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バイセクシャルという自分を生きる ソラくんの場合~前篇~

【オフィスO'rakaと稲垣の理念に共感し、LGBTQの当事者である「B」(バイ=バイセクシャル)の男性、ソラくん(仮名)が取材に応じてくれた。自分のあまり知らない世界のことを聞いている時間はとても楽しく、スリリングで、発見の連続だ。素敵な時間を提供してくれた彼に感謝したい。どうもありがとう。彼の経験や私の考えなどを、前後篇に分けてリポートする。前篇ではソラくん自身のことをお話ししよう】
※稲垣はLGBTQの〝アライ″(所謂「理解者」)を自認しているが、専門家ではないので表現などに多少配慮に欠いた部分があるかもしれない。その場合は、やさーーしくご指摘・ご指南願いたい。ぜひ寛容・鷹揚な気持ちで御笑読下されば幸いだ。

 ソラくんは、3人きょうだいの末っ子。私より10ほど年下で、20代半ば。西日本のいわゆる地方都市で高校まで過ごし、卒業後に上京して現在は都内で働いている。性自認は男性、身体も男性だ。性志向、つまり「どういう相手を好きになるか?」がB、すなわちバイセクシャル。男性も女性も恋愛対象という志向のことである。


きっかけは”たまたま”

 ソラくんが、男性との性に触れたのは中学2年生の時だった。多くの少年がそうであるように、えっちな動画を検索していてたまたま男性同士のポルノが表示され、興味本位で見たことだったという。

 ソラくん「見ても、特になんとも思わなかったんですよね。それで、『あ、自分は男もいけるんじゃないかな?』って」

 その後、女性との交際を経て、男性と初めて肉体関係を持ったのは18歳の時。気持ちよさと、終わった後の『賢者タイム』まで、男性と女性のセックスと何ら変わりはないらしい。


女性のストライクゾーンは針の穴

 ソラくん「女性のストライクゾーンがめちゃくちゃ狭いんです」

 ソラくんが女性と付き合ったのは2~3人くらいである一方、男性とは数十人と関係を持ったという。男女どっちを好きになるのかは、どうやって決まるのだろう?バイオリズムみたいなものがあるのか、或いは男女交互だったりするのか?いろいろ考えていたが答えは出なかったので、当事者に訊いたほうが早いだろうと思い、ソラくんに訊いてみた。そうして返ってきた答えがストライクゾーンの話だった。

 「好きになる女の子は本当に少ない。でも、男性なら誰とでもとは云わないですけど、結構守備範囲が広いです。男女どっちと付き合うかは決まってないけど、ストライクゾーンが広い分、男性との機会が増えていくのは当たり前ですよね」とのこと。なるほど、よく考えりゃそりゃそーだ。 


受け容れてくれたのは

 そんなソラくん、数年前まで結婚を考えていた女性と付き合っていた。当然、母親にも話をしていたそうだが、しばらくして交際は終わりを告げる。そして、その報告をするのと同時に、母親にはバイセクシャルであることを打ち明けた。母親の反応は「そうなの」くらいの軽いもので、特別驚きなどの大きな反応はなかったという。今でも、家族で知っているのは母親だけだという。

 ソラくん「母親とは仲も良かったし、結婚するかどうかわからないから、伝えておこうかな、くらいの感覚かな」

 それでも、彼が育ったのは前述したように地方都市だ。土地柄、地域社会もそれほど大きくはなく、うわさ話などは容易く広がってしまうだろう。それもあり、父親には話せていないということなのだそう。家族の誰に自分の性志向を打ち明けるか、という話。このあたりの話は、後編で詳しく触れたいと思う。


バイやゲイの恋愛

 さて、ゲイやバイの人はどんな恋愛をするのか。ヘテロセクシャル(異性愛者、ゲイやバイの人が云う所の「ノンケ」)と同じように、ゲイやバイの人たちも本当に楽しく恋愛をしているようだ。私はいまはヘテロセクシャルなので、直接経験することが現在のところないので、伝聞でしかその実際を知ることはできない。せっかくソラくんから聞いたのだから、ここで少し紹介しておく。

