。ぬるめと熱め、好みの湯へと入れる。

浴室にはこれまでのどの外湯よりも多い先客たちがいて、思い思いに湯船の中で体を弛緩させていた。私が湯に入ろうとすると一斉に一瞥をしてくる。

これまでで一番アウェーを感じる外湯だ。

だがそれも仕方なし。彼らは住民で私は客。時間帯的にも地元民たちが湯を使う時間なのだ。

まあしかし、私は別に悪いことをしているわけではないので、静かに湯を楽しませていただこう。

少し熱めな湯に入れば、ホッとした達成感がじんわりとしてくる。はぁ、ここに入れば最後だな、結構長かった。

まさかいきなり入ってきた見知らぬ男の客が、他の外湯を全部巡ってきた後だなんて周りの人々は知る由もないだろう。

なんだこいつは、そんな風に思っているのだとしたら答えてあげよう。私はあなた方が守り続けてきた外湯すべてに入湯してきた男です。

はい、良い湯でしたよ、もちろん。たいだいは熱くて大変でしたけどね。

そう心で思いながら、私はやおら湯から出た。またしても私を一瞥してくる入浴客たち。なんだ、もう上がるのか? まだ全然湯に浸かってないじゃないか。彼らの心の声が聞こえてくるようだ。

だが申し訳ない。私はもう限界である。のぼせの苦しさはよくよく知っているので、カラスの行水を許してもらいたい。

皆さんはどうぞ今日の疲れを湯の熱さで吹き飛ばしてください。私は早く、この湯の熱さを外の冷風で吹き飛ばさせていただきます。

私はそうして、拭いても噴き出す汗をそのまま服を着て外へと飛び出したのだった。

なんとも締まらない最後だ。


中尾の湯のスタンプ

これにて13番目の外湯、『中尾の湯』制覇である。

そしてこれで、外湯すべてを制覇!

お疲れ様、自分! 

そしてここでタイマーストップ!

野沢温泉にある13の外湯を一日で全部巡ると、時間はいったいどのくらいかかるのか?

その答えは……



RTAの記録!

3時間43分53秒だった!

ということで野沢温泉の外湯を一日ですべて巡りたかったら、4時間あれば巡りきれるということだ。

まあでもかなりの駆け足巡りであって、ゆっくり楽しみたいのならもっと時間は必要だ。

私自身、湯に浸かったのに大変に疲れた。癒しを求めてのRTAはなかなかコツが要るだろう。

もし一日での湯巡りを計画している人は、この記録を参考に予定を立ててみてはいかがだろうか。



さて完走した完走だが、13も湯へ入るなんてできるだろうかと思ってはいたが、やってみればなんとかなるものだ。

しかし結構きつかった。もう少し余裕を持ちながら巡ればそうでもなかっただろうが、半日で巡ってしまおうとしたから大変だったのだ。

湯はゆっくり楽しむもの。急いではいけないのである。

しかし、やはり長きにわたり守られてきた外湯は普通の湯とは違った魅力がある。

外湯文化は消えつつあるものだが、野沢温泉にこれほど多くの外湯が、しかも自由に使わせてもらえる状態で残っているのは本当に奇跡だ。

どうかこれからも変わることなく未来に受け継がれてほしい。

私はそう祈っているのである。



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