▼ソラくん、ゲイの人に「バイなんて甘えてる」と云われる

 ゲイの人が好きになった男がバイだった場合、「いざとなったら女に逃げる」と受け取る人もいるようだ。実際、バイの人がゲイの人と別れて、その後に異性愛者の女性と付き合うことはままあることらしい。バイを恋人にするゲイの人の場合、恋敵が男女いずれの性にもなりうるわけであり、心配も2倍になる。関係を深化させておく努力が常に求められそう。

▼温泉デートで優越感&危機感

 異性同士のカップルの場合、温泉では貸切家族風呂などを借りない限り、大きい浴場で一緒に入浴することは不可能だ。しかし男性カップルの場合、人目を気にすることなく堂々と一緒に入浴を楽しめるのが大きなメリットだという。だが、ここには大きな落とし穴が存在する。

 それは、

「お互いの恋愛対象たり得る他の男が素っ裸で闊歩している」

 ということである。目移りの危険が爆増するのだから、浴場デートは双方にとって諸刃の剣でもあると云えそうだ。異性愛者の男子同志に訊きたい。女湯で彼女とデートができるとなった場合、脇目も振らずに彼女だけを見ていられるか??自信がある方はぜひツイッターやDMなどで教えてほしい。そんな奴はいないと稲垣は思っている。

▼既婚者ブランド

 女子高生やギャルが大好きだという男、芸人やスポーツ選手ばかりが大好物という女がいるように、ゲイやバイの人たちにも、一部で人気のジャンル(?)があるらしい。それは「既婚者」。異性と結婚しているが実はゲイやバイだよ、という人もいて、私の知り合いにもいる。妻や夫が知っている場合もあれば、知らずに結婚している場合もあるらしいが、そうした既婚者だけと関係を持ちたがる人が、一定数いるそうである。いわゆる「NTR」というジャンルが大人のビデオ界隈ではあるが、それに近い感覚が男性同士でもあるということなのだろうか。ちなみに「NTR」ジャンルは私には全くわかりません。そのうち良いと思う日も来るのかなぁ。


今後の日本社会の課題

 取材に快く応じてくれたソラくん。終始、包み隠さず本音で語ってくれた。本当にありがたい。

 ストライクゾーンの大小ゆえ、男性と付き合ったり、関係を結ぶことのほうが、これから先も多そうだというソラくん。最後に、日本社会でこれからも生きていく上で、何を思うか訊いてみた。

 ソラくん「同性愛の関係にも、法的保護があってほしいです。やっぱり、手術の同意とかができなかったり、子どももそうですし・・・。男性カップルで結婚したりできればいいけど、仮に代理母出産で子どもを持ったとして、子どもに『どうしてうちはパパしかいないの?』ということで何か辛い思いをさせるのはなぁ、とも思いますね」

 ソラくんは、社会的にLGBTQの認知が進み、各自治体でパートナーシップ制度などが導入されたことはとても良いことだと考えている。だが、やはり夫婦関係と違い法的保護がないことが、依然として大きな問題だと思っているようだ。代理母出産などで、男性同士のカップルでも子を持つことは可能だが、学校が、職場が、地域社会が、そうした家族を受け容れる環境に生まれ変わってゆけるか。LGBTQの問題は、当事者だけではなく、マイノリティーの理解者のことを指す「アライ」をどれだけ増やし、真の意味で多様性を包摂した成熟した社会にしていけるかの問題でもある。

 ソラくんの言葉に、彼の懊悩の深さが滲み出る。性的志向は、自分ではどうしようもないことである。私もどちらかと云えば普遍的な価値観にそぐわぬ志向を持ち、当たり前で品行方正とは違った生き方をしてきた。種類は違えど、多少はソラくんの悩みもわかるような気がする。そうした志向で悩み、傷つく人が1人でも減ることを願って前篇は筆を擱(お)く。後篇では、ソラくんと話した内容をもう少し深掘りしつつ、話を展開したい。



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オフィスO'raka 代表 稲垣佑透
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